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嘘つきの異世界魔王譚  作者: 紅葉 咲
一方そのころ
33/33

大きな音を響かせ、沢山の人の手足を生やしたトカゲのような生物は倒れる


「ふぃー。ひと仕事エンドって感じね!」


女性は立ち上がりながら息を吐き出す


だが、その眼は油断なく倒れた生物を見ていた


「お疲れ様です。あんな化け物を無傷で倒すなんて、御見それ致しました」


「うっせバーカ」


女性は銀髪の青年の称賛に中々酷い返事をする


「…それにしても、この化け物はいったいなんだったのでしょうか?」


銀髪の青年、ハイネは女性の散々な返事を聞かなかったことにし話題を先程倒れた生物に戻す


「んなの私が知る訳ないじゃないの。なんかの魔物とかじゃないの?」


「魔物、ですか? いや、もしかしたら新種の野生動物なのかも…」


「え、なに? ここの野生動物ってのは人間の言葉を喋るの?」


「いえ、喋りませんが…。ですがこいつは、魔物と呼ぶには何か違和感が…」


「あんたたちの魔物と野生動物の定義って曖昧なのよねぇ。それに人によってまちまちだしさぁ。もっとそこら辺しっかりしてよ」


「…すみません」


「ま、あんたにいってもしかたないんだけどね」


女性はそう言いながら酸で半分溶けた自分の持っていた武器を拾う


こりゃニッチにまたグチグチ言われるなぁ…


女性は肩を落としため息を吐いた


「あなたは、魔物と戦った事はありますか?」


その後ろ姿にハイネは問いかける


「うん? あるけど藪からスティックになによ?」


「いや、実は私たちはある1匹の、とても恐ろしい魔物に追いつめられ撤退をしていたんです」


「そうだったんだー。…恐ろしい魔物ねー?」


女性は興味なさそうに聞き返す


「はい。その魔物は、なんというかこう、この世の邪悪を煮詰めたような魔物でした」


「…またなんともコメントのつけづらい説明ね」


「奴は狡猾(こうかつ)でした。最初は私たちに人間として接触し、それが失敗するやその本性を現しました」


ハイネは視線を落とし、つい先ほど自分達を追い詰めていた魔物の姿を脳裏に思い描く


「それは嘲笑いながら私たちの攻撃を全て避け、そしてあの恐ろしい水獣、いや化け物を召喚したのです」


「魔物が化け物を?」


「その化け物には刃が通らず、その巨体で暴虐の限りを尽くしました。私達はなんとか誰一人かけることなくその場を後にできましたが、しばらくしてその化け物が追ってきたのです。そのせいで、私はそのまま撤退をしてしまいました…!」


ハイネは強く拳を握り顔を歪める


「はぁ。なんか聞いてると魔物よりその化け物の方が恐ろしいんだけど?」


「化け物は確かに恐ろしかったです。ですが、その魔物にはそれ以上のものを感じました。話しているだけで呑み込まれてしまうような…。いうなれば、闇そのものが生命体として活動をしているような感じですかね」


「うわ、そんなの知り合いにいるわー」


女性は、誰かを思い出したのか憎々しげに言う


「その闇の魔物のせいで、私は作戦を…!!」


「あ~、そういやあんたら作戦では魔物の拠点を奇襲して混乱させる役目だったのよね」


「はい。…それなのに私は、そんな大事な役目をおいながら失敗を!!」


「その作戦さぁ。あんたらの関係ない所で失敗したみたいよ?」


「…は?」


その女性の言葉にハイネは口を大きく開け固まる


「北の有象無象(うぞうむぞう)の奴らを囮にして、あんたらが南から奇襲を仕掛け魔物の拠点を混乱させる、ラストは混乱してる中に東の砂嵐とかのせいで視界が悪い方から本軍が突入する作戦だったのよね?」


「は、はい。ですが私たちが拠点に行けなかったために東の本軍は厳しい戦いを…」


「東の本軍、壊滅したわよ」


「…え?」


まるでありえないことを聞いたかのようにハイネは聞き返した


「私たちはあんたらを迎えに来たのよ。本軍がうごけないならあんたらは魔物の拠点にゴーする意味がないからね」


「いったい何があったんですか!?」


「いや、私もその戦いには参加したんだけどさ? 何分最後の方にしか参加できなくてね。よく事情とかわからんのよ」


「そ、そんな…。…まさか、魔物が作戦に気づき戦闘に!?」


「う~ん。その可能性もあるけどさ? じゃぁなんで北の囮にはまんまと引っ掛かったのか説明がつかないのよねぇ…」


「クソッ! 壊滅とはどういうことですか!? 東に参加した隊は!? 『激流』『鉄の腕』『ジージ』『アラサエルバ』『早山』などの隊は無事なんですか!?」


ハイネは女性に詰め寄り問いただす


「近寄んじゃねぇよ気色悪い!! んなの私が興味ある訳ないでしょ!? あ、『妖精の盾』ちゃんたちは無事よ! まっさきに助けに行ったから!」


「クソッ! そもそも何故壊滅を! 私たちが合図を出すまで動かない手はずではっ!!」


「あぁもうさっきから目の前でうざったいわね!」


女性はハイネの頬を殴る


ハイネは思ったより飛んだ


「あーだこーだカラッポの頭抱えてたって状況が変わる訳じゃないでしょ!? お前のその軽い頭もぎとってサッカーすんぞゴラァ!」


「え!? あ、そ、そうですね。…すみません。とりみだしました」


ハイネは殴られた頬さすりながら唖然と返事する


「ほんと男ってのはすぐ感情的になってうるさいわね! ほら! とりあえず拠点にリターンよ! もう化け物は動かないし、あんたの隊に在籍している私のガールズも拠点に無事戻れたでしょ!」


女性はそう言い、まだ若干使えそうな溶けた武器を拾い腰につける


「ほらいつまでも座ってないでスタンドアップ! 拠点に戻ってから、状況を見るなり聞くなりしなさいな! ここで出来る事なんてさっきのあんたみたいカラッポの頭を抱える事くらいなんだから!」


「は、はい!!」


女性の怒声にハイネは勢いよく立ちあがる


「さぁ、私のガールが待っている拠点に帰るわよ!!」


そして、女性は人間の拠点へと走り出し、ハイネもそれを追い走り出した


そして、その場に残ったのは溶けて使い物にならなくなった武器と、今にも死にそうなぼろぼろの化け物1匹だけだった






―――――――――――――――――――――――――――――――――






「なんなのこの森。死体しかないんだけど」


「もう帰りましょうよぉ…。絶対あぶないですってぇ…」


「そんなこと言わないでよ。 せっかくの夜の森だよ? どんな夜行性の生物がいるか、どんな性質を持っているかとか気になるじゃん!」


「だからぁ…。そういうの調べるのはいいですけど、なにも現地に来なくてもいいじゃないですかぁ…」


「だってさ? 本とかには大きさとか危険度とかが第何級かってサッと書いてあるだけじゃん? 特性もふわっとしか書いてないしさ!? 例えば、なんでこの生物は腕から刃物生やしてるとか、その刃物を形成してる物質は何かとか、それは折ったらまた生えるのか生えないのか、生えるとしたら強固になるのかもろくなるのかとか書いてないんだもん! じゃぁもうこれは自分でやるしかないじゃん!」


「好奇心は猫を殺すんじゃないんですかぁ…!?」


「僕と君は猫じゃないから」


「そういうこと言ってるわけじゃないんですけどぉ…」


「まったく! あんまり文句言うと愛しのお兄ちゃんと共にあの人に返品するよ!!」


「ちょ、そんなこと言わないで下さいよぉ…!!」


「せっかく全財産つかって君達2人を買ったんだからキリキリと働く!! …って、何だろ?」


「はぁ…。私の見立てではこんなことになるとは…。…うわぁ、なんですかこの化け物ぉ…」


「「「……あ…や……だ……」」」


「あ、まだ生きてるっぽいよ!! 死体以外の野生動物やっと発見?」


「あぁちょっとぉ…。近付いたら危険ですよぉ…」


「「「あ…だ……て…」」」


「ん?」


「「「いた…の…も…ヤダ…」」」


「まさか、言葉を…!?」


「言葉も凄いけど、この生き物…うわ! やっぱり3つの魔力が中で渦巻いてるみたいだよ!!」


「はぁ…? 魔力は1個体に1つだけしか宿らないですよぉ…?」


「そうなんだよね。僕たちの実験でもうまくいかないで何回も個体は爆発したりしたし、その仮定は間違いないはずだったんだけど…」


「「「…………あ……」」」


「…ってめちゃくちゃ瀕死じゃんヤバいヤバい!! このままじゃこの子死んじゃうって!!」


「いや、このまま死んでくれた方がよいような気もするんだけどもぉ…」


「「「…た……け…………」」」


「大丈夫かい!! 意識を強く持って! 今助けるからね!!」


「えぇ何でそんな…うっわぁ…なんですかこれ、人間の手…?? 趣味悪いもの生やしてますねぇ…。この悪趣味な化け物をほんとに助けるんですかぁ…?」


「あったりまえじゃん! えっと、これは…なるほど…」


「あぁまたべたべた触って変なことをしてる…」


「これは…致命的なのは外傷じゃなくて、中の魔力が喧嘩をしてるのが駄目なんだね…。でも、…これは。もしかして1つは強化、いやこれは進化? でこれが…? 見たところ変質?」


「ブツブツ言っていて気持ち悪いですぅ…」


「『結合薬Ⅲ』に『気付け薬』! あと『魔力強化薬MⅢ』『魔力強化薬HⅢ』『麻酔薬』『身体強化薬Ⅲ』!!一応『分離薬』!! そんで周囲の警戒をお願い!! ちょっとこれは本気出さなきゃだ!!」


「はいかしこまりましたぁ…」


「絶対君には生きて貰うからね!!」



「はぁ…面倒ですぅ…。お兄ちゃんに早く会いたい…」



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