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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十二章 魔族の蠢動(しゅんどう)
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第百七十四話 魔族としての意地


 エルドリア城の玉座の間。

 そこにある玉座に座りながら、ザンバルドは右腕で頬杖をついていた。

 彼の左隣には犬族ワンマンのバルデロン、右隣には副官であるリスタルが直立不動で立っている。


 そしてザンバルドの前に獣魔王ビースト・キンググリファムとサキュバス・クイーンのエンドラがやや真面目な表情で、腕組みしながら立っていた。


「なんだ、お前等。 俺に言いたいことでもあるのか?」


「ああ、どうやら敵が戦力を再集結させたようだ。 猫族ニャーマン領の味方も敵に撃退されたらしい」


 ザンバルドの問いにグリファムが淡々と答えた。


「ほう、向こうを指揮しているのは、アルバンネイルの旦那だろ? 旦那が連中に負けたのか?」


「そうじゃないみたいよ。 魔元帥は大猫島という島に籠って、猫族ニャーマン領には、あの女――プラムナイザーとえ~と何だっけ? あの少し根暗な女魔導士が出撃したらしいわよ」


 相変わらずエンドラはプラムナイザーの事が嫌いなようだ。

 まあ俺もあの女はあまり好きじゃないけどな。

 でもカーリンネイツを根暗女呼ばわりは少し酷いな、と思うザンバルド。


「ほう、で二人は負けたのか?」


「みたいだ、猫族ニャーマン領の港町を放棄して、大猫島に帰還したとの話だ」と、グリファム。


「ふん、普段は偉そうな癖に肝心な時には役に立たない奴!」


 エンドラが棘のある声でそう言った。

 まあ実際その通りなのだが、プラムナイザーもそれなりに強い。

 それにカーリンネイツも一緒だった模様。

 あの二人を撤退させるのとは、連合軍てきもなかなかやるようだ。

 これは油断していると、俺達もヤバいかもな、と内心で思うザンバルド。


「まあこの際終わった事はいい。 だがプラムナイザーやカーリンネイツを撃退して、敵も勢い付いているかもしれん。 更にこのエルフ領を落とす為に、各地から戦力をかき集めているようだ。 このままだと少し危険だ」


 グリファムが神妙な表情でそう言った。


「ああ、それは俺も同感だ」


「ザンバルド、ならばお前も指揮官としての役割を果たすべきだ。 ここは恥を忍んで、本国――魔大陸またいりくの魔王陛下に援軍を要請すべきだ」


 グリファムの云うことはもっともだ。

 とはいえ四大種族が暗黒大陸と呼ぶ魔大陸の魔王に援軍を要請するのは、少し気が引ける。 あの若い魔王は何を考えているか分からないところがある。 個人的感情で云えば、ザンバルドは魔王レクサーの事は嫌ってない。 いやむしろ評価している方だ。

 

 レクサーの統治によって魔族社会は良い意味で変化した。

 ザンバルドもその事自体は悪いとは思ってない。

 だが個人的には、先代魔王――ムルガペーラの統治時代の方が好きだ。

 とにかく先代魔王は魔王らしい魔王だった。

 前大戦でも時々先陣に立ち、連合軍の連中を豪快に斬り捨てた。


 その当時はまだ百歳くらいだったザンバルドは、

 ムルガペーラのその豪快な戦いっぷりに憧れたものだ。

 まあその後、あのような事件(・・・・・・・)が起きて、魔王の座はムルガペーラからレクサーへと移った。 あの件に関しては、何も云う気はない。


 だがこの六百年余り退屈していたのは事実だ。

 だからこの戦いでザンバルドは自分のやりたいようにやるつもりだ。

 今更、転生するつもりもないし、後は生きたいように生きるだけだ。


「まあお前等の気持ちも分かるが、俺は現状で援軍を要請する気はねえ」


「……何故だ?」と問うグリファム。


「まあ俺が本国に援軍を要請すれば、色々と横槍が入るだろ? それがまずウザい。 とはいえ俺の我儘でお前等に迷惑をかける気はねえ。 だからもしこのエルドリア城が陥落したら、本国に援軍を要請する事を約束しよう」


「……そうか、まあこの戦いの総指揮官はお前だ。 この件に関しては、お前の好きにするがいいさ」


 一応納得した感じでそう言うグリファム。


「う~ん、でもやはり早い段階で援軍を要請すべきよ? 大丈夫、アンタ一人の責任にさせるつもりはないよ。 魔王陛下にはワタシやグリファムからも謝っておくから! グリファムもそれでいいでしょ?」


「ああ」


 グリファムはエンドラの提案に相槌を打った。

 だがザンバルドは軽く首を左右に振ってこう言った。


「いやそんな気を回す必要ねえ。 援軍要請の件に関しては、俺の方針に従ってもらう。 これは総指揮官としての命令だ」


「むっ! アンタ、何かムキになってない? というかなんでそんなことに固執するのよ?」


 エンドラはそう言って、柳眉を少し逆立てた。 


「そうだな、云うなら魔族としての意地だな」


「ふうん、もしかしてアンタ、少し自分に酔ってない?」


 やや咎めるようにそう言うエンドラ。

 しかしザンバルドは特に気を悪くした様子も見せずこう返した。


「そうかもな。 でもよ、エンドラ。 この戦いは俺達魔族にとって六百年ぶりの戦いだぜ? だから少しは戦いに酔いしれたいじゃねえか? まあ女のお前には少し分からねえかもな……」


「うん、全然分からない。 まあでもアンタがそこまで云うならワタシも命令に従うわ。 じゃあ、ワタシは戦闘の準備をしてくるわ」


 そう言って踵を返すエンドラ。


「……では俺も失礼する」


 と、エンドラの後を追うように部屋を出るグリファム。

 そして玉座の間には、ザンバルドと副官リスタル、バルデロンだけが残された。 するとしばらくしてから、リスタルがこう進言した。


「魔将軍、やはり援軍の要請はすべきかと……」


「五月蠅いぞ、リスタル。 俺のやり方に文句をつけけるな!」


「しかし敵はかなりの戦力を集結してます。 対するこちらは徐々に戦力が減っています」


「そんな事は分かってるぜ。 でもいいじゃねえか。 敵が強大な程、戦い甲斐がある。 こそこそ小細工するのは、オレ様の性に合わねえんだよ」


「……そこまで云うなら、もう私はもう何も言いません」


「ああ、それでいいんだよ」


 それからお互いに黙り込んだ。

 その間もバルデロンは黙り込んだままだ。

 そしてザンバルドは一言こう漏らした。


「どうせ俺は転生する気はねえ。 新たな肉体を手入れてまで、生に執着する気もねえ。 そして朽ち果てるまで、今の肉体で戦いまくってやる。 それが俺の数少ない拘りだ」


「……あなたのそうところは素直に尊敬します」と、リスタル。


「ありがとよ、でも俺は犬死する気はねえ。 まあとにかく俺の魔族としての生き様を見せおけ」


「……はい」



 そして二日後。

 エルシュタット城とエルドリア城の間にあるヴァルデア荒野に魔王軍と四大種族連合の軍が集結していた。


 魔王軍側は、両翼の左翼にグリファム傘下の獣人部隊。 右翼側にザンバルド配下の魔族部隊を配置。 そして空中部隊にエンドラ率いるサキュバス部隊、更にグリファムをはじめてとしたグリフォン部隊。 両翼の後方の中央には、ザンバルド率いる本陣が置かれた。


 対する四大種族連合軍は、右翼にアイザック率いる傭兵、冒険者部隊。

 そして山猫騎士団オセロット・ナイツの副団長ケビン、戦乙女ヴァルキュリーのジュリー、銃士ガンナーのラモン。 左翼部隊にはネイティブ・ガーディアンを中心に編成されており、そこにヒューマンの王国騎士団の騎士団長バイスロン・アームロックを中心に王国騎士団の面々も戦力として参加する。


 本陣はマリウス王子が率いて、王国騎士団の副団長エルリグ・ハ―トラーも本陣の最前線に立ち、ヒューマンで構成された王国騎士団でマリウス王子を護るという陣形だ。


 そして敵の空中部隊を迎撃する為に、レフ・ラヴィン率いる竜人族の竜騎士団が飛竜に乗り、上空で待機していた。 今のこのヴァルデア荒野で、四大種族連合軍と魔王軍の戦いが再び始まろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
 魔族も大変ですね。連合軍はなんとか連携できているけど、個人主義が多い。  力では魔族が上でも、連合軍の長年培った技術にてこずってますね。  ではまた。
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