第百四十八話「掛け声は発砲!」
一方その頃、左翼を任された猫族部隊は予想に反して、大健闘していた。
この場においては、敵の主力がゴーレム軍団という事が猫族にとって有利に働いた。
肉体的には四種族の中で一番虚弱な猫族であるが、魔力の高さ、魔法に関しては他種族より優れていた。 故に総指揮官であるレビン団長は即座に敵の狙いを看破するなり、
白兵戦から魔法戦闘へと切り替えた。
前線にはレビン団長やロブソン・バンテ、ジュリー・シュナイダーといった防御役を配置しながら、攻撃の中心は中衛、後衛の魔法部隊に任せた。 氷魔法から風魔法を使い、魔力反応『分解』を次々と発生させていく。 すると面白いようにゴーレム軍団が為す術もなく撃破されていった。
仕方なく上空に待機していた竜魔を初めとした魔法軍の飛行部隊が盾になるべく、地上に降りて、猫族部隊の攻撃を食い止めようとするが、レビン団長は、飛行部隊に対しても、ひたすら魔法攻撃で攻め続けた。
初級から中級、上級と様々な属性の魔法を撃ち続ける猫族の魔法部隊。 やや強引な攻めだったが、この場においてはそれが功を奏した。 様々な属性の魔法が撃たれ、狙ったわけではないが様々な魔力反応が生じた。 その結果、竜魔部隊以外の魔王軍の飛行部隊が次々と撃破されていく。
そうした戦闘が何度か繰り返され、とうとう魔王軍の右翼部隊も陣形を維持するのが困難となった。 レビン団長はそれを即座に見抜くなり、次のような命令を下した。
「よし、三匹一組となって前線に突撃せよ! 基本は戦士や聖騎士が攻撃役を護りながら、敵に突撃して敵の術者を倒せ! 今なら敵の防御網も脆い。 この好機を逃すな!! ――突撃開始!!」
レビン団長は右手を上げて、そう号令を下した。
すると猫族の兵士達は、団長の命令通り三匹一組となり、「ニャアアアァ!!」と雄たけびを上げながら、敵目掛けて突撃した。
「さあ、楽器を奏でて、みんなを支援だニャン! 『覚醒のスケルツォッ!』 !」
「了解だニャン! 『覚醒のスケルツォッ!』 !」
中衛の支援職・吟遊詩人や宮廷詩人が手にした楽器を奏でるなり、周囲の猫族達の身体が眩い光に包まれた。 『覚醒のスケルツォ』は自分と仲間のスピードを上げる歌・楽器スキルだ。 これに加えて、オーラや魔法を使えば、スピードが更に上がる。
猫族の兵士達は、両足に風の闘気を纏う、あるいは初級風魔法『疾走』を発動させた。 この魔法を使えば走力が上がる効果がある。 風の闘気を両足に纏うのと、似たような感じの効果だ。 速度向上効果を得た猫族達が地を駆ける。 その姿はまるで獲物を狙う肉食獣のようであった。
「ラモン! 私とロブソンがあなたを護るから、あなたは近距離射撃で敵の術者を始末してもらえるかしら?」
「へい、へい、へい、了解したぜ。 オレ様は今すごくアングリー状態!! オレ様達、猫族の街を蹂躙する魔族をオレ様は絶対ゆるさいないヨ! だからオレ様の怒りの銃弾、奴等にプレゼントしてやるよ!」
相変わらずよく分からないテンションでベラベラと喋る銃士ラモン。
「……ねえ、あなたって普通に喋れないの?」
この場においても、いつもと変わらないラモンに呆れると同時に素朴な疑問を持つジュリー。
「それは難しい問題なんだなぁ! でも心配する必要はナッシング! 何故ならオレ様は、与えられた任務は必ず果たすからだ! こんな喋り方だが、仕事に関しちゃ真面目だぜ! だから心配無用サッ!」
「……あ、そう。 じゃあ好きにすれば?」と、呆れ気味にジュリー。
「おう! ご要望通り好きにさせてもらうヨッ!!」
「二人ともお喋りはそれくらいにしておけ! 前方に術者を発見! ラモン、ありったけの銃弾をぶっ放すんだ!」
と、マヌルネコの聖騎士ロブソンがそう叫んだ。
すると銃士ラモンは小刻みなステップを刻んで――
「へい、へい、へい、オフコース!! さあ、お前等、パーティの時間だぜ! これがオレ様からお前等に送るプレゼントだぜ! 発砲っ! 発砲っ! 発砲っ!!」
と、叫びながら両手に持った回転式の黒い拳銃の引き金を引いた。 相変わらずよく分からないキャラのラモンだが、その射撃の腕だけは確かであった。 放たれた銃弾が前方の術者の眉間に命中。 見事なまでにヘッドショットが決まる。
更に他の銃弾も同様に術者の眉間、あるいは喉元などの急所を綺麗に撃ちぬいた。 瞬く間に四人の術者を射殺するラモン。
「まださ! まだ終わらんさ! 発砲っ! 発砲っ! 発砲っ!!」
更に銃弾を放つラモン。 そして放たれた銃弾がことごとく術者の急所に命中。
これには敵だけではなく、ジュリーやロブソンも驚きの声を上げた。
「ら、ラモン。 あなた、意味不明の性格だけど、射撃の腕は超一流なのね!」
「う、うむ。 正直ただの変な奴と思っていたが、射撃に関しては天才的な才能を持っておるようじゃな……」
ジュリーとロブソンは似たような感想を述べた。
しかしラモンは気にする素振りも見せず、 回転式の黒い拳銃に手際よく弾を込め直す。 するとまた軽快なステップを刻むラモン。
「あ、あの変な猫族はヤバい! と、とにかく正確無比な射撃だ! あいつを自由にさせるな! 誰でもいい! あいつの動きを封じろ!!」
「わ、分かったぁっ! 喰らえっ! ――シャドウボルト!」
そう言いながら、敵の術者の一人が初級闇属性魔法をラモンに向けて放った。
漆黒の波動が素早く放たれたがラモンは、華麗に上空にジャンプして回避。
「スロウ、スロウ、スロウ過ぎるぜ! そんなんじゃこのオレ様は捕まらないぜ。 そんなお前にお手本を見せてやるよ! ――スナイパーショットォォォ!!」
ラモンは空中で身体を捻りながら、右手に持った黒い拳銃の引き金を引く。 放たれた銃弾は敵の眉間に綺麗に命中。 またしてもヘッドショットが成功。 それと同時に綺麗に両足から地面に着地するラモン。 まるで流れるような動きに仲間であるジュリーとロブソンもぽかんと口を開けていた。
「な、なんなんだ……あの猫族!?」
「所詮、猫族と思って侮っていたが、あんな奴が居るとは!?」
「多少の犠牲を払っても構わん! あの猫族を倒すんだ!!」
ラモンの神業を見て、流石に敵も全力で警戒し始めた。
しかし当のラモンは慌てることなく、右手を前に突き出した。
「それじゃそろそろエスケープの時間だぜ! お前等、また機会があればシーユーアゲイン!!
そういうわけで! 『疾走!!』」
ラモンはそう言って、頭にかぶった黒いテンガロンハットのつばを右手でくいっと押し上げた。 堂々過ぎる逃走宣言に敵だけでなく、ジュリー達も唖然とした。
そんな中、ラモンは初級風魔法『疾走』を唱えて、全力でこの場から逃げ出した。 あまりに堂々過ぎる逃げっぷりに敵だけでなく、味方もしばらくの間、呆然としていたが――
「な、何だ、アイツ!? 何、堂々と逃げているんだ!?」
「ど、どういう性格してるんだ!?」
と、呆れる敵の集団。
いや呆れたのは敵だけではない。 味方も同じであった。
「はあぁっ!? 何、一人で逃げてるのよぉっ!?」
「……分からん。 奴が何を考えているか、まるで分からんわ」
と、ジュリーとロブソン。
「ちょっと、ロブソン! 敵がこちらに狙いを定めてるわよ!」
「うおっ……これはヤバそうじゃな。 ワシ等も逃げよう!」
「も、もう! なんなのよ!」と、ジュリー。
ジュリーとロブソンは、『疾走』を唱えて、全力で前線から逃走した。
だが結果的にラモンは、一人で敵の術者を九人射殺するという大手柄を上げた。
他の三匹一組の猫族達もラモン程ではないが。
敵の術者を確実に葬り去っていく。
その結果、敵の右翼部隊は戦線を維持できなくなり、後退を余儀なくされた。 その結果、想像以上に善戦していた魔王軍の左翼部隊も味方である右翼部隊を護りながら、拠点である港町クルレーベへ逃げ帰るという選択肢を選ぶことになった。
その後、連合軍はヒムナート平原で大規模な野営地を設営した。
戦前の予想に反して、アイザック率いる右翼部隊は敵のゴーレム軍団に苦戦。
その一方、猫族で構成された左翼部隊は、魔力総量を生かして、派手な魔法攻撃で次々とゴーレム軍団を撃破。 初日の戦いにおいては、左翼部隊が右翼部隊より、大きな戦果を挙げた。
これによって猫族達は、団結力を固めた。
対する右翼部隊も左翼部隊に負けじと、士気を高めつつあった。
だが魔王軍もそれに対して、手をこまねいているばかりではなかった。
次回の更新は2020年6月27日(土)の予定です。




