第二百話 フィスティングの現状
翌日。
オレはカレンの紹介状を持って、
リアーナ内にあるフィスティングジムや道場を訪ねた。
紹介状の効果は抜群で、
ジムの会長や道場主は新参者のオレを快く受け入れてくれた。
そしてオレはとりあえず模擬戦を中心に練習に励んだ。
オレはフィスティングプロの拳士相手に互角以上に打ち合った。
フィスティングのプロ拳士は大まかに3つに分けられる。
まずランクはA、B、Cの三つのランクに分けられる。
一番下のC級はデビュー前の新人、そして公式戦で四勝未満の者が
この級に分類される。 C級は公式戦で四勝すれば、B級に昇格できる。
B級は公式戦四勝以上、そしてB級以上の者との
公式戦に2勝すれば、A級に昇格。
だが公式戦で五連敗すれば、C級に降格させられる。
A級に達するには、最低でも公式戦で六勝以上する必要がある。
そしてB級同様、公式戦で五連敗すれば、B級に降格。
A級で結果を出すと、各階級ごとにあるランキングにランクインされる。
階級は全部で三つあり、軽い階級からライト級、ミドル級、ヘビー級に分けられている。
基本はヒューマン領、エルフ領、竜人領、猫族領と
各大陸及び種族ごとにランキング分けがされるが、
現在は戦争状態に加えて、エルフ領が魔王軍に侵攻された為、
エルフ領のランキングは一時的に凍結された状態だ。
まあそれはさておき、種族ごとの王者になれたら、
大陸間のチャンピオンシップを行う事が可能だ。
一般的には、四大種族の統一王者が最強とされているが、
実際には精々行われて、大陸間王者同士の戦いまでで、
四大種族の統一王者が生まれることは殆ど無い。
この辺は経済的事情だけでなく、政治的事情も絡んでるから、少し難しい。
だから各大陸で年に二回無差別級のトーナメント大会が行われ、
トーナメント戦に限っては、A、B、Cの区分はなく、
単純に勝ち上がった者が強いとされるので、
こちらの大会形式の方が客受けが良い。
そしてその無差別級のトーナメント大会の中でも一際大きな大会が
ここリアーナで行われる『四種族混合・無差別級フィスティング大会』だ。
なにせ四大種族混合という部分が観客の興味を大きく引いている。
特にその中でも根強い人気を誇るのは猫族だ。
いかんせん、あの見た目だ。
猫族がフィスティングをすると、何気ない動作でもコミカルテイストになり、猫族対猫族のリアル・キャットファイトはかなり人気がある。
しかしその他の三種族からすれば、猫族相手の戦いはやりにくい。
まず体格に大きな差があるので、かなり戦いにくい。
また猫族と三大種族と戦う時は、猫族ルールが導入されて、
通常のファイトとは違うルールになるので、やってる方は頭が混乱する。
更には猫族側は、そのルールを最大限に生かして、
あの手この手で勝利を掴みに来るから、厄介だ。
例えば三種族のみのルールだと、ベルトライン以下のダッキングは反則扱いだが、
猫族相手だと、ベルトライン以下のダッキングをしても反則にならない。
これは背の低い猫族と正面で打ち合うと、
他の三種族は身を屈める必要があるので、導入された猫族ルールだ。
このように例を挙げていくと、本当に細かいところで面倒になる。
まあ普通に戦ったら、ハッキリ云って猫族は弱い。 そりゃそうだ。 精々60~80セレチ(約60~80センチ)程度の大きさだからな。 でも極まれに物凄く強い、というか試合巧者の猫族も居るらしい。 そう言う意味じゃ、対猫族戦を想定して練習しておく必要があるな。
そうこう考えながら、オレは拠点の食堂で遅めの朝食を取った。
ここ数日はジムや道場で模擬戦をしていたが、
この後に職業ギルドに出向いて、
『四種族混合・無差別級フィスティング大会』について色々調べるつもりだ。
まあ正直云えばオレは優勝や優勝賞金には興味が無い。
だが準優勝まで与えられる上級職・黄金の手の転職の資格はなんとしても欲しい。
なんというか、オレの勘だがオレは黄金の手の職業適性があると思う。
まあそれにこの機会を逃せば、上級職になるチャンスはしばらくなさそうだ。
だから厳しいかもしれないが、オレは大会で準優勝以上を目指すぜ。
「あ、ラサミス。 まだ朝ご飯食べてなかったの?」
「あらら、ラサミスは相変わらずお寝坊さんですわね」
「おう、メイリン、エリス、おはようさん」
「ラサミスお兄ちゃん、おはよう~」
「おう、マリベーレ。 おはよう!」
「ねえ、ねえ、ラサミス。 少し話を聞いてよ~」
と、メイリンがオレの対面の席に座り、愚痴を言い始めた。
「ん? どうしたんだ?」
「それがさぁ~、あたし達、猫族のサーカスに行こうとしたんだけど、
チケットが全然取れないのよ! 仕方ないから、もうダフ屋で購入しようと思ってる」
「まあ猫族のサーカスはリアーナの名物の一つだからな。
ちなみに通常価格はいくらなんだ?」
「ん? 一人、二万グラン(約二万円)よ?」
「ふうん、意外と安いな。 でダフ屋だといくらなんだ?」
するとメイリンはぶすっとした表情で「……10万」と答えた。
「た、高っ!? お、お前……まさか買う気じゃねえだろうな!?」
するとメイリンだけでなく、エリスもぷいっと視線を逸らした。
こ、こいつら……買う気満々だな。
まあそりゃ自分の金だし、オレが文句を云う筋合いでもないが
流石に一枚10万はぼったくり過ぎるだろ!
「だって観たいだもん! ねえ、エリス、マリベーレちゃん!」
「そうですわ!」「う、うん」
「ね、連合軍に所属しているから、お給料も毎月貰えるし、
たまの休みくらい遊んでもいいでしょ!」
「お、おう!」
なんかメイリンに言い負かされたぜ。
ちなみにオレ達、A級の冒険者の一ヶ月の給料は80万グラン(約80万円)。
ドラガンや兄貴、アイラなどのS級の冒険者の一ヶ月の給料は100万グラン(約100万円)だ。
「というかミネルバは居ないのか?」
「ああ~、ミネルバなら職業ギルドよ。
なんでも騎乗竜の騎乗に慣れてきたから、
飛竜に乗る練習も始めたみたい」
と、メイリン。
そうか、ミネルバも着々と成長してるようだな。
その時、食堂にドラガンが顔を出してきた。
「なんだ、お前等。 何を話しているんだ?」
「あぁっ! ドラさん、ドラさん。 お願いがあるんスよ!」
「ニャ、ニャに? と、というかドラさんじゃない、団長と呼べ!」
「ういっす、では団長様。 お願いがあるッス!」
「……な、何かニャ?」
ドラガンは鼻息を荒くしたメイリンにやや戸惑っている様子。
「団長様、団長様のコネで、
猫族のサーカスのチケットを三枚取ってください!」
「い、いや急に言われても困るんだが……?」
「そこをなんとかオナシャス!」
「わ、分かったよ。 今日、ちょっと他の芸人一座の座長と合うから、
それとなく頼んでおくよ。 でも通常価格では入手できないと思うぞ?」
「いいですよ、最悪9万までなら出せます!」と、メイリン。
「9万って……まあいいや。 とにかく色々当たってみるよ」
「はい、ありがとうございます!!」
と、ドラガンは勢いよく頭を下げた。
やれやれ、ドラガンもとんだ災難だな。
でも見ていて癒やされるのも事実。
やはり平和が一番だな。
さてとオレも職業ギルドに向かうか。
次回の更新は2021年3月10日(水)の予定です。




