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淋しさ鬼  作者: 天宮秀俊
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僕は桃太郎

それから一月ほどたったある夜のこと。

その夜は父母を含めた大人たちの何かを争うような大きな声が階下から僕が寝ている2階の和室にまで聞こえて来ていた。


「とっとと帰れ! ここはわたしのうちや!」

「な、なんやて、この、商売女が! ようもまあ抜け抜けと!」


身も震え上がるほど怖い母の声と聞いたこともない女の罵声が鳴り響く。一体何の騒ぎだろうか? 

「心配しなくてもいい。君には関係のないことだよ」

コロちゃんはやさしく言った。

「でもお母ちゃん、何かすごく怒っているみたいや」

「ああ、そうかもね。でも君に怒っているんじゃない。大人たちだけのお話さ。君は心配しないで眠ることだ」

「うん」

僕はコロちゃんに抱きつきながらいつしか眠りに落ちて行った。

どれぐらい眠っていただろうか。もう大人たちの怒鳴り声は止んでいた。ふと目覚めると、またあの薄ら寒い妙な気持ちに包まれて、どこからか水の音が聞こえて来た。いつのまにか僕らの乗った布団は黒い水の上に浮かんでいた。

「コロちゃん、また来た! 桃や!」

コロちゃんは僕の腕をするりと抜けて近付いてくる桃に大きく「ワン!」と吠えた。すると不思議なことに桃は布団の真横でピタリと止まった。

「ご主人、さあ!」

コロちゃんはその大きな大きな白い桃の上にぴょんと飛び乗り、そして僕を呼んだ。僕も慌てて飛び移る。僕とコロちゃんを乗せた桃は、またゆっくりと動き出した。怖くはなかった。それどころかわくわくしていた。


暗い部屋を抜け出した桃は、やがて少し大きな川に出た。流れも少し速くなった。水はすっきりと澄んで、川底には小魚の群れが泳いでいた。

「コロちゃん、僕ら、これからどこへ行くの?」

「ご主人、僕らは桃太郎ですよ」


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