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あまい、にがい、あまい

作者: 洲﨑ねん

"久しぶり、最近どう?"

"好きだった人に奥さんいてさ"

"上司と掛け落ちしようかなって"

"上手くいかないなー…。"


不倫。浮気。嫉妬。

幸せには裏があって甘い蜜には毒がある。

騒がしい居酒屋で男女が入り乱れる空間は普通なのに異常だ。

誰も聞いてない。誰も知らない。皆が自分の世界感にいて、共通認識がある人達が固まるそんな空間。

そんな中にいるってことはつまり私もその中の1人であって、異常者である。


寂しくて死んじゃう動物がいるんだって。

誰かがそんなことを言った。


それなら

もし私がその動物なら

私はとっくに死んでるんじゃないだろうか。


「サキ、二次会は?」

「ごめん!今日はパス!」


おっけーと軽快に挨拶した彼女達はフラつく足どりでネオン街へと消えていった。

彼女達はこれから何処へ飛ぶんだろう。


色んな喧騒が入り交じるこの世界はどうしても生きづらい。

早く帰ろう。もう帰ってしまおう。

あの人がいなくたって平気だ。

私は生きていける。


きっと、大丈夫。


日付はとっくに変わり、街頭が少ない夜道をお気に入りのバックを振り回してスキップした。

鼻歌も歌った。

髪もきって化粧も変えた。


「本当は一番最初にみせたかったんだけどな」


今日は会う約束だったのに。

家族サービスだって。

既婚者は大変だね。


分かっているのに分かってて付き合ったのにいつだって胸のつっかえは取れない。

でも顔を見るだけで甘い甘い綿菓子を口に含んだような幸福感が体を包むからやっぱり離れられないの。


女の子はいつだって甘い物を好むんだよ。

そして甘い蜜は毒へと変わって女の子を女へと変えていくの。


「…なんだ、いなくたってぜんぜん平気、じゃないじゃん」


私の所にずっと入ればいいのに。

帰らなければいいのに。

いっそのこと。

醜い考えがずっと頭をぐるぐる回る。


甘いものってね口に含んでもすぐに無くなっちゃうから悲しいの。


「…会いたい」


すごくすごく、悲しいの。



一人暮らしで借りたマンションは一人にしては少し広すぎたと思う。

大きめのソファーもあまり立つことのないキッチンも二人分のスペースがなんだかちょっとな。


仕事が忙しい分、帰って寝るだけの生活は確実に健康の質を落としている。

残業続きで酷いクマも厚めのファンデーションとコンシーラーでギリ隠せるくらい。


「あーあー酷いなこれ」


鏡の中の自分を見て思わず笑ってしまう。

とっととお風呂に入って寝ちゃおう。

夢で会えればそれで幸せだ。会えるかなんて分からないけど。

そんなことを思うくらいどうやら私は疲れているらしい。


「だめだめ弱気になるな自分」


大丈夫、大丈夫。何度も言い聞かせる。

あなたの隣が私じゃないことは当たり前。

それでも少しでも隅っこの隅っこにでも私がいるのならそれだけで私は女の子でいられるから。だから、泣くな私。


パチンと両頬を叩いてみる。熱がじーんと広がってちょっと強く叩きすぎた。でも痛すぎるくらいが丁度いい。

思わず溜息を吐き出した時、ピンポンと突然鳴ったインターホンに心臓が跳ね上がった。

こんな時間に宅急便?いやいやありえない。

仮にそうだとしてもこんな泣きっ面で出れるわけが無い。

鼻をすすりながらモニターを覗けば見慣れた金髪と上等なスーツを来た人。


待ち焦がれて思い焦がれていた人。


なかなか電話を取れないまま2度目のチャイムがなる。

どうしてなんで。

不安と期待と幸せが絡まって熱が出そうだ。


「…はい」

『…ごめんね起こしたかな』

「まだ、寝てなかったです」

『そっか…』


声が聞こえるだけでこんなに満たされる。

名前を呼ばれることがすごく嬉しい。


『上がっちゃダメかな?』


そんなのダメなわけがないじゃんか。

二次会行かなくてよかった。

起きててよかった。

お風呂入る前でよかった。


「突然くるからびっくりした」

『うん、ごめんね』

「来ないと思ってました」

『サキにどうしても触れたくて飛んできた。ごめんね、待たせたね』


謝らなくていいです。

謝らなくていいから今すぐ抱きしめて、髪をなでて、キスをして。

私を女にしてよ。


「おかえり、会いたかった」

『ただいま、俺も会いたかったよ』


無我夢中で貪った唇は暖かくて気持ちいい。

キスをする時に腰に添える手も外すメガネも全てが甘い蜜として体を伝っていく。


蜜を垂らして。

お願い、もっと。

毒なんてどうでもいいの。

欲しいの。

あなたがずっとずっと欲しいの。


乱れたシーツの上。

衣類は色んなところに落ちてどれがどれだか分からない。


横を見たら好きな人がいるってこんなに嬉しいこと。

くっついてもいいかな。いいよね、少しなら。今だけ私のって思ってもいいよね。


少しだけ近づけた距離。肌が触れあってじんわり暖かい。

寝息を立てる寝顔はメガネを外しているからかどことなく幼くて、無造作になった金髪をサラサラと撫でてみた。


かわいいなぁ。

ずっと一緒にいたいなぁ。

無理かなぁ。

無理だよなぁ。


「かえらないで…なんて言えないな」


だったら今だけはずっと触れていよう。

この景色を目に焼き付けよう。

ずっとずっと見ていよう。


『そんなに見られると恥ずかしいよ』


パチリと開けた二つの目と目が合う。

思わず頭を触っていた手を跳ね除けた。


「ずっと起きてたの!?」

『うん』

「だったら言ってくださいよ〜…」


あははって笑う笑顔が憎くて愛しい。

愛しくて憎い。

布団の下でそっと繋がれた左手。

指輪、わざわざ外してきてくれたんだ。

そんな小さなことが喜びに変わっていく。


『会える時間はできるだけ作るから。寂しい思いさせると思うけど待ってて』


そんなの無責任。

寂しいって分かってて待たせるなんて。

寂しくて死んじゃう動物ならもう死んでますよって。

でも、まぁ、会えるならいっか。

来てくれるならそれでいっか。


「家族サービス良かったんですか?」

『うん、いいの。良くないけどいいの』

「どっちですか…」


頬に触れて首筋に触れる手は余りにも優しい。


『サキに会えたから、それでいいの』


頬に熱が集まる。

ボッと赤くなって耳までもが熱い。

握った手に力が入る。


「金子さんってズルい」


ズルズルと布団に潜り込んで顔が見えないように、でも絶対に手は離れないように。

頭上から笑い声が聞こえる。

呑気に笑いやがって。

ムカつくムカつくムカつく。

のに大好き。


『ズルい俺は嫌い?』

「嫌い、じゃない」


そろっと顔を出せば幸せそうに笑う金子さんの顔が目に入る。

私でもこんな顔させることが出来るんだ。


知ってるかな。

ズルイ人ほど女の子を変えるものって無いんだよ。

あんなに足りなかったものが一瞬で埋まっていく。ああ、幸せかもしれない。


『髪、切ったんだね』

「…変かな」

『よく似合ってるよ』


どんな褒め言葉よりも甘い言葉よりも嬉しいことがこの人には溢れてる。私はこの人といる時間だけが女の子になれる。


悲しくて

苦しくて

寂しくて

愛しい、


最高の愛。


「金子さんの目、すごく好き」

『どうしたの急に照れるよ』

「指も好き。唇も」


少しだけ余裕が崩れる表情。

照れると口元を隠す癖は相変わらずだね。

望む結果じゃなくていいよ。私の隣にいれなくてもいいよ。だからせめて


「私が好きだって褒めたところずっと大切にして。たまに思い出して」


切れ長の目が少しだけ大きくなって

こちらを見つめる視線がふわりと揺れた。

背中に回された腕が髪の毛を遊ぶようになでる。


ちょっとした独占欲。

シンデレラにはなれないんだからこれくらいは許してほしいな。

心だけでもあなたの側にいたいの。


『、ごめ、』


"ごめん"なんて言葉が聞きたくなくて言い終わる前に口を塞いだ。

どうして謝るの?ここに来てから謝ってばっか。それは何に対してなの?その中に奥さんは含まれているの?


そんな言葉が聞きたいんじゃない。ごめんなんてまるでこれから別れるみたいじゃん。嫌だよそんなの。もっと違う言葉を聞きたいの。


泣きそうなの。

でも泣きたくないの。

女の子はね笑ってる方が可愛いんだよ。

貴方の前では可愛いままでいたいの。

だからごめんなんて言わないで。


「好きって言って」


嘘でもいいから。

早く蜜を注いで。


『好きだよ。愛してる』


それだけで私は満たされるんだから。


何となくパッと思い浮かんで書いてみました。

バリバリの初心者です。拙い文章です。

ごめんなさい。!!


後悔はしていないです( ¨̮ )


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