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嘘つきの異世界魔王譚  作者: 紅葉 咲
異世界 1日目
23/33

銀髪男の絶望と希望


「【お前、隊長にむいてねぇよ】」




…気持ち悪い





気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!





ハイネは嫌悪感(けんおかん)に呑み込まれる


「うるさぁぁぁあああああああい!!」


そして気づいた時にはハイネは大声をあげて後ろに飛び下がっていた


何故、敵は倒れないのか


何故、敵はこちらの見えないはずの刀身から繰り出される風と例えられる程の剣撃(けんげき)をことごとく避けられるのか


何故、敵は圧倒的不利な立場であるのにずっと笑っていられるのか




何故、敵は初めて会ったというのに自分の心の(ふあん)を簡単に(あば)いたのか




今迄出会ってきたどの敵よりも確実に、絶対に弱いであろう心斗に『灯』の隊長であるハイネは心から嫌悪していた


そして嫌悪するのと同じくらいに、いやそれ以上に恐怖していた


このままではこの弱者(ばけもの)に食われてしまうと確信し恐怖したのだ


だから大声をあげ逃げるように後ろに飛びさがったのだ


その時に剣を振り下ろしたのは意識の外、今迄の戦いの経験が身体を勝手に動かしたようなものだった


だが、その無意識の攻撃が状況を一変させた


ハイネの剣は刀身が他の剣より少し長い


そのおかげでハイネよりも早いタイミングで後ろに飛びのいていた心斗の身体に表面だけだが傷をつけた


心斗から少量の血が飛び散った


その事実に剣の持ち主は喜ぶ


剣で切れるということは殺せるということだ


当たり前の事だが、心斗の底知れぬ不気味さとさっきまで攻撃が当たらなかったということにより本当に殺す事が出来るのかと疑問に思っていた


ハイネはすぐに剣を中段に構えなおし敵である心斗を見やる


だが同時に心斗の様子がおかしいことに気づいた


敵は戦闘中であるにもかかわらず尻持ちをつき自身の(てのひら)を見ていた


表情はその掌のせいで良くは見えなかったが、笑っていないことは確かだった


それだけでハイネの心は軽くなる


(やった! とうとう笑顔をやめたな!!)


そして追撃(ついげき)を行う為に一歩心斗に近づいた


瞬間




「うぎゃゃぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁあああああああああぁあぁぁ!!」




魔物が、叫んだ


ハイネはその叫び声を聞くと同時に何かに後方に吹き飛ばされる


短い滞空(たいくう)のすえ地面に叩きつけられ転がる


だがすぐに転がる回転力を利用し飛びあがるように立ち上がる


いったい何がおこったのかと状況を把握しようとして、ハイネはすぐに自身の身に起きてる違和感に気づく


まずうまく息が吸えない


そして次第に頭が割れるような痛みがあらわれる


体重が倍になったかのように身体が酷く重い


視界は悪くなり、世界がグニャグニャと形を変えていると錯覚(さっかく)するほどの眩暈(めまい)が襲う


堪らずハイネは片足をついた


そして剣を地面に突き刺し、倒れぬように身体を支える


「ハァ…ハァ…。こんな隠し玉を…持っていたとは…!!」


心斗の思いもよらない反撃に毒づく


「…まさか…これは…≪魔力酔(まりょくよ)い≫…?」


そして少し考え、ハイネは自らに起きている異変によく似た症状に思い当たる


≪魔力酔い≫


それもこれは重度のだ


≪魔力酔い≫とは、自分の許容(きょよう)出来る以上の魔力を短い間に体内に取り込んでしまった時に起きる症状だ


普段、魔力の満ちている森や海域などに行った時に起きる症状である


魔力の満ちる場所では果物や水、果ては空気にまで魔力が含まれそれを身体に取り入れることで≪魔力酔い≫となる


魔力を使えば早くに治すことが出来るが、普段より多くの魔力を身体に溜めてしまっている為加減や制御が難しくなっており事故が多発するという事も報告されている


「クソッ…。いつ、どうやって魔力を流し込まれた…?」


また、これは魔力を他人に譲渡(じょうと)しすぎるとなる事もある


体内の魔力が宿主を殺さないよう細胞などに働きかけ怪我や体力を回復させるということはこの世界では一般的な常識とされている


その魔力の特性を生かし、魔力を持つ者が怪我人に魔力を譲渡させ怪我を治す技術が発明されている


だが魔力を他人に譲渡する場合、譲渡する側とされる側の魔力は多少似ていないと譲渡は出来ない


同じ血液でないと輸血が出来ないのと同じ理屈である


もし性質が違い過ぎる場合は拒否反応が起き譲渡する魔力は譲渡される側の魔力とぶつかりあい消えてしまうか、運が悪ければ魔力が暴走するので譲渡は不可能である


なので魔力を譲渡する者は譲渡する側の体に触れ、魔力を相手と同じものに調整せねばならない


また、相性の良い魔力を譲渡されても量が多すぎると回復に身体が追い付かず結果≪魔力酔い≫が起きる


そして今、ハイネはまさにその状態であった


(まさかあいつは触りもしないで俺に魔力を注いだのか? いや、そもそも何故魔物の魔力が人間の魔力を持つ俺に注げたんだ? そもそもこれは本当に≪魔力酔い≫なのか…?)


朦朧(もうろう)とする頭でハイネは考えるが答えは出ない




「あぁああぁぁぁぁあああぁぁぁっ……」




そして、ハイネが答えを出す前に魔物の叫びは終わった


心斗は獣のような叫び声を終えると、糸の切れた操り人形のように頭から地面に倒れ動かなくなった


「…いったいなんだっていうんだこいつは?」


ハイネは敵が倒れて動かなくなったという好機(こうき)を前にただただ呆然としていた


もちろん酷い≪魔力酔い≫のせいで動けないと言うのもあるが、あまりに目の前の敵が自分に理解出来なさ過ぎて次にどう行動すればよいのか分からないのだ


最初は魔物に連れ攫われた哀れな力のないただの人間に見えた


次は自分達を騙し罠にはめようとする卑劣(ひれつ)で小賢しい魔物だと思った


湖に落ちてからはまるでさっきまでの哀れな姿が【嘘】のように消え、ヘラヘラとした笑顔を顔に張り付けた悪意の塊のような魔物に変わった


かと思えば水獣の酸が直撃する瞬間に自分に酸がかかりそうになりながらも自分を木の陰に突き飛ばし助けた


その後、奴隷の死体を抱きかかえ泣き喚き


こちらから攻撃を仕掛ければことごとく回避され


こちらが隙を突かれ体当たりを受ければそこらの子共とすれ違いざまに誤ってぶつかったのかと錯覚するほどの非力さ


最後に感じた言葉をかわした瞬間の気味悪さ


そこでハイネは仲間の事を思い出した


そして無事なのか振りかえろうとして心斗の言葉が脳裏をよぎる


『お前、隊長に向いてねぇよ』


一瞬、動きが止まる


だがすぐにそれを無視して振りかえろうとする


が、ハイネは振り返る瞬間湖から大きな禍々(まがまが)しい影が現れるのを見た





――――――時間切れ





目の前に再び現れた悪夢


水獣が、自分の仲間が湖に押し戻した水獣が再び現れた


「「「「GIAAAAAAAAAAAAAGAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!」」」


声は、大きすぎて3重に聞こえた


水獣の姿は先ほどと大きく変わっていた


まず大きさが変わっていた、一回り大きくなっている


色が変わっていた、銀色の鱗は所々赤く染まっている


大きな牙が2本から6本に変わっていた


背中から骨のようなものがいくつも隆起していた


紅い、目に見えるほどの魔力に包まれていた


「…ハハッ」


その変わり果てた水獣のハイネは笑った


尋常な様子ではない水獣、形をもった『死』を目の前にして笑った


笑うしかなかったのだ


そしてその笑顔は皮肉にも先ほどまで相対していた魔物、心斗と同じ種類の笑顔だった


自身は≪魔力酔い≫のため思うように動けない


いや、万全に動けたとしても同じようにハイネは笑っただろう


この『絶望』にハイネは笑う


「「「「BIAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!」」」


水獣は声を上げ続ける


「?」


ハイネはそこで水獣の様子がおかしい事に気づく


「…苦しんでいるのか?」


水獣は湖の中から出てきてその長く大きい身体をめちゃくちゃにくねらせている


そして先程からハイネの耳にこだまする水獣の声は威嚇や咆哮とちがい、苦しさに叫ぶ声に聞こえた


そして、その声の質が違うことに気づきさらに耳をすませる


「「「BIYLALAAAあAAAAA!!KULAAああA!!」」」


「「「AくAAAAAAAAああAAくるAAA!!!!」」」


「「「AAAAGU<いAAAAAAAやAAA」」」


「「「AAAAAAしAGIAAAAA」」」


「「「KUAAAAA!!くる、AAAAAしい!!!」」」


「「「ああああああああああああああああああ!!!」」」


「!?」


そしてハイネは気づいた、水獣が、言葉を叫んでいることに


背中に氷を入れられたような感覚


恐怖。先程の心斗から感じた恐怖とはまた別種の恐怖がハイネの心をつらぬいた


「「「いあたいいあああ痛いいたいたああああたたたいいいいい!!!!」」」


水獣は言葉で叫んでいた、喋っていた


「い、いったいなんだ?! なんなんだぁぁ!!?」


獣が喋る


その事実にとうとうハイネは叫ぶ


今自分が置かれている状況に対し叫ぶ


その叫びに水獣は初めてハイネの存在に気付き、そのまま倒れて来た


「「「あAaaAaaaああ!!!助けぇけっけ、助けてくrてぇぇえええええ!!!」」」


「ヒィッ!!」


水獣が倒れ、地面を這い甲高い声を上げながらでハイネに突っ込んでくる


ハイネはその時、水獣と眼が合った


紅く、紅く充血した眼と自分の眼があった


「うぁぁ、く、来るな・・・! こないでくれぇぇぇえええ!!!」


ハイネは<魔力酔い>で動かない身体を恐怖で支配し、水獣に背を向け叫びながら走り出した


そして彼は見た、後ろに待機していた仲間たちが彼を助けようとこちらに向かってきている光景を


その光景を見てあっけにとられたせいか、魔力酔いの影響かはわからないが走り出してすぐハイネは足をもつれさせる


だが、地面に倒れこむ前に金色の髪を持つの男、スーザがハイネを支える


「クッ!! …行くぞガライ!! オイ!!」


「ああ!!」


「あんな化け物と関わってなぞいられないですからね!!!」


すぐにほかの仲間、大剣使いのガライと左腕をだらんと下げたオイも駆け寄る


「み、みんな…」


ハイネは目に光を取り戻し言葉を吐息出す


「喋るな! お前は今特殊で重度の<魔力酔い>を引き起こしている!!」


「お前みたいな魔力の容量が多い奴でも魔力酔いはおこすんだな!!」


「酷い顔をしていますよ隊長。喋る前に隊の女性方にその顔を見られないよう何とかしておいてください」


3人はハイネに各々(おのおの)声をかける


「「「まってくれぇぇぇええええええ!!!たすけてくれぇぇぇえええ!!!!」」」


水獣はとうとう獣の叫びから完全に言葉を叫びながら逃げだすハイネ達を追う


「「「なんdぇぇえぇええにげるんだぁぁあよぉぉおおおお!!!?」」」


「おいスーザあいつ何なんだよ!!」


「私が知る訳ないだろう! 魔物でもない野生動物が魔力の見えない私たちでも見えるほどの魔力を(まと)い、しかも喋るなんて前代未聞(ぜんだいみもん)だ!!」


「さっきまでと姿も違いますし、何があったんですか!!」


ハイネを抱えながら走る3人は水獣の叫び声にかき消されないよう大声で話す


「「「なぁぁああたすけてくれよおぉぉおおおしにたくねぇぇlんだぁぁlyぉぉぉお!!」


「「「助けてぇぇくんねぇぇなぁあぁぁらぁぁああ!!!」」」


「「「いっしょにしんでぇくれぇぇぇよぉおおおおおおお!!!」」」


そんな3人の会話を無視して、水獣は牙が6つに増えた口を大きく開け4人を呑み込もうとする


だがその大きく開けた口には4人の代わりに風の(かたまり)が飛び込んだ


「「「あぁぁぁあああああああああ!!!?」」」


水獣はひるみ、その間にハイネを抱えた3人は水獣の攻撃範囲から離脱(りだつ)する


「よくやった! リー!!」


スーザは目の前で杖を構えたままのリーに声をかける


「はやく・・。さっきより厄介・・・。ただひるんだだけ・・・」


リーは今打ちこんだの魔法の影響で疲れ、倒れそうになった身体を弓を持ったクアラとゼルに支えられていながらも律儀にスーザの声にこたえる


「あぁ!!このまま走って逃げるぞ!!」


「お前さっきまで魔力ないとか言ってなかったか!?」


「なんか…回復した…」


「なんで!?」


「「「まってyぉぉお!!まてよぉおおおおおぉおお!!!」」」


「あの化け物しっつけぇなぁ!!」


「喋ってないで足を動かす!!」


「あぁ…可哀想に…!」


「とにかく森に入りましょう! あの大きさなら木々が邪魔して自由に森の中を動けないはずです!」


後方で待機していた者たちとハイネ達4人は合流し、木々が生い茂る森の中へ走る


「「「がぁぁぁああああ!! くそぉぉおおお何でぇっぇぇえええ!!?」」」


「くそはえぇ!!」


「このままじゃ森に逃げ込んでも無理やり追ってくんじゃねぇのか!?」


「嫌なこと言わないで下さい!!」


水獣は態勢を立て直し走る9人を追う


そのとき、ハイネは叫ぶ


「水獣!!お前は何が目的で私たちを追う!攻撃する!なぜ殺そうとする!!?」


その叫びに『灯』のメンバーは驚く


自分達の隊長が喋るとは言っても野生動物に話しかけたのだ


だが、その次に聞こえた声にさらに驚くことになった


「「「一人はいやだぁぁあああ!!!」」」


「「「ひとりだけでもいいがらざぁぁぁああ!!一緒にじんでぇぇぇえええ!!!」」」


野生動物が言葉に反応し、叫び声ではあるが意味の有る言葉を紡いだのだ


目から紅い液体を涙のように流しながら叫んだのだ


「…くっ!なら!!」


ハイネはその言葉を聞き、一番後ろを走っていた一人を蹴り飛ばす


「あうぅ!?」


その一人は短い悲鳴をあげ水獣の方へ転がった









その蹴り飛ばされた一人は、粗末な服を着た少女だった














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