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80年前、80年後


とある寂れた町の一角、昼のはずなのに薄暗い。


狭い路地が蜘蛛の巣上に広がり、1度入ったら迷いそうなほど複雑な道で、土地勘のない人はやはり迷った。


ここは生まれた地であるのに、ずっと離れていたせいで何も覚えていない。目的地までのルートも何もかも。


灰色の髪を靡かせて、急ぎ足で先へ進むが、道はどんどん狭くなるばかりで目的地に着く様子もない。


「あっちゃ〜、これは完全に迷ったわ…」


ため息を吐き、道の真ん中で立ち止まる。左右は壁、ここはどこだろうか。


「やっぱり誰か付き添いがいたらよかったな。昔のあたし馬鹿だなー!なんでひとりで行けるって言ってしまったんだろ!」


そう後悔するも誰も助けてくれない。ていうか人一人いない。「中心部以外は廃れている」と父親から聞いたとおりだ。


「中心部にいけば誰かいるはずだよね…。誰かに出会ったら聞いてみようか」


再び歩き出すと、人が1人道端に立っているのが見えた。幸先がいいと思いながらその人の元へ駆け寄る。


その途中、ふと違和感を感じた。


そして足を止め、自信のあるジャンプ力で空高く飛び、その人の背後に周った。


そして人物の手を拘束し、持っていた小型銃をその人のこめかみに当てる。


「物騒だね、猫刈りさん。バレバレだよ」


背後を取られ驚く人物の手元に隠されていたナイフを見逃さなかった。それを弾きとばした。


「なっ……!!」


スキのない一連の行動に驚き何も出来ずにいる。良かった、手練の猫刈りじゃなくて。


地面にばらまかれた希少種猫の出荷の資料を見て、猫刈りである事を確信する。


そして、こう言った。


「あたしは希少種猫保護施設α基地、保護員のエスメラルダ=ノワールだ。残念だったね」













「やっとついた〜!!」


そう感嘆の声をあげながらホールへ歩いていく。ホールにいた人はみんな私に驚いた。


「あの人……やっぱり……」


「やはりよく似てらっしゃるわ……」


そんな囁き声を知らず、エスメラルダは噴水に腰掛けた。


「今日からか、ここで住み始めるの。てか、ついでに猫刈りの処理してくれて助かったぜ」


そうエスメラルダに話しかけたのは、茶髪に黒いグラデーションがかかった幼い少年。……いや、実年齢は100年近いだろう。黒いネックウォーマーに顔を埋めて、やる気のない目でエスメラルダの方を見る。


「お父さんから聞いてたけど、まさか貴方がカイヤ=エスポワールさんだなんてね、中年のおっさんを想像してたよ!」


「人工型永年猫だし、中身はもうおっさん通り越してるしな。てか、本当クロヤに似てるぜ」


カイヤがニヤリと笑いながらエスメラルダの方を見た。


「ほんとそれはよく言われるよ……」


エスメラルダ=ノワール、灰色の長い髪をポニーテールにして、そこにオレンジ色のリボンを結んである。父親であるクロヤ=ノワールは、この希少種猫保護施設α基地の基地長という、一番偉い役職についている。容姿が父親と似ているから、他の人にはエスメラルダの事がすぐ分かるという。既に顔を覚えられてるのはあまり好かないが、別にもう慣れたことだし気にしていない。


「せっかく来てくれたところ悪いが、クロヤは今留守なんだ。クロヤが来るまでどうする?ここを案内しようか?」


「うん!お願い!!」


カイヤに連れられ希少種猫保護施設を案内してもらう。ここで生まれたとはいえ、ずっと別のところに住んでいた。だから覚えているわけもなく、初めての場所に来たかのように全てが新鮮だ。


「本当、始めてきた場所みたい!全然覚えてないんだもん」


そうエスメラルダが言うと、前を歩いていたカイヤがピタリと足を止める。急に止まったからぶつかりそうになってしまった。


「まあ、お前が向こうへ行ってから新しく立て直したからな。築100年も経っちゃいねぇからまだ新しいぜ」


「へーそうなんだ」


確かにここの壁が綺麗な気がする。


だがふと反対側の壁を見てみると、老朽化が進んだように古かった。


「あれ?全部立て替えたんじゃないんだ。どうして?こっちの壁はだいぶ老朽化が進んでるけど…」


そう何気なく言うと、カイヤは一瞬目を見開き、エスメラルダから目を逸らした。


「まあ、色々問題があんだよ、次行くぞ」


そう言い歩き出すカイヤ。


話を逸らされたことに疑問を感じたが、金銭的な面とかで言えない事なのかな、とか思いながらついて行った。











一回り保護施設を回った後、二階にある自分の部屋となる部屋に案内してもらった。


質素ながらなかなか広い部屋で、窓の外からは町の様子が良く見える。遠くの町の中で一番高い建物である教会が、目立って建っている。


靴を脱ごうと足元を見ると、あるモノが足元に転がっていた。


「なにこれ…、ジェム…?」


光り輝くそれを手にすると、それは琥珀色に輝く宝石(ジェム)だった。ブレスレットのように鎖がつけられている。


「カイヤさんのかな?落としたのかも、預かっておこう」


ジェムをポケットに入れる。


「つかれたーーー!」


勢いよくベッドに飛びかかり、布団に顔を埋める。一人で遥々遠くから遠出してここへ来たのだ。流石に疲れただろう。


知らず知らずの内に、エスメラルダは眠ってしまった。














『ーさない』


『絶対に……許さない』







「!?」


カバっと布団から起き上がる。全身に汗が流れて気持ち悪い。


「……!!夢……」


何故か気持ちの悪い夢だった。内容は……思い出せない。


なんだったのだろう…


その時、ドアがノックする音が聞こえた。


返事を一つし、ドアを開けると、そこには背の高い自分と似たような顔の人物が立っていた。


「お父さん!!」


「ルダ、無事にたどり着いたようだな。安心した」


父親、クロヤ=ノワールはニコッとエスメラルダに微笑みかけた。エスメラルダよりも長い灰色の髪を軽く一つにくくり、吸血猫だと思わせる黒いコートを羽織っている。言うのもなんだが、美形の分類に入る。


「もー!お父さんせっかく娘が帰ってきたんだから留守にしないでよ!」


「悪かった。急な仕事が入ったもので」


そう笑いながらクロヤは言う。笑顔はどこか幼い面影があるが、立ちずまいは基地長の威厳を放っていた。尊敬する父だ。


「もう少し話したいが、次の仕事がもうすぐあるのだ、すまないな」


「いや、お父さんほんと忙しそうだからさ、気にしなくていいよ!無理しすぎないようにね!」


クロヤはにこりと微笑んで、「後のことはカイヤに任せろ」と言い、部屋を後にした。


「さて、カイヤさんのところに行きますか!」


ベッドから腰を上げ、うんっと背伸びをする。そして部屋を出た。


部屋から出たその時、向こうの方から騒がしい声が聞こえた。


向かってみると、ホールのところで皆が集まっていた。その先には何人かの保護員と思われる人物と、保護された希少種猫がいる。


「ようこそ!希少種猫保護施設へ!」


「今日からあなたも家族よ」


暖かい声が響いている。きっと希少種猫が新たに保護されたんだ。


父親が言っていた。ここの人は皆心が暖かいと。希少種猫一人ひとりを家族のように愛し合っている。そんな場所。


「ほんと、ここはいい所だな……」


目の前の暖かい光景に自然と笑顔になる。


その時、自分の目の前を横切る、ある人物に目がいった。


三つ編みで纏められた黒髪の、少年にーー


「ねぇ!」


無意識でその少年の手を掴む。急に手を掴まれたため、案の定少年はびっくりして立ち止まる。


振り向いた少年。エスメラルダはその目を見て、凍りついた。


殺意を感じる瞳、目線。鋭い眼光できつく睨みつけられる。


目が合い、その目に凍りついた後、少年はエスメラルダの姿を見て驚いたように目を見開き、そして目をぱちくりさせた。


「……く、クロヤさん…?」


びっくりしてこちらを見るくりくりした瞳からはもう殺意は感じられない。なんだったのだろうか。


「おーーい!エスメラルダーー!」


遠くから聞こえたカイヤさんの声に我に返った。


「あ、ごめん。いきなり手、掴んじゃって」


ゆっくり手を離すと、少年はペコリと一礼した。


ふと、少年の後ろをみると、いつの間にか少年と瓜二つのお下げの少女が、こちらを見ていた。2人は双子だろうか。いつの間に現れたんだろう。


駆けつけたカイヤが少年を見て指さす。


「おお!シャルティー兄妹じゃねーか!任務お疲れ!元気だったか?」


「カイヤさん、お久しぶりです。僕らはこのとおり元気ですよ」


カイヤと少年の会話を聞いてると、カイヤが説明してくれた。


「あ、こいつはシャルティー兄妹!シュマンの子供だ!」


「僕はシャル=ノワール、で、もう一人いて、その子がティー=ノワール。よくシャルティー兄妹って呼ばれてます。よろしく」


「初めまして!エスメラルダ=ノワールだよ!」


さっきの殺意はなんだったのか、とても感じが良い少年だ。少女の方も喋らないが笑顔をこちらに向けてくれている。


「こっちの一つに三つ編みしている方がシャル君で、こっちの二つに三つ編みしているのがティーちゃんね!よろしく!」


そう笑顔で言うと、シャルティーは一瞬驚いた顔をした。そして口角を少しあげ、優しく微笑んだ。


「…うん、よろしく」


「シャルティー、お前次の仕事があるんじゃねーのか?」


カイヤがそう言うと、思い出したように双子は慌てる。


「あ!そうでした!すみません!失礼します!」


「またね!」といい二人はかけて行った。


「あの子達も保護員?随分とまだ幼いけど」


「元々は血族型両性だが、シュマンの子供という理由と、一般保護員としての成績が優秀なことから特別に人工型永年猫の力も得ているんだ。あいつはほんと仕事熱心だし、真面目でイイヤツだぜ」


「そうなんだ…」とエスメラルダが感心していると、ふと、スカートのポケットに入れていたジェムに触れた。


「あ、カイヤさん!このジェムカイヤさんのじゃないですか?部屋で拾ったんですけど」


「あ、やっべ落としてたのか!ありがとな!」


そう言いカイヤはジェムを受け取り、大事そうに手に収める。そんなに大事なものなのかとエスメラルダは思った。


「すまん!クロヤにお前のこと頼まれてたんだが俺も仕事あるんだ!今さっき保護された希少種猫達の手続きをしなくちゃなんねーんだ!すまんな!」


「いやいや!私のことは大丈夫だよ!行ってらっしゃい」


「本当すまんな!」とカイヤは言いながら足早にかけて行った。残されたエスメラルダはさっき出会った子のことを思い出した。


「友達になれるかな……」


ふと、心がわくわくしてきた。













夜遅く、新たに入ってきた希少種猫の手続きも終え、残っていた仕事も珍しくすべて済ませ、自室に戻る。


そして懐にしまっていた黄金色のジェムを取り出した。


それは、約80年前に親友から貰った大事なジェム。


この中には、特別な力が入っている。


「……まさか、な……」



そう呟き、カイヤはそのジェムを再び懐に入れた。












次の日、エスメラルダの歓迎会が開かれた。


昨日も思った通り希少種猫保護施設の人々は心優しくて、沢山声をかけてくれた。


基地長の娘という事もあり、凄く盛大な歓迎を受けた。


歓迎会は丸一日行われ、夜遅くまで続いた。




歓迎会が終わり、みんなが寝静まった頃、エスメラルダはふと目を覚ました。


部屋を出てホールへ出てみると、昼の盛り上がりとはまるで空気が違ったように静かだった。噴水の音だけが静かに流れている。


「…えっと、エスメラルダ……さん?」


静けさの中から少年の声が聞こえた。声のした方を見ると、見覚えのある少年が、噴水の傍に立っていた。


「シャル君!どうしてここにいるの?」


「なんだか眠れなくて…。エスメラルダさんも同じ?」


「うん。あんなに歓迎受けて騒いだのにね」


あははと笑いながらシャルの方へ歩く。


「あれ?今日はティーちゃんと一緒じゃないんだ。いつも一緒だと思ってたけど」


エスメラルダがそう言うと、シャルは少しだけ悲しそうな顔をした。そして、少し微笑むと、「ティーはまだ寝てるよ」と優しい口調で言った。


「エスメラルダさん、昨日から住み始めたんだよね。慣れてきた?」


「あー、うん。まだ迷ったりするけどなんとなくは慣れてきたよ。ここの人達はみんないい人達だから」


「うん。よかった。エスメラルダさんならすぐ馴染めると思ってた」


「あ、ねえねえ、その…、エスメラルダって言うの語っ苦しくない?愛称でいいよ。えっと…お父さんは私のことよく『ルダ』っていうから、ルダでいいよ」


「私もシャルって呼ぶから!」とニコッと無邪気に笑いながら言うエスメラルダに、シャルもゆっくりと微笑み返した。


「改めて、ルダ。ようこそ、希少種猫保護施設へ」


「うん!…よろしく!!」


お互い握手して確かめ合う。


「それにしても、本当にここは平和だね〜」


「まあね、約80年間、平和が保たれているから」


エスメラルダはシャルのある言葉に引っかかった。


「ん?80年間?…約80年前まで平和じゃなかったの?」


エスメラルダのそんな質問を聞き、シャルは一瞬固まった。表情が無表情になる。


「そうか、知らないんだね。あの事件のこと……」


「あの事件……?」


「うん。約80年前に起きた、最悪の事件を……」












「最悪な……事件……」


背筋が凍る。80年前と言えば、エスメラルダが丁度生まれたぐらいの頃だ。そんな昔に、事件が…。


「80年前の事件……それで僕らは、大きな損害と大きな傷を受けた……」




約80年前、その事件は突然起きた。

基地長の間に子供が生まれ、その誕生パーティーを開いていた時、突然希少種猫保護施設は爆発に襲われた。


その爆発による死傷者は希少種猫全体の約半数にも及び、辺り一面が火と血の海と化した。


希少種猫保護施設の建物も半壊し、復旧まで数十年かかった。


この事件を起こした犯人はまだ捕まっていない。恐らく、基地長と、その子供を狙ったテロ事件であろうと、考えられている。





「僕も現場を知ってる…けどショックで全ては覚えていない……けど、それは確かに残酷な事件だった…」


シャルの話に背筋に冷や汗が伝う。信じたくないけど、事実であることは間違いない。


だって、希少種猫保護施設に来た時に気づいた、新しい壁と古い壁がまばらにある理由。それはきっと一度希少種猫保護施設が壊れた証拠。


否定出来ない…。


「……そんな………」


「……クロヤさんは、ルダに本当に何も教えてなかったんだね。……まあそうだよね。命を狙われてるかも知れないわけだし…」


そう言うと、シャルはエスメラルダの手を握り、エスメラルダの目を真っ直ぐに見つめた。


「ルダがここに戻ってきたという事は、犯人が生きていればまた狙われるかもしれない。基地長(クロヤさん)とルダが危ない」


そう言い、シャルは深呼吸を一つし、キッとエスメラルダを見た。さっきまでの優しい瞳と違う。初めて会った時に見た、殺意のある鋭い瞳だ。


「ルダは僕が守る。絶対に、犯人の思い通りにさせない」


シャルの力強い言葉に、エスメラルダは驚きつつも少し安心した。


「…ありがとう」


エスメラルダはしっかりとシャルを見つめ返して返事した。
















『シャル、あの子に言ってしまったんだね…』


「うん、でもこっちの方が、犯人に近づけられる」


『……その生命、大事に使ってね。無理聞いてあげたんだから…』


「分かってるよ」








「僕は生命をかけて『復讐』すると誓ったんだ。誰にも邪魔させない」









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