VS銀髪男 1
「奴隷だろうがなんだろうが人を消耗品みたいに言うんじゃねぇよこの人でなしがぁ!!」
もう当初の目的であった保護してもらうこととか、そういった事はもう関係ねぇ!
ただ目の前に無駄にかっこよく立ちはだかる腐りきった考えをさも常識のように何の疑問もなく語るこのいけすかない銀髪の男をブン殴ってやる!
俺の怒声を聞き、もう話すことは無いとばかりに銀髪の男は大きく長い剣を頭の上にかかげるように構える
あの構えは確か高校の授業、選択体育の剣道で剣道部の伊藤がうぜぇドヤ顔しながら見せて来た『上段』に似ているな
にしてもあんのやろう銀髪でハーフみてぇな整った爽やかフェイスに剣を使うとかどんだけかっこよさレベル上げるきだよふざけやがって…。ぜってぇかっこいい必殺技名とか叫ぶだろ
…ん? そういえば俺素手じゃなぁい?
おいおいあっちはかっちょいい剣持ってんのに俺素手じゃん!
ついでに俺はだせぇ私服であっち銀の鎧着てるじゃん!!
え? 確か槍に剣で勝つには三倍の技量が必要って聞いたことがあるが、剣に素手で勝つには何倍の技量が必要なんですかい?
というか剣で切られたらどうなるんだっけ?
人は剣で切られたら死ぬんじゃないっけ??
……俺死ぬ! このままじゃ俺あいつの剣の間合いに入った瞬間死ぬ!!
死にたくねぇ!
ブン殴るの中止! 作戦を『ガンガン行こうぜ?』から『命を大事に(ガチ)』に変更!!
何か知らんがあの銀髪以外こっちを睨みながら下がるだけで特に何もしかけてこようとはしてないし今のうちに逃げるぞ!!
「そうと決まれば!!」
俺は逃げ道をさがすため周りを見回す
後ろには化け物が出て来た湖。後ろは無し
右は木々が倒れ積み重なり天然の壁を形成していた。右も無し
左には木々が広がり近くには木に押しつぶされた死体があった
…クソが
俺は再び正面の人でなしの集団を睨む
集団は相変わらず銀髪が剣を上段に構えたままで他は後ろで何かしているだけだった
?
なんだ? 銀髪の足もとに何かが集まっている?
あれは…あぁそうだ、俺が最初の方に青髪の女にぶつけられたやつだな
あの謎の物質?を銀髪は足元に集めて何しようとしてんだ?
というか、何であいつはこんなに俺と離れてるのに上段に剣を構えて動かないんだ?
何を企んでやがる?
…考えろ。相手は今何をしようとしている?
上段の構えの特性は?
あの構えを見る限り、敵を斬る為に必要な動作は剣を振り下ろすだけで可能だな
と言うことは、斬り下ろす攻撃に限れば最速の行動ができるということか?
だが振り下ろす速さがあってもこの距離じゃ意味は無いよな…
まさか俺が突っ込んで行くのを待っているのか? それで突っ込んできた所にカウンターでも入れる気か?
『パチン』
…いや、あいつらは俺の味方が来ると思っているから出来るだけ早く俺をどうにかしたいはずだ
ならしかけてくるのはあちらからだろう
俺は味方が来るまで時間稼ぎをするのが役目だと【嘘】を言っているから俺が無理して突っ込むなんて考えないはずだし
だがあの銀髪は俺に近付いて来る様子は無いし、後ろの奴らも弓を使ってくるわけでもない
むしろ少しずつ後ろに下がってすらいる
なら、やはりあの足元に溜まり続けてる物質に何かあるということか
あの物質って確か俺の目の前にきた瞬間爆発した物質だよな
爆風で湖にぶっ飛ばされたんだよなぁ俺
今思えば中々恐ろしいな。あんな化け物のいる水中がなんも見えない湖のなかに落とされるとは
…あれ?
「
1・『上段という相手が間合いに入ったら最速で斬り下ろす事の出来る構え』
2・『必ずあちらから仕掛けてくる』
3・『後ろに下がる銀髪の仲間』
4・『足元に溜まる爆発する物質』
5・『爆風でぶっ飛ぶ』
」
俺は考えの要所を声に出し確かめる
「まさか…!?」
俺は銀髪を見る
銀髪は目を閉じていた
何してんのあの人!?
じゃなくて!!
銀髪の体の向きは完全に俺を正面にとらえていた
そして俺と銀髪の間には障害物は何もない
上に構えた剣は、まっすぐ振りおろせば俺をちょうど斬れる位置にある
銀髪の足もとに溜まり続けていた物質は青く色づく
銀髪の仲間は、全員が後ろに下がり頭を低くしていた
「マジでかお前!?」
俺が叫びながら左側に走り出そうと足を動かすのと同時に爆発音が鳴り響き、空気が大きく振動し木々が大きくざわついた
瞬間、銀髪が上段に剣を構えたままものすごい速さで俺の方にまっすぐ飛んでくる!
「うぎゃぁぁぁああああああああああ!!!」
俺は即座に走るために出した左足に力を込め思いっきり跳ぶ
そして、先ほどまで俺のいた所に銀色の光が通り過ぎた
俺は地面を無様に転がりながらも急いで態勢を立て直し、先ほどまで俺がいた所を確認する
そこには銀髪の男が片膝をつき大きな剣を上から下に振りきった状態で俺を驚いた表情で見ていた
「…まさか、これを回避するとは」
銀髪はありえないとばかりに小さく呟く
「【…クハハハハッ。おいおいそんなに驚くような事かぁ? 俺はただお前が攻撃してきたから避けただけだぜ? それとも何か? 今のただ勢いよく突っ込んでくるのは必殺技か決め技か何かだったのか? だったら悪いことしたな、こんなに簡単に避けちゃってよぉ。あぁでもそんな訳ねぇかぁ? だってただ勢いよく突っ込んで攻撃する技とかそこらのガキがやるようなことだもんなぁ?】」
銀髪男があまりに動揺していたからここぞとばかりに【嘘】をついて心をえぐってみる
「…『うぎゃぁぁぁああああああああああ!!!』と聞こえたが?」
「【気のせいじゃね?】」
「…だが驚かされたぞ。まさかお前があれをかわすとは思わなかった。素直に感心だ」
「ハッ。敵に感心される覚えはねぇなぁ」
俺は少しでも時間を延ばす為とにかく喋り倒そうと口を動かす
余裕を持った爽やかな笑顔をつくるのも忘れない
「それにあんなの見れば誰でも一瞬わかるぜ? 動くには向かないが振り下ろすのに最適な構え、お前らの最速で俺を倒さなければならない状況、足元に溜まる爆発物質、後ろに下がるてめぇの仲間、これだけヒントがありゃぁお前が何を企んでるか手に取るようにわかったぜ?」
まぁこいつが爆発の力を利用して構えた状態のまま吹っ飛んでくるのに気づいたのは本当に直前だったがな
「なるほど。やはり君はこの暗闇でも遠くにいる私たちの動向が見え、しかも魔力の動きを見る事も出来るのか」
「あぁん? これが暗闇か?」
「暗闇さ。紅い星がなければ私は君に攻撃が出来なかったよ」
「へぇ。そう」
興味ねぇな。てかお前目を閉じてたよな?
「だが、」
銀髪男が喋りながら下ろしていた剣を俺に向けて斬り上げる
「おおぉい不意打ちぃ!?」
俺はすぐに後ろに跳んでかわす
「…やはり動きは素人そのものだね」
銀髪男は立ち上がり剣を俺に向け言う
「いつまで私の剣をかわせるかな?」
クソ。ここで土下座とかしたら許してくれるかな




