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【天使編開始!】黄昏のウェルガリア【累計100万PV突破】  作者: 如月文人
第三十二章 魔族の蠢動(しゅんどう)
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第百七十三話 休息を終えて

 

 十五日間の休息を終えた9月21日。

 俺達は再びエルフ領へと向かった。

 まずはリアーナの瞬間移動場テレポートじょうからニャンドランドへ飛んだ。

 そしてそこから転移石を使い、ガルフ砦へ転移。

 一日に二度転移したので、その夜はガルフ砦で寝泊まりした。

 


 翌日。

 俺達はガルフ砦から兵士輸送用の馬車に乗り込んで、アスラ平原を越えて、古城エルシュタット城へ向かった。 その道中に何度かモンスターや魔獣に襲われたので、俺と兄貴、アイラ、ミネルバでモンスター達を弱らせて、止めはエリスやメイリンが刺すというパワーレベリングを行った。


 その甲斐もあってか、エリスは神秘術師シーアージストのレベルが7から11に、メイリンの魔導士ソーサレスのレベルが8から13と上がった。 やや強引な手口だが、連合ユニオンではよくやることだし、冒険者ギルドからもこの手のパワーレベリングは禁止されていない。


 そして馬車で移動する事、十三時間後。

 俺達はようやくエルシュタット城に到着。

 エルシュタット城は古城と呼ばれるだけあって、やや歴史がある。

 何でも第一次ウェルガリア大戦でこの古城で、四大種族連合軍と魔王軍の激しい戦闘が繰り返されたらしい。 


 しかし魔王軍の度重なる攻撃にも屈さず、一度も陥落したことはないとの話。

 故に旧文明派のエルフ族がこの古城を歴史的建造物に指定して、古めかしい石造りの外観を維持したまま、何百年も補修作業を行っていたらしい。


 見た目はただの石に見えるが、一応対魔力の高い魔石で作られた城のようだ。 ただボバン達率いるエルフ領側の連合軍の総攻撃によって、この古城は陥落して、更に外壁の一部が損傷している状態だ。 まあでもこれくらいの損傷なら特に問題ないだろう。


 そして俺達は城の門番に自分達の冒険者の証を見せて、身元確認してもらってから、案内役の兵士に連れられて城の中に入った。


「へえ、外装は少し古いけど内装は少し綺麗ね」


 城の中を見ながらそういうメイリン。

 確かに内装は思っていたより綺麗だ。

 所々に置かれている調度品もセンスも悪くない。

 というか内装の一部は、現代風にアレンジしているな。


「でもここって少し前まで魔王軍が占拠していたんでしょ? それにしては随分と綺麗ね」


 やや首を傾げながらそう言うミネルバ。


「まあそこはアレだろう。 奴等も自分の住処は綺麗な方がいいのだろう。 だが所々で戦闘のあとがあるな」


 と、ドラガン。


「あ、確かに! よく見ると石柱に罅が入ってたり、地面や床に血の跡がありますわね」


 エリスが周囲をきょろきょろしながらそう言った。

 あ、本当だ。 よく見ると戦闘の跡が随所に見受けられた。

 まあでもこれくらいなら別に問題ない。


「こちらに連合軍の司令部があります。 それでは私は失礼します」


 そう言って案内役の兵士はこの場から去った。

 そして俺達は大きな木製の扉の前に立つ警備兵に再び自分達の冒険者の証を見せた。


「……卿らが『暁の大地』の面々か。 念の為に今、中におられる各種族の代表者の方々に確認を取ってくるから、しばし待たれよ!」


「了解です」と、慇懃に答えるドラガン。


 やや確認作業がくどいが、これはこれで仕方ない。

 そして三分ぐらい経ってから、中に入った兵士がこの場に戻ってきて、俺達の冒険者の証を返却して――


「では中にお入りください!」


 と言って大きな木製の扉を開いた。

 そして俺達はドラガン、兄貴、アイラを先頭にして、その後に続くように俺、エリス、メイリン、ミネルバ、マリベーレがゆっくりと歩きながら、前へ進んだ。


 ほう~、見た感じは謁見の間っぽいな。 

 部屋の奥に玉座があり、その玉座の前に赤い絨毯が敷かれていた。


「おう、お前等! ようやく来たか!」


 と、聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。

 そして声の聞こえた方に視線を向けると、栗色の髪の薄く輝いた真鍮の鎧で全身を覆った男の竜人族が立っていた。 ああ、確か彼は『竜のいかずち』の副団長のバルミール・ボバンだ。


「ええ、ボバン殿もお元気そうで何よりです」と、ドラガン。


「おうよ、お前等も猫族ニャーマン領の戦いで大活躍したんだって? やるじゃねえか!」


「いえ大したことはありませんよ。 ところでこの古城を陥落させるのは、苦労されたのですか?」


 と、ドラガン。


「ん? ああ、楽勝だったぜ、と言いたいところだが実際は苦労したぜ。 まずサキュバス部隊の魅了がマジでウザくてな。 それでけっこう同士討ちがあったよ。 その後に魔獣部隊みたいな連中が何度も何度も攻めてきてな。 正直苦戦したぜ」


 と、両肩を竦めるボバン。


「それは大変でしたね」


 ドラガンがそう相槌を打つ。

 するとボバンが背中から緋色の大剣を抜いて、それを見せびらかせた。


「でもよ、団長が俺用に送ってくれたこの魔剣イスカンダールでサキュバス部隊や魔獣部隊に目掛けて、炎塊をぶっ放しまくったら流れが変わってな。 その後はイケイケで攻めて、なんとかこのエルシュタット城を落としたぜ」


 ああ、そう言えばアイザックがボバン宛に魔剣を送ってたな。

 まあ見るからに凄そうな魔剣だから、ボバンが使えば、かなりの効果を発揮したのだろうな。


 とはいえボバン一人の力ではこの古城は落とせなかっただろう。

 俺は周囲に視線を移した。 少し離れた場所にエルフの一団が居た。


 ネイティブ・ガーディアンの隊長のナース、その傍に女魔導士ソーサレスのリリア、それと赤いローブを着た魔導士風のエルフの男が立っていた。 ああ、彼は確か賢者セージのベルロームだったけ?


 他にも猫族ニャーマンの一団には、マリウス王子を囲むようにそのお供のガルバンとジョニー。 それと山猫騎士団オセロット・ナイツの副団長ケビン。 雌の猫族ニャーマン戦乙女ヴァルキリーのジュリー、なんかガンマンみたいな恰好をした猫族ニャーマンの姿もあった。


 ヒューマンの一団は、王国騎士団の連中が大半だった。

 騎士団長のバイスロン・アームラックの隣で副団長のエルリグ・ハートラーが笑顔で談笑していた。


 どうやら各種族の代表者や主力は無事なようだ。

 などと思ってると、知った顔がこちらに寄って来た。

 傭兵部隊の総指揮を執る傭兵隊長のアイザックだ。


「どうやら『暁の大地』も全員無事に到着したようだな」


「ええ、長い休暇を頂いたおかげで、ウチの若い連中もリフレッシュできました」


 と、兄貴がアイザックに小さく頭を下げた。


「あ、アイザックさん! あたしとエリスは休暇中に魔導士ソーサレス神秘術師シーアージスト転職クラスチェンジしましたよ!」


「おお、そうか! それは凄い!」


 メイリンめ、相変わらず自己主張が激しいな。

 でもアイザックは素直に喜んでいる感じだ。


「まあ今度の戦いも厳しくなると思うが、お前等には期待しているぞ!」


「ええ、微力を尽くします」


 アイザックの言葉に兄貴がそう返した。

 するとボバンがアイザックに近づいてこう言った。


「なあ、団長。 少し話していいか?」


「なんだ?」


「実はよ、表向きは余裕あるように振るまっていたが、戦力的にはマジでけっこう厳しい状況でさ~。 このままじゃマジでヤバいと思うんだよ~。 だから団長が上に掛け合って、援軍を呼んで欲しいんだよ~」


「……お前が泣き言を言うとは珍しいな」


「泣き言じゃねえよ! 奴等は――魔王軍は強い。 今はなんとか戦えているが、こちらも何か手を打たねえとこの先ヤバいと思う。 だから団長、上に掛け合って、『ヴァンキッシュ』の連中を助っ人として雇ってもらえねえか?」


「……『ヴァンキッシュ』か」


 ボバンの言葉にアイザックがしばしの間、黙考する。

 というか『ヴァンキッシュ』ってアレだろ?

 連合ユニオンランクS級クラスの世界最強と呼ばれる連合ユニオンだろ。

 あまり他の連合ユニオンの情報に興味のない俺でもこの名は知っている。

 そうか、確かに『ヴァンキッシュ』の力を借りられたら、かなりの戦力になる。 


「俺としても彼等の力を借りたいのだが、『ヴァンキッシュ』は、一年前くらいからヒューマン領の島国の自治領「ジャパング」へ長期遠征に出掛けているらしいからな。 今すぐ彼等とコンタクトをとるのは難しいと思うぞ」


「あ~、やっぱり無理かぁ~」


 そう言って左手で乱暴に髪を掻くボバン。

 だがアイザックが諭すようにこう付け加えた。


「いや今すぐは無理だが、俺も彼等とコンタクトをとるべきだと思う。 とりあえず今回の戦いは、俺達だけでなんとかするしかないが、この戦いを無事乗り越えたら、俺から上に掛け合ってみるよ」


「おう、流石は団長! やっぱり頼りになるぜ!」


「まあこの事はしばらく口外するなよ。 それとドラガン殿達が休む客室を用意してます。 男女別々の部屋なので、気兼ねなくお使いください」


 慇懃な口調でそう言うアイザック。


「お心遣い感謝します。 では我々も疲れているので、早速お部屋に案内していただけませんか?」


「ええ、扉の外に居る警備兵に案内させますので、どうか今は旅の疲れを癒してください」


「はい、では一端失礼致します」


 ドラガンはアイザックとそう言葉を交わして、俺達に向かって、顎をしゃくり「ついて来い」と命じた。 そして警備兵に案内されて、歩く事五分余り。俺達は三階にある客間に通された。


 部屋割りは俺、兄貴、ドラガンという面子。

 残り五人の女性陣は全員一緒の部屋のようだ。

 とりあえず俺達は手荷物を適当な場所に置いて、ベッドに腰掛けた。

 部屋の内装のセンスはまあ悪くはない。

 調度品は最低限だけ置かれ、シングルベッドが四つある。

 奥の方にはシャワーボックスが三つ設置されていた。


「ふう、少し疲れたな」


「ラサミス、疲れたなら先にシャワーを使うがいい」と、ドラガン。


「いいのかい?」


「ああ、我々も頃合いを見て、シャワーを浴びる」


「んじゃお言葉に甘えて先に浴びてくるよ」


「「ああ」」と口を揃えるドラガンと兄貴。


 そして俺は衣服を脱いで脱衣籠に入れて、シャワーを浴びた。

 こんな風にシャワーを浴びられるのも、今のうちだけだろう。

 一度戦端が開かれたら、後は連戦に次ぐ連戦になるだろう。

 だから休める時に休み、食える時に食い、眠れる時に眠る。

 これが戦場における兵士の重要な心構えかもしれん。


 今回の戦いは言うならば、再戦だ。

 あのザンバルドとかいう魔将軍。 あいつはとてつもなく強い。

 今の俺では奴には勝てないだろう。

 だがそんな俺でも何かの役には立つ、立ちたい。

 その上で今後どうしていくか、考えなければこの先生き残れない。

 まあいい、焦らずゆっくり考えていこう。


 そして俺はシャワーボックスから出て、簡易タオルで身体を拭いた。

 ん? いつの間にか、俺の身体も随分絞られて筋肉がついたようだ。

 ふうん、俺も少しは強くなっているようだな。 

 まだまだだけどね。

 それから上に黒インナーと下に青いズボンというラフな格好になった。


 気が付けば、他のシャワーボックスからもシャワー音が聞こえた。

 どうやら兄貴とドラガンもシャワーを浴びてるようだ。

 というかドラガンって猫族ニャーマンなのに水を嫌がらないよな。

 連合ユニオン拠点ホームの子猫達は水浴びがあまり好きじゃない。

 この辺は個体差があるのか? まあいいや。


 そして俺はベッドに仰向けに寝転んで、天井を見据えた。

 とりあえず今日はまだベッドで眠れるご身分だ。

 今後はそうはいかないだろう。

 ならば今はきちんと睡眠を取るべきだな。

 そして俺は両眼を閉じて、そのまま眠りについた。



次回の更新は2020年10月12日(月)の予定です。



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