第百八十三話 エルドリア城の戦い(前編)
そして攻城戦が始まった。
アイザック率いる右翼部隊と山猫騎士団、ヒューマンの王国騎士団、
腕ききの冒険者、傭兵で構成された攻城部隊が先陣に立ち、破城槌を持った部隊とそれを守る防御役、魔法部隊が前進していく。
エルドリア城の城門に近づくと、城壁の上から投石が降り注いで来た。
だがそれと同時に魔法部隊が初級及び中級の風魔法を放って、石の雨は次々と吹き飛ばされていった。
すると城壁の上から、敵の魔導士部隊が攻撃魔法も放ってきた。 その魔法も、魔法部隊が対魔結界を張る、あるいはレジストさせて、味方を守った。 連合軍はそのまま勢いに乗って城門を突破しようとしたが、その前に一瞬、城門が開いて、蜜に群がる蟻のように大量の人影が溢れ出た。 その数、数十体。 そして再び閉められる城門。
「……まだあんなに敵が残っていたのか。 いやアレは……」
と、アイザック。
「あれはゴーレムですね」と、冷静に分析するライル。
「成る程、戦力差を埋めるには都合の良い道具ですな」と、ドラガン。
「団長、落ち着いている場合じゃねえぞ? どうするんだよ!?」
と、ボバンが問うた。
するとアイザックは落ち着いた表情でこう言った。
「慌てる必要はない。 基本的に猫族領での戦いと同じ戦術で行くぞ。 こちらの魔法部隊でゴーレムを氷結させて、風魔法で魔力反応『分解』を起こすんだ。 いいか、必ず『分解』で倒すんだ! 恐らく場内にもたくさんのゴーレムが待機してるだろう、だから場内では火炎、光魔法は使うな。 下手すればこっちが窒息死する」
「そうだな、それがよかろう」
ネイティブ・ガーディアンの賢者ベルロームがそう言って相槌を打つ。
「分かりました。 メイリン、この間のように連携するわよ!」
「了解ッス、リリアさん!!」
魔導士リリアの言葉にメイリンが小さく頷いた。
すると賢者ベルロームは手にした両手杖で、素早く地面に魔方陣を描き、両手で印を結んだ。
「我が名はベルローム。 神祖エルドリアよ、我に力を与えたまえ! はあぁぁぁぁぁあぁっ!! 二重詠唱ッ!!」
ベルロームはそう叫んで、職業能力・二重詠唱を発動させた。 この能力を発動させると、連続して魔法を放つことができる。 同属性、あるいは異なる属性の魔法が連続して使える為、一人で単独連携することも可能だ。 そしてベルロームはこの場における最適解の魔法攻撃を唱えた。
「我は汝。 汝は我。 我が名はベルローム。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! ふんっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」
ベルロームはまずは上級氷魔法を詠唱。
するとベルロームが手にした杖の先端の赤い魔石が眩く光り、大冷気が放出された。
大冷気に呑まれてたゴーレム達がカチカチに凍り付いた。
そして間髪入れずに、第二射が放たれる。
「我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、我に力を与えたまえ! 消え去れっ!! 『アーク・テンペスト』!!」
ベルロームが続けざまに上級風魔法を唱えた。
激しく渦巻いた旋風が、氷結したゴーレム達の身体に命中。
すると狙い通りに魔力反応『分解』が発生。
氷結したゴーレムの身体に放射状に皹が入り、粉々に砕け散った。
十体以上のゴーレムが同じように次々と砕け散る。
ベルロームはたった一人で魔法攻撃による単独連携を歓声させた。
これには周囲の味方も唖然としていた。
「す、凄いッス!! ベルロームさん!!」と、興奮気味に叫ぶメイリン。
「メイリン、お喋りはなしよ! 私達も後に続くわよ!!」
「はいッス、リリアさん!!」
「我は汝。 汝は我。 我が名はリリア。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ!『シューティング・ブリザード』ッ!」
「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 行くけえぇぇぇっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」
メイリン達の後に続くように他の魔法部隊も氷属性から風魔法のコンボを繰り返した。 そしてゴーレム達は、砕けたグラスのように身体が砕けて周囲に飛散する。
また竜騎士の飛龍に相乗りした猫族の魔導猫騎士達が上空から魔法を撃ち続ける。 その間に連合軍の前衛部隊が次々と破壊していく。 前衛部隊の怒濤の攻撃により、次々と撃破されていくゴーレム達。
そして破城槌を持った部隊が城門に激突する。
防御役と対魔結界に護られながら、三部隊が時間差をつけて、交互に槌を打ちつけていった。 何度も何度も突撃して、とうとう城門が打ち破れた。 すると先行していたバイスロン・アームロックが高らかと叫んだ。
「よし、城門は打ち破られた。 残すは城内の敵のみ! ヒューマン王国騎士団の精鋭達よ! この私に続けえぇぇぇっ!!」
「おおおぉっ!!」
そう言って、
先陣を切るバイスロン・アームラック率いるヒューマン王国騎士団の騎士達。
これにはアイザックやライル、ドラガンも閉口した。
散々他の部隊を働かせて、自分達が美味しいところを持っていくという浅ましい魂胆。
「やれやれ、実にヒューマンらしい」と、珍しく愚痴をこぼすアイザック。
「ですが恐らく城内には様々な罠が仕掛けられているでしょう。 ここは彼等を先行させて、我々は様子を見ましょう」
「おお、そりゃ名案だぜ。 ドラガンさん、よぉ~」
ドラガンの言葉にボバンだけでなく、周囲の味方も相槌を打った。
「よし、とりあえず俺達は第二陣として様子を見るぞ。 ボバン、それと『暁の大地』の面々は俺について来い!」
「了解だぜ!」と、大きな声で返事するボバン。
『暁の大地』の面々も「はい!」と口を揃えて、うなずくと、アイザックの後に続き、エルドリア城の内部へと突入していった。
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