表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/713

第百七十七話 レフ対グリファム

累計45000PV達成!

これも全て読者の皆様のおかげです!




「フン!」


「させるかぁ!」


 そう叫びながら、二人が一合、二合と切り結んだ回数は既に十を超えた。

 レフが身長201セレチ(約201センチ)に対して、グリファムは220セレチ(約220センチ)を超える巨体。 単純な体格差は約20セレチ(約20センチ)近くあるが、レフはそれをものともせず、むしろ互角以上に戦っていた。


 共に飛竜とグリフォンに騎乗しながら、空中で何度も何度も切り結ぶうちに妙な気持ちが沸き上がる。 それは戦う相手に対する敬意の念だ。

 むろん彼等は敵同士。 両者ともそれは理解している。

 だがそれでも強者に対しては、最低限の敬意を払ってしまう。

 そういう面では二人は似ていたのかもしれない。


「ふふふっ。 貴様、なかなかやるではないか?」


「……貴様もな」


 グリファムの言葉にレフは短くそう返した。

 周囲の部下達も固唾を飲んで、二人の戦いを見入っていた。

 そういう意味ではこの余興は現時点では、成功している。

 だが彼等は指揮官。 独りよがりの戦いに溺れるわけにはいかなかった。


 このような馬鹿げた一騎打ちに応じたのも全ては、部下達や敵の前で相手の指揮官を打ち倒すというのが主目的。


 それが叶えば、味方の士気は上がり、敵の士気は必然的に下がる。

 だがそうそう簡単に勝てる相手ではない。

 下手すればこちらが負ける。

 それぐらい眼前の男は強い。

 程度の差はあれ、レフもグリファムも似たような事を考えていた。

 ならばそろそろこちらから仕掛けるか。

 と思いつつもそれがなかなか実行できない。


 お互いにまるで隙がないのだ。 そうした中でも互いに騎乗する飛竜とグリフォンの二本の手綱を片手で保持したまま、ゆっくりとゆっくりと間合いを詰める。 そして射程圏に入ったところで、グリファムが先に仕掛けた。


「――ブラッド・クラッシュ!!」


 グリファムはグリフォンに騎乗しながら、竜骨の戦斧に闇の闘気オーラを注ぎ込んで、全力で振るった。 レフは一瞬、黄金の斧槍ハルバードの斧刃で受け止めるか、と思ったが、即座にその考えを捨てた。 この一撃を耐えるのは難しい。 ――ならば!


「――アクセル・ターン!」


 レフは咄嗟に上級風魔法『アクセル・ターン』を唱えた。 すると彼が騎乗した黄金の飛竜は、高速でターン旋回しながら、迫り来る竜骨の戦斧を華麗に回避して、グリファムの背後を取った。 レフはその間隙を逃さず、右手に持った黄金の斧槍ハルバードに光の闘気オーラを宿らせながら――


「貰ったぁっ! ――ヘキサ・スキュアー!!」


 スキル名をそう叫びながら、帝王級の槍術スキルを放った。

 黄金の斧槍ハルバードの穂先を神速の速さで、前方に突き刺した。

 高速で繰り出される六連撃の突きが見事に命中。


「ぐはっ!?」


 堪らず呻くグリファム。

 鎧の上から刺したが、穂先に宿らせた光の闘気オーラが鎧越しに衝撃が浸透して、グリファムに十分な痛みを与えたようだ。 ならば一気に勝負に出るべきだ!


 レフがそう思った矢先に、異変が起きた。

 態勢を崩していたグリファムが急遽反転して、右手に持った竜骨の戦斧の斧刃を素早く水平に振るった。


「――ネック・チョッパー!!」


「!?」


 まさかの反撃にレフも一瞬戸惑った。

 だが条件反射的に手にした斧槍ハルバードの斧刃で水平に振るわれた竜骨の戦斧を防御ガードした。 もし後、半瞬ほど反応が遅れていたら、今の一撃で首を刎ねられていたかもしれない。


 しかし完全に防御ガードするには至らず、斬撃による衝撃で飛竜と共に後ろに大きく後退するレフ。 するとグリファムは手綱を持っていた左手を前方に突き立てて、眉間に力を篭めた。


 ――まずいっ!?


 レフはそう思いながら、斧槍ハルバードを構えながら、全身に風の闘気オーラを纏った。 次の瞬間、レフと黄金の飛竜は激しい衝撃に襲われた。 何を受けたかは大体想像はつく。


 恐らくグリファムは無詠唱で魔法攻撃をしたのであろう。

 敵の幹部クラスが無詠唱で魔法攻撃するということは、予め聞かされていた。 だがいざ体験してみると、その速度速度と威力に圧倒されるレフ。

 

 いやレフ自体は咄嗟に風の闘気オーラを纏ったので、なんとかその衝撃に耐えることができた。 レフの纏う黄金の鎧は、宝具ほうぐの類で耐魔力もかなり高い。 故にグリファムの咄嗟の無詠唱攻撃にも闘気オーラを纏うことで、なんとか耐えることができた。


「ギャウッ!?」


 だが彼は耐えられても、彼が騎乗する飛竜は耐えられなかった。

 もちろんレフが騎乗する黄金の飛竜は、並みの飛竜ではなかった。

 いやハッキリ云えば、調教に調教を重ね、更に研究を重ねた配合で産まれた超一流の飛竜であった。


 主人にはとても従順だが、けして臆病ではない。

 いやむしろ勇敢だ。 未知なる存在と遭遇しても、警戒こそするが、突如逃げ出したり、過剰に怯えることもない。


 危険察知能力が異様に高く危険を察知した時は、それをあるじに伝える。 といった感じに騎乗者にとって、欠かせない存在だった。


 だがとは云え、未経験な状況に陥るとやはり動揺はする。

 少なくとも、今のグリファムの無詠唱攻撃で一時的に混乱している。

 それを即座に看破したグリファムは、一気に攻勢に出た。


「――隙あり! ブルーティッシュ・ラッシュ!!」



 グリファムはそう叫ぶなり、両手で持った竜骨の戦斧でひたすら乱打ラッシュを繰り出した。 それは只の力押しの乱打ラッシュの連打だった。 しかし戦いの局面においては、こういう力押しで攻める事も時として必要とされる。


 色々と心理的な駆け引きや策を弄するのも戦いの一つだが、戦いの本質は相手に対する破壊行動。 ましてグリファムは獣魔王ビースト・キングと呼ばれる魔族。 故にこのような力押しの戦いの方が部下に好まれる傾向が強い。


 だからグリファムは本能の赴くまま、ただひたすらに戦斧を振るった。

 乱打ラッシュ乱打ラッシュ乱打ラッシュ乱打ラッシュの嵐。

 

「す、凄い! ラッシュだ、流石は獣魔王ビースト・キング!」


「だ、だがあの黄金の騎士もなんとか耐えているぞ!」


「ああ、グリファム様の疾風怒涛の連撃に耐えるだけでも、奴がかなりの使い手ということが分かる。 だがいつまで持つかな?」


 観客ギャラリーと化した周囲の獣魔団の兵士達が口々に好き勝手に戦いの評論を始めた。

一方の竜騎士団の面々は非常に渋い、あるいは険しい表情で騎士団長レフの戦いを見守っていた。


「くっ……このままじゃ団長が危ないわ!」


「カチュア、気持ちは分かるが、ここは団長を信じるんだ!」


 苛立つカチュアを副団長のロムスがそう言って諭した。

 

「で、でもこのままじゃ団長が死んでしまうわ!」


「いやカチュア、よく見ろ! 団長はギリギリのところで耐えている」


「え?」


 カチュアはロムスに指摘されて、前方で戦う二人を注意深く観察してみた。

 確かに相手の猛攻でレフは押されている。 これは明白だ。

 だがよくよく注意深く見ていると、レフは相手の猛攻を受け止めたり、受け流したり、切り払ったりと防御ガードに徹しながら、なんとか耐えている。


 次第に防御ガードだけでなく、避けたりする回避行動が目立ち始めた。 また彼が騎乗する黄金の飛竜も落ち着き取り戻していた。 現時点では防戦一方に見えるが、恐らくレフは必死に耐えて反撃の機会を待っているのだろう。


「……今は防御に徹して、カウンターの機会チャンスを待っているの?」


「ああ、あの男は無為無策でただ防御に徹する男ではない。 だが……」


「だが? 何かしら?」と、問うカチュア。


 するとロムスはやや神妙な表情でこう返した。


「通常ならあれだけの乱打ラッシュをして、ことごとく防御ガードされたら、攻撃を仕掛けている方にも疲れや焦りが出る筈なんだが……あの鷲頭の魔族は一向にその気配を見せない。 奴の身体能力と精神力は、それだけで化け物じみていると分かる」


 ロムスの言葉にカチュアは無言で同意した。

 確かにロムスの云う通りだ。 

 竜騎士団の竜騎士ドラグーンは、戦闘種族と呼ばれる竜人族の中から厳選された者達で選抜された戦闘のエリート集団である。 そしてそのエリート集団たる竜騎士団の頂点に立つ男が団長のレフだ。 若干二十九歳にして、騎士団長を務めるレフの実力は本物だ。


 カチュアも自分の実力には、それなりに自信と自尊心プライドを持っているが、レフに比べたら、自分なんかまだまだと思い知らされる。 レフ・ラヴィンという男は竜人族の中でも屈指の強さを誇る存在。 だが眼前の鷲頭の魔族は、その男を相手に防戦一方になるまで攻め立てていた。


 このままでは団長は負けるかもしれない。

 そう思うとカチュアは居ても立っても居られない気分になった。

 だが不思議と彼女が思慕するレフを追い詰める鷲頭の魔族に憎悪などの負の感情を抱くことはなかった。 むしろ無意識のうちに、ある種の敬意の念を抱いていた。


 なんというかあの鷲頭の魔族は、とても正々堂々としている。

 それでいて全力を持って、眼前の敵を倒しに行っている。

 あの男もまた戦士なのだ。 カチュアはなんとなくだがそれを感じ取った。

 もしここで彼女がレフの助太刀をしたら、多分レフは本気で怒るだろう。

 これは云わば、決闘なのだ。

 それが理解できるが故にカチュアも見守ることしかできない。


 その時だった、戦局に異変が起きた。

 防戦一方だったレフに対して、五月雨のような乱打ラッシュを繰り出していたグリファムだが、とうとう体力の限界が訪れた。 グリファムは魔族の中で獣人じゅうじん族に該当する。 その名の通りけものの特性を強く受け継いだ亜人あじんである。 この獣人族は魔族の中でも、特に身体能力が優れていた。


 しかしどのような強靭な肉体でも、疲れとは無縁ではいられない。

 だからグリファムは一旦呼吸を整えるべく、後ろに少し下がって間を取ろうとしたが、これまで防戦一方だったレフが一瞬の隙を突いて、反撃に出た。


「――ヴォーパル・スラスト!」


 彼が放ったのは、上級槍術スキルだ。

 単純に全力を篭めて突きを放つというシンプルな技だ。

 竜騎士ドラグーンならば殆どの者が使える。

 だがレフが放った突きは、達人の領域に達するレベルの鋭い突きであった。


「がはっ!?」


 閃光のような速度で黄金の穂先がグリファムの漆黒の鎧の胸甲を貫き、胸部を激しく突いた。本来ならばこれで致命傷になる筈だった。 だがグリファムは220セレチ(約220センチ)を超える巨体に加えて、異様なまでに発達した筋肉の持ち主だった。


 故に異様に発達した大胸筋で、黄金の穂先が心臓に突き刺さるのも食い止めた。

 一瞬レフは戸惑ったが、即座に戦術を切り替えた。

 レフは左手を前に突き出して、超至近距離で砲声した。


「ふんっ! ――サンダーボルトッ!!」


「なっ!?」


 爆音と共にグリファムの全身が振り乱れる。

 超至近距離で放たれた電撃がグリファムの体内で暴れ狂い、その全身を焦がす。

 最低限の詠唱であったが、相手の動きを止める事に成功したレフは、左手で手綱を握りながら、愛竜あいりゅうにこう命じた。


「ベルムーラ! 後退せよ!」


「ガウッ!!」


 あるじに命じられた黄金の飛竜――ベルムーラは低く呻きながら、後方に下がって、距離を取った。 それと同時にレフは左手の手綱を放して、再び呪文を詠唱した。


「我は汝、汝は我。 我が名はレフ。  竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! 『サンダーボルト』!!」 


 再び初級電撃魔法を放つレフ。

 爆発音と共にグリファムは「う、うおぉっ!!」と呻き声を上げる。 いくらグリファムが強靭な肉体な持ち主でも、その魔力耐性や耐久力にも限界点が存在する。 少なくともこの至近距離で連続で魔法攻撃を受けたら、無傷ではいられなかった。


 だがこれで倒されるようならば、彼も獣魔王ビースト・キングなどと呼ばれはしない。

 漆黒の鎧からプスプスと黒煙を吐き出し、その見事な体毛を少し焦がしたグリファムが充血した双眸を細めながら、レフを睨みつけた。


「……なかなかやるではないか。 だが小技ではオレは倒せんぞ?」


 と、軽く煽るグリファム。

 確かにそうだろうな、レフは素直にそう思った。

 俺も本音を云えば、このまま一騎打ちを続けたい。

 しかしこいつ相手に確実に勝てる自信はなかった。

 なのでレフは気持ちを切り替えて、右手に持った黄金の斧槍ハルバード勝鬨かちどきのように高く揚げた。


「貴様との遊びもこれまでだ! ロムス、カチュア! これより竜騎士団の全兵力をもって、前方の敵に目掛けて突撃せよ!

 

「了解した!」「了解です!」


「待て! 竜騎士レフよ、このまま勝ち逃げする気か!?」


 少し抗議するような声でグリファムがそう言葉を投げ掛けた。

 その指摘はある意味正しかったが、それを素直に認めるのは、少々癪だったので、レフは開き直るかのようにこう叫んだ。


「何とでも云え! 俺は騎士団長だ。 俺個人の感情より騎士団全体の目的を優先する。 この場における我々の役割は、貴様ら、魔王軍の空戦部隊を叩き潰すことだ! もうお喋りは終わりだ! ロムス、カチュア、突撃するぞ!」


「承知した!」


「ええ、分かってます。 皆、準備はいい?」


 カチュアが青い飛竜に騎乗しながら、後ろに振り返って、周囲の仲間に呼びかけた。


「ああ、もちろんだぜ! カチュアのあねさん!」


「そうそう、タイマン見物も悪くねえが、やっぱ自分で戦うのが一番さ」


 と、周囲の部下達が口々に言いながら、手にした斧槍ハルバードを構える。


「それでこそ竜騎士ドラグーンよ! それと姐さんと呼ぶのは止めなさい! 私はまだ二十二歳よ!」


 と、カチュアは軽く抗議の声を上げた。

 すると周囲の竜騎士ドラグーン達は、どっと笑った。


 ――どうやら上手く勝ち逃げされたようだな。

 ――まあ少々面白くないが、オレにもオレの立場がある。

 ――ここは小さな自尊心プライドを捨てて、自分の役割を果たす!


 グリファムは即座に気持ちを切り替えて、右手に持った竜骨の戦斧を頭上に掲げた。


「よかろう、貴様らがそう来るなら、こちらとしても迎え撃つまでだ。 獣魔団の空戦部隊の全員に告ぐ! 前方の敵部隊に目掛けて、突撃せよ! 奴等が力と数で来るなら、こちらもそれで押し返すぞ! これは獣魔王ビースト・キングとしての命令である!」


「おおっ!」


 グリファムの命令に雄叫びをあげた周囲の部下達が一斉に竜騎士部隊目掛けて、突撃を開始した。 だがレフは慌てることなく、左手を軽くあげながら号令を出した。

 

「全員で奴等を迎え撃つぞ! ――全軍突撃開始!!」


 そして地上戦と同様に、空中戦でも両軍が入り乱れ、原始的な戦いの幕開けとなった。


次回の更新は2021年1月23日(土)の予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ