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淋しさ鬼  作者: 天宮秀俊
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コロちゃん

その家は大阪の四天王寺近くの閑静な住宅街の一角にあった。広さにしておそらく七、八十坪はあっただろう。その二階のだだっ広い和室で、僕はたった一人で眠りに就き、たった一人で目覚めた。

大きな四角い照明の中央に、ぽつんと一つだけ灯されたナツメ球。その物悲しい橙色の灯りを毎日じっと睨みながら眠る。最初はとても淋しかった。淋しくてまだ帰らない母に会いたいと泣きながら家政婦さんを困らせたこともあった。しかし、やがて僕は一人で眠ることにすっかり慣れてしまい、いつしか淋しいとはどんな感覚だったのかさえも忘れてしまうようになった。


ある朝目覚めると枕元に一匹の真っ白い犬のぬいぐるみがちょこんと座って僕をずっと見ていた。おそらく母が置いたのだろう。それまでも夜中、僕が眠っている枕元に当時流行っていた怪獣の人形やレゴブロックなどの玩具(おもちゃ)を置いて行くことがあった。僕には楽しいお土産だった。しかし、親にしてみればいつもかまってやれないお詫びのしるしだったに違いない。

僕はまだ三才だったけれど、やっぱり男の子だったので、ぬいぐるみは女の子の玩具、という生意気な認識があった。だからその犬が僕を見つめて座っているのを見た時は、正直、ちょっとがっかりだった。

(なんや、ぬいぐるみか! 怪獣ちゃうんか。ちぇっ!)と思った。彼(勝手にオスだと決めていた)の名前はコロと言った。誰が名付けたわけでもない。大人たちは皆そう呼んでいた。首に掛けられたプレートにCOLOと書いてあったからだ。もしかしたらメーカー名だったのかもしれないし、シリアルナンバーの類だったのかもしれない。だが大人たちは勝手に名前だと決め付けた。

そして僕以外の大人たちはみんなコロちゃんがクマだと思っていたが、僕は絶対に犬だと信じて疑わなかった。ぬいぐるみの説明書きにはクマと記されていたらしいが僕にはまだ読めなかった。 がしかし、僕が犬だと言い張ると、いつのまにかコロは犬になっていた。家では僕は小さな王様だったようだ。誰も逆らえない。


程なくしてその犬のぬいぐるみは、僕の一番の友達になった。眠るときはいつもコロちゃんといっしょに眠った。そしてコロちゃんはとてもよくしゃべる。とても物知りだった。

それからしばらくたったある朝のこと。いつものように、布団の中で目覚めた僕は、何かいつもと様子が違っていることにとても違和感を覚えた。思わずコロちゃんをぎゅっと抱きしめた。コロちゃんは困ったような顔で僕を見つめていた。


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