統率のない隊
心斗が少女の身を心配し、マウルがトガノに報告をするのについて行ったあと
それを見送ったフルウ達はそのままマウルの命令にしたがい回復部屋へと向かい拠点の薄暗い廊下を歩いていた
「カッー! 初任務終わったー!」
先頭を歩く犬耳を生やした青年、フルウは周りに他の魔物が居ないのを確認し大きく伸びをして言う
「見張りが終わったくらいでうるさいぞフルウ」
それを後ろから顔をフードで隠し、口元をマフラーのようなもので隠した厚着の女性、カナがたしなめる
「そうはいってもなぁ? もう少しで俺達戦闘に参加する所だったんだぜ?」
「確かに『大反響笛』が鳴った時は肝が冷えたわねぇ…」
フルウの言葉にカナとは正反対に露出の多い服を着た赤い髪を伸ばした女性、アミュルがのっかる
「ほんとにな。まさか見張りを強化した当日にこの拠点にまで敵が侵攻してくるとはな」
「つまり、今日も今迄のように見張りを手薄にしていたら人間が拠点に入ってきていたかもしれないのよねぇ。運がよかったわよね」
「うだな~」
一番後ろから巨漢のンダミスが同意の声を出す
「トガノ様もこうなることを予見していたのかもな~」
フルウは頭を掻きながら冗談のように言う
「そのおかげで今回は仲間で重傷を負ったのはいなくて、軽傷も少数らしいわよ」
「それあれだろ? シントが言ってたように北にきた人間どもは囮だから雑多な奴ら、それこそ戦闘もできないような数合わせ共が多くて拠点に近付いて俺達に笛鳴らせたのを確認したら即退避してったからだろ?」
ここにいない心斗の話題があがる
心斗と言う名前にカナはそのフードの奥にある顔をしかめた
「そうそう。それで真反対の南、つまり私たちが見張っていた方角から本隊がきてたのよね」
カナの様子にフルウ達が気づくはずもなく心斗の話しは続く
「それな。もしシントとサチュ様、あとお前、ンダミスが残って足止めしてくれてなかったら俺達戦犯になるところだったよな…」
「えっ?」
「いやいや『えっ?』じゃねぇよ。だってそうだろ? 俺達は南を任されてたのに北の笛が鳴るやすぐそっちに全員向かってたらまんまと南から攻められてたんだぜ? それで多大な被害がでて誰が悪いってなったらそりゃ持ち場を離れた俺らだろ?」
「…あ、危ない所だったわね。ンダミス。あんた良く残ってくれたわ」
アミュルはンダミスにウィンクを送りながら褒める
「いや゛、おではただシントとサヂュ様が心配で…」
「でも…今は…本隊を追い返した…英雄…って言われてるよ…」
ここでずっと沈黙を守っていた最後の一人、背中から小さな黒い羽根を生やした少女、スズネが小さく細く呟く
「お!? それ本当か? だったらめちゃくちゃ良いじゃんかよ! そしたら俺達」
「何が良いものか!!」
フルウの言葉はカナの叫びで途中でかき消された
「おいンダミス…!」
「な、なんだ?」
急に叫び声を上げたカナに全員驚いて動けないところ、カナは最後尾のンダミスに近付き胸倉をつかむ
「本当に本隊が南に来ていたのか?」
フードの奥から怒りに満ちた目がンダミスを射抜く
「おい、いきなりどうした」
「どうなんだンダミス!?」
フルウが止めに入ろうとするがカナは無視をしンダミスに繰り返し叫ぶ
「き、きてただ! おではしっかりどはみでねぇが、サヂュ様とシントは近付いてきだ人間にいち早ぐ気づいで2人でこそこそ話しで作戦を練っでだど」
「しっかりと見てない? そう言えばお前は一人であの森の中私達と合流して居たな? お前だけ人間を見る前に逃げたのか?」
「ち、違うだ! シントが一人で人間達を足止めしてる間にサヂュ様が笛を鳴らすから、それの護衛でおでは人間をみる前にサヂュ様とその場を離れたんだ! そのあとマウル様がきてサヂュ様と一緒にシントを助けに行って、おではそれで1人でお前らを待っていたんだ!」
ンダミスはカナの眼光に恐れ早口で1時間程前の状況を説明する
「はぁ!? ちょっと待て、じゃぁなんだ? あいつ1人で人間達の本隊を足止めしたってのか? 3人でもふざけてるのにそれが1人とかシントはどんな化け物だよ!」
そこにまっさきに驚き声をあげたのはカナではなくフルウだった
「…フルウの言う通りだ。それにあいつは合流したとき疲れてはいたが怪我は負っていないようにみえたぞ!」
カナはンダミスの胸倉をさらに強く握り顔を近づける
「ほんどのこどなんだがらしがたねぇべ!」
「まぁまぁまぁまぁ! 良いじゃないの! こうして私たちの隊が全員無傷で、しかも結果が残せてるんだから! とりあえずカナはその手を離して。ね?」
先程まで驚き固まっていたアミュルがいつの間にかカナのすぐ後ろに立ち、怒りに震える肩を掴んでいた
「…クソッ」
アミュルの腕を振り払い、悪態をつきながらもンダミスから手をを離す
「ハァハァ…。し、しんじでぐれ。本当に、シントが一人で本隊を追い返してくれだんだ…」
「わぁったから。 な? 別に俺らはお前が【嘘】を言っているなんて思ってねぇよ。ただあのよわっちそうなシントがって少し驚いただけだ。皆もそんな感じだろ?」
フルウはンダミスに声をかけ、皆に同意を求めた
「え、えぇ。私もちょっとびっくりだもの」
「私も…シントに…そんな力がなんて…思わなかった…」
アミュルとスズネはフルウの問いにすぐに答えた
「ふざけるなよ…。私は何もしてないのに英雄だと? ただ北に向かい走り、戦闘に参加する前に元いた南に戻る為走っていただけじゃないか…! 私はシントが居た隊にたまたまいただけなんだぞ…!!」
だが、カナだけはブツブツとつぶやくだけで同意はしなかった
それどころか、先ほどまで歩いてきた道を1人戻り始めた
「おい! カナお前どこ行くんだ? 回復部屋はこっちだぞ!?」
「シントに直接話を聞く! あんな奴が1人で人間達を倒せるわけがない!」
カナは叫び足音を大きく響かせ歩いて行く
「おい! それだとマウル様の命令を…あぁクソ!」
「…ほっておきましょ。あの子頭に血が上ってるみたいだし、今止めてもきっと無駄よ」
アミュルは額を抑えながら言う
「そうもいかねぇだろ。俺ちょっと話してくるから先に4人で回復部屋行っててくれや」
「…わかったわ。じゃぁ先に行ってるけど、喧嘩しちゃダメよ? 私は怪我した男を慰めるのはごめんなんだから」
「喧嘩をしないって約束はできねぇが、俺からは手をださねぇってのは約束してやる。んじゃいってくるな!」
フルウはアミュル達にそう言いそろそろ見えなくなりそうなカナを追いかける
「…おせっかいなのね」
「ねぇ…」
「ん? なぁにスズネ?」
「4人…って言ってた…?」
「ん? そうよ? あたしとあんた、ンダミスとサチュ様の4人でしょ?」
「サチュ様…どこ…?」
「…あれ?」
「…そういや、最初からいながっだな」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
残った3人はしばらく動かなかったが、やがて溜息を1つ吐くとそのまままた目的地に歩き出した




