第百九十一話 雷光(らいこう)のライル
---三人称視点---
ライルは床を駆けながら、右手に持った白刃の宝剣に闘気を宿らせた。
宿らせる闘気は水と風の闘気。
そして真の狙いは、その二つの属性を合成して、
生まれる電撃属性の闘気を宿らせることだ。
熟練の魔導士ならば、水と風の合成はそれ程、難しいことではない。
だが水と風の闘気を合成して、電撃属性の闘気を宿らせる事は非常に難しい。 この辺りは魔法による合成と闘気による合成の差だ。
一流の剣士、攻撃役ならば闘気を宿らせることや、纏うことは誰でも出来るが、合成となると話は別となる。 付与魔法ならば、比較的簡単に電撃属性を宿らせることが可能だが、剣士タイプの職業が電撃属性を生み出すことは、至難の業だ。
しかしライルにはそれが可能だ。
そう、彼のもう一つの独創的技が電撃属性の剣技なのだ。 技名は『神速雷光剣』。
その名の通り、神速の速さで電撃属性の剣技を放つというライルの隠し技だ。 この技に関しては、ラサミス達は当然として、ドラガンやアイラすら見たどころか、その存在すら知らない。 またライルにしても、徹底した秘密主義で誰にも見せない、どころか、話したことすらなかった。
云うならばこの剣技は秘中の秘。
ライルはこの剣技はいつかとてつもない強敵と相打つことを想定して生み出した。 その為に何度も反復練習を重ねた。 何度も何度も闘気の合成に失敗した。
実際ライルがこの剣技を完全に使いこなせるようになったのはごく最近だ。それはザンバルドとの前回の戦い、そして港町クルレーベでのプラムナイザーとの戦いを経験してから、ライルは真剣にこの剣技を使うことを考慮し始めた。
魔王軍の幹部はライルが想像していた以上に強かった。
それまでは自分の強さにそれなりの自信を持っていたが、その自惚れも打ち砕かれた。 だから仲間や他の者が見てない時に、ひたすら鍛錬を重ねた。 そして最近ようやく完全に使いこなせるようになった。 ライルの持つ宝剣の剣身が次第にバチバチと雷流を宿らせ始めた。
――だがこの技も一度しか通じないだろう。
――だから初太刀で殺るつもりだ。
――奴は超人的な戦闘センスの持ち主だか――
「!?」
爆煙で視界不良だったが、薄い煙越しに人影がうっすらと見えた。
体格からして、ザンバルドなのは間違いない。
問題なのはその右手に鎌状の武器が握られていたことだ。
ライルの防衛本能が最大限の警鐘を鳴らした。
――来る、奴は恐らくあの技で殺しに来る!?
――問題はどちらに回避するかだ、上か、下か!?
「――貰ったァァァッ!! 『虐殺の円舞曲』!!」
すると前方の人影は漆黒の大鎌をぐるりと水平に振り回した。
それと同時にライルは地面に伏せて、身を屈めながら、
左足を前にして、右足で身体を支えながら、床をスライディングした。
そしてザンバルドの左足に強烈なスライディングを喰らわせた。
するとザンバルドは、スライディングの衝撃で身体のバランスを崩した。
ライルはそれと同時に床から起き上がり、
水色の盾を投げ捨て、両手で白刃の宝剣を握りしめた。
「ぐっ!? き、機転の利く野郎だ」
「――秘剣・神速雷光剣』」
ライルが眉間に力を篭めて、最大限に集中力を高めた。
するとライルの宝剣が白い稲光を発し始めた。
「ハアアアァァァ――――!!」
と、ライルが腹から声を出して、魔力を解放する。
ギュアアアアン! という甲高い音とともに、宝剣を覆った光が眩く白い輝きを放つ。
そしてライルは光り輝いた宝剣を手にして、突貫する。
「うおおおおお……おおお!!」
ライルはそう叫びながら、稲妻の剣と化した宝剣の切っ先をザンバルドの胸部に命中させた。
「グ……グアァァァァ――」という耳を劈く悲鳴を上げるザンバルド。
だがライルは更に力を篭める。
――こいつを倒すチャンスはこの瞬間しかない!
――だから俺は容赦しない。
剣が食い込んだ胸部が、高温の電撃を浴びたように、たちまち赤熱する。
光の輝きがみるみる内に、ザンバルドの胸部を中心に広がり始める。
――このまま、一気に決める!!
ライルは内心でそう叫び、ありったけの闘気を降り注ぐ。
「グウウウゥ……ァァァアアアアアアァッ――――!!」
ザンバルドがこの世の終わりのような苦痛の悲鳴を上げる。
だがライルは動じない。 心を凍らせて、ライルは手にした稲妻の剣を躊躇なく一閃させた。
びりっ、と空気が震え、ザンバルドの胸部から赤い鮮血が噴き上げた。
するとザンバルドはもんどり打って、背中から床に倒れ込んだ。
胸部に大きな空洞が生じて、ザンバルドの生命力が急速に奪われていく。
魔将軍ザンバルドはプルプルと体を揺らせて、言葉を絞り出した。
「……こ、この勝負、テメエの――勝ちだ」
ザンバルドが戦意喪失したことにより、ライルの勝利が確定した。
だがそれと同時にライルも床に左膝をついた。
一見すれば、ライルの圧勝に見えるが、実はかなり際どい勝負でもあった。
少なくとも勝者であるライルは、そう感じていた。
そして戦いが終わるなり、全身に疲労感が押し寄せてきた。
だが今のライルは勝利の余韻に浸る余裕はなかった。
しかしこれで連合軍が魔王軍の幹部を初めて倒したという結果は残った。
それは連合軍だけでなく、魔王軍にとっても、今後の戦局を変える戦果となった。
だが当事者であるライル、それを傍観していたラサミス達は、
あまりにも凄まじい戦いに、我を忘れて、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
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