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嘘つきの異世界魔王譚  作者: 紅葉 咲
異世界 1日目
22/33

VS銀髪男 2

紅い星が空を支配する夜


水獣が出る湖の近くでは、帝国から要請をされ集められた傭兵団『灯』の隊長:ハイネと特に特長のない男:心斗(しんと)は対峙していた


ハイネは油断のない顔で自身と対峙する余裕(よゆう)の笑みを浮かべる心斗を睨む


一方の心斗は内心で泣きながらも表情は余裕の笑みを顔に張り付ける


…このまま助けが来るまで(にら)みあいで終わらないかなぁと心斗が願うと同時にハイネが動く


腰をかがめ剣を身体の横に構え猛スピードで迫る


「クソが…!!」


悪態(あくたい)をつきながらも近付いて来るハイネから視線を外さず半身になり腰を落とす


「ハァッ!!」


心斗を間合いに入れると同時に首を飛ばそうと横凪(よこなぎ)に刀身の長い愛刀を振るう


「ヒィッ!?」


情けない声をあげながらも心斗は横に剣を構えてることは攻撃は横凪と読みきり早めにハイネから視線を外さないまま身をかがめて回避をした


「フッ!!」


横凪をかわした心斗にハイネの鋭い蹴りがすぐさま放たれる


「くぬぁ…!!」


何とかそれを腕でガードをし頭への一撃は守れたが、ガードした腕からは嫌な音がした


だがそれを無視して心斗は、蹴りをした為に一本だけとなったハイネを支える足へ足払いをしかけた


が、ハイネは器用に片足だけで後ろに跳びそれを容易に避けられる


そして呼吸をすることもなくまた剣を頭上に掲げる構えをとった


それを眼で確認するのと同時に心斗は横へ跳ぶ


そしてすぐに衝撃


あたりには砂煙(すなけむり)が舞う


その砂煙から銀の光が現れ心斗を追いかける


だがさらに後方へと無様(ぶざま)にも転がり続ける心斗にはその光りは届かなかった


「チッ!」


銀の光の持ち主は手ごたえがないのに舌打ちを鳴らしながらまた頭上に剣を持っていく


ここだっ!!


心斗が内心でそう叫びながら立ち上がりハイネから距離をとらず逆に近付く


その行動に頭上に剣を(かか)げたハイネが驚き動きが一瞬止まる


「お前、甘ぇよ」


動きの止まったハイネに向け心斗はさらに口角を吊りあげながら言う


ハイネの持つ剣は普通の剣よりも刀身が長い為、心斗が近付くことによりハイネは剣で攻撃が出来なくなる


そして両手は剣を握った状態で頭の上にあるので接近を止める事が出来ない


普段のハイネならこのように敵に接近を許すことは無かった


しかし心斗の動きが素人でさらに無手であること、時間を稼げば仲間が来ると言う状況から逃げに徹すると考えていたため守る事よりも攻める事に集中をしていた


そしてその考えは簡単に心斗に見透(みす)かされていたのだ


心斗はその敵の動きが止まった一瞬を逃さずそのままの勢いで体当たりをする




が、びくともしない




ハイネが咄嗟(とっさ)に足だけで()()ったのもあるが、単純に心斗の力足らずである


それも当然の結果であった


ハイネは普段から体を鍛え、日々野生動物や敵対勢力から人々を守り金銭を得て生活する傭兵なのだ


しかも『灯』は戦争をいくつも生き延びて来た玄人を集めつくられた傭兵団


その隊長である『風斬(かざぎり)のハイネ』に体力が小学生の心斗の体当たりがとおる訳は無いのだ


心斗には壁に思いっきり体当たりをした時のようなダメージが入る


が、心斗は笑みを浮かべながらその痛みを我慢しすぐにハイネのさげようとする腕を両手で押さえる


体当たりが全く効かなかったことに絶望をしていないわけではない


ただ単純にもう笑ってないとやってられないのだ


そのまま2人はお互いの心臓の音が聞こえるほどの距離で睨みあう


動きは素人


武器も持っていない


鎧もきていない


魔力も使ってこない


攻撃力の低さも今ので理解した


だが、ハイネは心斗に恐怖をした


「なぜ笑える!?」


思わず叫ぶ





それがいけなかった





ハイネの見せた心の弱さに、心斗(うそつき)の笑みは強さを増した


「【おいおいどうした? 何怖がってんだ?】」


「怖がってなど…!」


「【いぃや嘘だね怖がってるね目を見れば分かるお前は俺を怖がってる。何で怖がってるか当ててやろうか?俺がずっと笑ってるからだそうだろ?】」


図星を突かれハイネは声を失う


心斗からしてみればただ『なぜ笑える!?』と言う言葉から考えたただのあてずっぽうである


だが声を失うハイネにそれがドンピシャだったと気づく


「【そりゃ笑うに決まってるじゃねぇか?嗤うに決まってる。お前はかっこよく一人で俺の所に向かってきた。それはいい。まさにヒーローだ。が、おいヒーロー?いつまでザコに時間使ってんだ?さすがに観客は飽きてるぜ?】」


そして心斗は視線をハイネの後ろへ向ける


ハイネは後ろは向けないが、後ろに何がいるかは知っていた


ハイネの仲間たちだ


「【おいほら見てみろよお前の仲間たちの顔をよ。あんなあきれ返った顔はそうそう見れねぇぞ?まぁそれも仕方ないよな。なんせ自信満々で決め技使って突っ込んだ隊長が武器も鎧も魔力も何もない動きが素人のザコ魔物にこんなに時間かかってるんだ。呆れない方がおかしいよなぁ?】」


もちろん【嘘】だ。現実にはただただ心配そうにハイネを見守る仲間たちの姿があるだけである


この【嘘】ハイネが後ろを振り向けばすぐにバレる【嘘】


だが心斗はこの【嘘】を選んだ


敵である自分から目線を外しハイネが後ろにいる仲間達を見る事ができないことを心斗は知っているからだ


そしてハイネは身体が熱くなる


そんな訳がない。仲間が自分に呆れるわけがないと必死で考えるが、心斗の笑いが余裕の笑みから嘲笑の笑みに種類を変えたことでまさかという思いがよぎる


「そ、そんなはずはない嘘をつくな。彼らは私の実力を認めてくれた。こんな私が隊長に相応しいと認めてくれたんだ」


それを隠すため言葉を紡ぐが、心斗(うそつき)にそれは情報提供以外のなにものでもなかった


『こんな私が』という言葉から、ハイネが自分が隊長で本当に良いのかと心のどこかで思っているのではないかと推理した


事実そうであった


先程もいったように『灯』は戦争をいくつも生き延びて来た玄人を集め作られた傭兵団


隊長であるハイネも名が轟く人物ではあるが、他の団員も同じように有名である


そのような集団の隊長に選ばれた自分は本当にこの玄人達をまとめる資格があるのかという不安を抱えていた


そこに【(どく)】が注がれる


「【ばぁかそんなの【嘘】に決まってんじゃんか。お前なんかよりなんだ? あの金髪の男なんか隊長むきじゃねぇか?】」


心斗は視線をハイネの後ろからハイネに、ハイネの眼に戻す


ハイネは金髪の男と言われ冷静になる


ハイネと金髪の男、『スーザ』は幼馴染で隊の中で一番気の許せる友人であったのだ


「確かにスーザは優秀だが、彼こそ私を隊長にと推してくれた人物だ」


ハイネの眼には先ほどの心斗の言葉に揺らぎかけた仲間への信頼が戻る


「【いやそれ隊長が面倒だからお前に押し付けただけだぞ?そんなことも気づけねぇからザコの俺にこんな時間かけてるんだよばぁか】」


そしてすぐにそれは折られる


「【お前もそこそこ優秀みたいだが他の奴らの方が優秀だろそうだろ? どうせはやし立てられていい気分で隊長なんてものになったんだろうがご愁傷さまそれただの押し付けられた面倒な役だぞ?】」


「それに初めてお前と話す俺からもわかるが」


ハイネは耳をふさぎたくなるが、手は剣を持っているし、それ以前に心斗に腕を抑えられていた


そしてハイネが一番恐れる言葉(うそ)が紡がれる


「【お前、隊長にむいてねぇよ】」





「うるさぁぁぁあああああああい!!」





「ちょッ!!?」


ハイネが叫びながら力の方向を心斗から後ろに移動させていく


心斗はそれに気づくや否や即座に腕から手を離し後方に飛ぶ


心斗としてはこのまま戦意を喪失してくれればと【嘘】をついていたのだが、結果は真逆であった


鬼の形相のハイネは後ろへさがりざまに剣を振り下ろす


心斗はそれを予期して早めに飛び退がったのだが、ハイネの斬撃の速さはそれを上回った


その時、心斗の嫌に良く見える眼が全てを見た


全てが遅くなった感覚


心斗の身体は目玉以外動かない


その動く目玉すら全てが遅い世界で唯一普通に動く剣を捕らえたまま離さなかった


そして剣は動かない心斗の肩から胸までを軽く撫で、通り過ぎた


瞬間、心斗の身体に『熱』が走る


その事実に、心斗の思考が目の前の敵から自分にうつった


全身から汗が噴き出る


心臓が暴れる


そして剣に撫でられた部分から血が溢れる


身体から何かが溢れる


時間がもとに戻った


心斗は尻持ちをついた


身体で一番熱い場所を触る


ドロっとしているのによく滑る


そんな気持ちの悪い感覚にこの戦闘で初めて心斗の気味の悪い笑顔に影が差す


鉄の匂いが鼻を刺激する


思わず鼻を抑えようとした時に掌を見た


見てしまった


その掌は赤黒い液体で染まっていた


現実が心斗を襲う


斬られた…?


本当に…?


心臓がうるさい。考えがまとまらない…


え? マジで斬られてるよな?


熱い。汗が止まらない? 何で?


熱を持つ所がどくどくと脈を打ってるようだ


なんで?


斬られたからだ


本当に斬られた


殺す気で斬られた?


殺す気だ



そうだ血が出てる


絆創膏(ばんそうこう)は?


いや包帯か?


そんなことより手に血が血が垂れる血が出る溢れるあれ血ってどんだけ出したら死ぬんだっけまっていやに身体が熱い熱い? 


いや、痛い




痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!




「うぎゃゃぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁあああああああああぁあぁぁ!!」


心斗は混乱しその場で大声をあげた


その声は人の声と言うよりは獣の声に似ていた


















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