第百五十一話「上級者じゃね?」
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「いやあ、流石は竜人族が誇る竜騎士団ですニャ! 凄い活躍でしたニャ! この調子なら港町クルレーベ奪還も時間の問題ですニャ!」
「ええ、おかげで我々も助かりました。 ねえ、アイザック殿」
「……ええ、まあ」
マリウス王子が調子のよい口調でそう言い、
レビン団長が相槌を打つが、アイザックは曖昧にそう答えた。
「いえ、それが我々、竜騎士団の仕事ですから!」
そう言いながら、右手で敬礼する黄金の鎧を着た竜騎士。
もうなんか金ぴかの鎧が凄く豪奢な感じだ。
歳は……ちょっと分かりにくいな。 見た感じは、三十前後に見える。
身長はかなり高いな。
二メーレル(約二メートル)近くあるんじゃないだろうか?
オールバックにしたライトグリーンの長い髪を後ろに縛り、顔はなかなかイケメンだ。
褐色の肌に、切れ長な緋色の瞳は鋭利な刃物のように鋭い。 手足も長く、身体全体のバランスも凄く良い感じだ。 竜人族だから、頭部に二本の短い漆黒の角が生えていた。 筋骨隆々、というよりは均整の取れた細マッチョな感じ、でも全身から「凄く強そうな」雰囲気を放っている。 この男が竜騎士団の騎士団長レフ・ラヴィンか~。
レフの左隣に筋骨隆々の四十前後と思われる竜騎士、
右隣には青い鎧を着た赤髪のベリーショートヘアーの女竜騎士が立っていた。
若いな、二十前後だろうか? それに加えて、とても美人だ。
だがその顔つきや全体から放つ雰囲気が女性っぽさをまるで感じさせない。
恐らく彼女も歴戦の猛者なのだろう。 多分俺より強い。
「ん?」
一瞬、赤髪の女竜騎士と目が合ったが、彼女はすぐ視線を反らした。
まあアレだな。 あんま女性の顔をジロジロ見るのも失礼だよな。
「竜騎士団が加わったので、これで百人力ですニャ! 明日の戦況次第では、そのままクルレーベに突入するのも有りですニャ!」
「そうですな。 状況次第ではそれも有りでしょうな。 アイザック殿はどう思われますか?」
相変わらず能天気にそう喋るマリウス王子。
そしてレビン団長が相槌を打ち、アイザックにそう問うた。
「え? アイザック……。 っ!? あ、アイザックさんじゃないですか!?」
と、レフがアイザックの方を見ながら、驚いたような声を上げた。
え? もしかしてこの二人は面識があるのか?
まあ同じ竜人族だから、面識があってもおかしくはないか。
「……久しぶりだな、レフ」
「……ええ、約十年ぶりくらいでしょうか」
「そうか、もうそんなに経つか」
「ええ、本当にお久しぶりです。 お元気でしたか?」
「ああ、気楽に傭兵稼業をやってるよ」
「……そうですか」
「ああ」
二人はそう言って、お互い無言で見つめ合った。
どうやら二人の間には、何やら因縁がありそうだ。
でも険悪な関係には見えない。
その辺のところは、結構複雑なのかもな。
「アレ? もしかして御二人はお知り合いですかニャ?」
おい、馬鹿猫王子。 空気読めよ?
そんなの二人の会話を聞けば、誰でも分かるだろ。
と思いつつも、俺も二人の関係が気にならないと言えば嘘になる。
「ええ、十年以上前に私が竜騎士団に所属していた時の後輩ですよ。 そんな彼も今では竜騎士団の騎士団長です。 時の流れは速いですね」
「ニャ? アイザック殿は昔、竜騎士団に所属されていたのですか?」
馬鹿猫王子が率直にそう問うた。
こういう時、猫族の無邪気さはある意味助かるかもな。
多分俺だけでなく、周囲の連中も気になっているだろうからな。
「まあ……そうですね。 色々あって竜騎士団を除隊して、その後は傭兵稼業に手を染めた感じです」
「ふむふむ。 そうでしたかニャ。 しかしこうして再会されたのも何かの縁でしょうニャ。竜騎士団のレフ殿と傭兵部隊のアイザック殿が力を合わせれば、我々としても心強いですニャン!」
「ええ、頑張ります」
「微力を尽くします」
馬鹿猫王子の言葉に二人はそう返した。
まあ二人の関係性は気になるが、色々ありそうだし無理に問いただすような空気でもないからな。
「コホン、では各部隊の指揮官も集まったし、
今後の方針について語りましょう。 まずは――」
その後、レビン団長が今後の方針について十分くらい語った。
と言っても基本戦略は変わらない。
部隊を本陣、左翼、右翼に配置して、竜騎士団は魔王軍の飛行部隊と交戦するという戦術は同じだ。
今夜も恐らく敵はグールやグーラや吸血鬼、吸血猫などの不死生物部隊を放ってくるだろうから、前日通り神職の神聖魔法で浄化していくという感じだ。 この際に出来る限り、神職や回復役の負担を減らしたいところだが、敵も竜騎士団の参戦で劣勢に立たされているからな。 だから今夜の嫌がらせ攻撃は結構しつこいと見た。
まあこの件に関しては、なんとか頑張るしかないな。
問題は今後の方針及び戦略だ。
竜騎士団の参戦により、敵の飛行部隊も怖くなくなった。
とりあえず空中戦は竜騎士団に一任して、俺達は地上戦に専念すればいい。 今日の戦いを見れば、早ければ明日にも港町クルレーベに進軍できるかもしれない。 そうなれば後は押せ押せだ。
というのが馬鹿猫王子ことマリウス王子のお言葉。
まあ楽観的に考えたら、俺達が優勢なことには変わりないが、相手にも魔族の幹部が居る。 果たしてそう上手く行くであろうか? むしろこういう場合は敵の意図を深く読むべきだ。
みたいな事も俺が一応進言したんだが、軽くスルーされた。
まあ今回の主力の大半は猫族だからな。
猫族は基本的に楽観主義者の集まりだ。
故に俺の進言は軽く一蹴された。
まあ俺としては少し気がかりだが、こういう時は周囲に合わせるしかない。
というか喉が渇いたな。 確かシャワーボックスの近くに水飲み場があったな。
寝る前に水分を取るのは、あまり良くないが、まあ少しくらいならいいだろう。
などと思いながら、野営地内を歩いていたが――
木影に隠れて、何かを盗み見するミネルバの姿が視界に映った。
なんだ、ミネルバの奴。 何をしているんだ?
ん? もしかして男性用のシャワーボックスを覗いているのか!?
というのはミネルバのイメージに合わないな。 とりあえず声を掛けるか。
「おい、ミネルバ。 何をして――」
「しーっ」
と、右手の人差し指を口元に立てるミネルバ。
そして左手をこまねいて「こっちに来い」というジェスチャーをする。
え? 何? やっぱり覗きしているの?
それで今から二人で一緒に覗くの?
それって結構な上級者じゃね?
「……ミネルバも結構マニアックだね」
俺はミネルバの近くに寄って、そう言った。
ミネルバはクールというか、硬派なイメージだったんだけどな。
覗き見するとは意外だ。 というか何を覗いているんだ。
緊張する反面なんかドキドキするな。
「ハア? 何言ってるの?」
と、柳眉を逆立てるミネルバ。
ん? この反応は……俺の勘違いか?
するとミネルバは右手の人差し指で前方を指さした。
俺は釣られて、視線をそちらに向けるとそこにはアイザックとレフが立っていた。
「ん? もしかして二人の会話を盗み聞きしてたの?」
「……そうよ。 アンタ、もしかして変な勘違いしたの?」
「いえ、別に」
すみません、思いっきり勘違いしました。
御免ね、ミネルバ。 でもこれはこれで興味深いな。
アイザックとレフの関係性が気にならないと言えば、嘘になる。
盗み聞きはあまり良くないと思うが、俺の中で好奇心の方が勝った。
そして俺とミネルバは二人の言葉をよく訊く為に聞き耳を立てた。
次回の更新は2020年7月18日(土)の予定です。




