さよならコロちゃん
五才になった。来年はいよいよ小学校だ。でも未だに眠るときはコロちゃんといっしょだった。ある夜のこと。コロちゃんは僕に話しかけた。
「ご主人様、ご主人様、今までわたしをとてもかわいがって下さって本当に有難うございます。でも、わたしはもう行かなければなりません。残念ですがそろそろ時間がやって来ます。ご主人様に出会えて、わたしは本当に幸せでした。あなたのことは決して忘れません。どうぞお元気で……」
僕はとても驚いて、そしてじっとコロちゃんの方を向いて、大粒の涙をポロポロ流しながら言った。
「コロちゃん、そんなこと言わないで。行かないで、ずっと僕のところにおってよ」
するとコロちゃんは僕の涙で濡れた瞳をじっと見ながらこう言った。
「いいえ、ご主人様、行くのは私ではなく、ご主人様の方なんですよ」
コロちゃんの言葉通り、いつしかコロちゃんのことなどすっかり忘れて、学校でもやんちゃ坊主になった僕だったが、弱いものいじめだけは絶対にしなかった。それがコロちゃんとの約束だった。コロちゃんといっしょに淋しさ鬼をやっつけたのだから。
大人になった今でも、デパートの玩具売り場でぬいぐるみの犬やクマを見るたびにコロちゃんを思い出す。コロちゃんがいたから僕は淋しさ鬼に打ち勝つことができたのだ。
あれから母をしっかり守ることもできたのだ。そして今僕には二人の子供がいる。この二人ともが僕にとっては大切な桃太郎だった。ちゃんと拾い上げてやらなければ。
淋しい鬼に負けないように。
淋しさ鬼 完