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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

セイント☆ヴァージン☆バーニング

作者: 04号 専用機

 風にたなびく黒い髪。スラリと伸びた清き四肢。往く道に残る甘美な香りに、人は幻を見ると言う。

 その体は細く、柔く、儚げで、それでいて生命力に満ち満ちて、きっとしなやかで、どこか透明に感じるのだろう。

 未だその、制服の下を見たものは、かつての歴史に一人もその名を刻んではいない。

 なぜなら彼女の身を纏うのは、制服と呼ばれる一種法衣のようなものだったから。

 その名はそのまま処女を指すのだと、この世の誰かが呟いた。

 それは真かはたまた嘘か。

 この黄昏の中最後まで残ることが叶うなら、それはこの世の真理と成る。

 人は彼女をこう呼ぶ。


 聖処女と!


◆◆◆◆


 沈む日を挟むようにして二人の少女が立っていた。

 互い対峙し睨み合う。

 一人は黒い髪を長く腰まで伸ばしていた。

 一人は髪を後ろで一つに結っていた。

 一人はセーラー式の制服を身に纏い。

 一人はブレザー式の制服を身に纏い。

 互いに武器は一つも持たず。

 髪を結っている方の少女が、口を開いた。

「やっぱりこうなったね。分かってたよ、こうなることは」

 弾むような声だった。幼く、優しく、そして心に響く声。

「いつも助け合って来た。貴方と私。いつも二人で一人だったよね」

 そう言ってしばし天を仰ぐ。

「始めて会ったのはいつだっけ……」

 その目には、遠い昔の日が映っていた。


◆◆◆◆


 その出会いは暑い夏の日。

 二人は同じ予備校にいた。

 緩いクーラーに当てられて汗をかきながら、二人は隣同士で板書に向かっていた。

 その時から二人はセーラー服とブレザーだったし、その髪だって今と同じだった。

 長い黒髪の――名を、清水 有希奈と言う――彼女は、その隣に座る少女に、なぜか興味をそそられた。

 有希奈は何も知らない少女であった。

 その日、二人が変える時間になって。

 有希奈は始めて決意した。

 というのも、この時有希奈よりも、隣の彼女の方が成績がよかったから――声は掛けやすかったのだ。教えて欲しいこともあった。

 だから、缶コーヒーを二本持って、彼女は声を掛けたのだ。

「東雲さん!」

 彼女の名前。

 それが、東雲 篠が初めて聞いた、清水有希奈の声だった。


◆◆◆◆


「ユキはすごいよ……どんどん私を追い越していった。私よりあとにこの戦いに飛び込んだのに」

 篠の声は何かを懐かしむようで。

 有希奈はただ静かに、その瞳を見つめ返す。

「でもね。これは譲れないよ。私の……たった一つだけ残った理由だから」

 この戦いは信託を受けた少女だけに与えられたもの。

 お互いがお互いの「清さ」を賭ける戦い。

 条件はただ一つ。清楚であること。

 その審査さえも随分と緩いものなのに、世界で信託を受けた十代後半の少女は百人にも満たなかった。

 その中から一人だけ。

 一人だけに与えられる称号。

 真なる潔癖、真なる清楚、真なる乙女、真なる処女。

 その称号を、聖処女と呼ぶ。

「私は聖処女になる! もう誰も……苦しまなくて済む世界を作るんだ!! 男なんて……男なんて……男なんてこの世界に必要ない!!」

 その言葉に、清水有希奈は答えた。

「負けない」

 静かに。力強く。

「私はあなたに勝ちたいから。ずっと追いかけてきた、あなたに」

 心に一遍の曇もないその言葉は、東雲の心に翳りを生み出す。

 もう、この二人しか、残っていない。

 片や前を走り続けた少女。

 片やそれを追い続けた少女。

「私に、か。……有希奈はさ。聖処女を目指す理由とか、ないの?」

 有希奈はふと目を閉じた。

 理由か、と、己に問い掛けて。

「ないかな。少なくとも、それになった先のことは何も考えてないよ」それ即ちは清きこと。「貴方を超えて行きたい。あるとすればそれだけ」

 それだけだ。

 清水有希奈にとって、今残ったものはそれだけなのだ。確かに戦いはあった。思うべきことも、数え切れないほどあった。

 だけど、と、有希奈はゆっくり目を閉じた。

「ああ、そういえば、一つだけあったな」

 思い出すように、有希奈の開かれた目はゆっくりと空を向いていた。

「ねぇ、シノ。伝えたいことがあるんだ」

「伝えたいこと?」

「うん。……私が勝ってから、話すね」

「あはは。言うようになったね」

 東雲篠は微笑んで。

「いいよ。じゃあそろそろ始めようか」

 二人は再び、対峙する。

「これが最期の戦いだ」


◆◆◆◆



「あの子が好き」

「あの人が好き」

「だからこの体で応えたい」

 みんながみんな、それぞれの戦う理由があった。

 だけど、私にはそれが良く分からなくて。

 みんな恋のために戦うのだと言うけれど、私にはそれが分からなかった。

 清さを賭けるのだというならば、それは不純だと思っていたから。

「んー……たぶん、その想いは純粋なんだよ。だから清い。混じりっ気なしの100% どうしても叶えたい夢」

 かく言う東雲さんも、同じ理由を持っていた。

 でも、 私はそれが他と同じ思いには見えなくて――

「あはは、一度も付き合ったことない処女が、何言ってんだって感じだけどね。……だけど、どうしても好きって気持ちはあるんだよ」

 ――それはきっと、他より純粋な思いだから。

 私が首を傾げると、シノはいつものように、私の頭を撫でてくれる。

「ユキには早いよ。ずっと勉強一筋だったもんね」

 そんなことない。膨れて言い返すとシノは笑う。

 私だって知ってるよ。私にだって分かるもん。だから笑わないで。

 そんなボロボロの体で。

 そんなになってまで戦って欲しくない。

「私は大丈夫だから」


◆◆◆◆


 シノは強い。

 有希奈はそれを知っている。

 処女には構えがない故に、互いを知ることがまず何よりの攻撃になる。

 どんな性格をしているか。

 どんな生き方をしてきたか。

 それが処女の強さに直結するからだ。

 だから二人は、互いにその強さを知っていた。

「…………」

 沈黙は重なり。

「――――ッ」

 始動するのもまた同時。

 風が吹いた。

 制服の裾がはためいた。

 はためいたスカートとソックスの隙間から、健康的な太股が煌めいたように見えた。

 風を切る音。

 有希奈のスカートが大きく揺らめく。その刹那に産まれたのは、見えるか見えないか、下手をすれば己の純潔に傷が付きかねない危険なチラリズム。

 僅かに露出された肌色の脚部がその最奥に秘められた聖骸布とでも呼ぶべきそれの姿へと妄想を掻き立てる。

 だが、しかし。

 有希奈の回し蹴りが炎を纏う。

 それは「可視にして不可視、故に心眼にのみ宿る映る聖域」と言われる絶妙なバランスによって生み出される焔。

 烈火。

 燃え!

「せぁ!!」

 炎を纏った蹴りがシノを捉えたように見えた。

 次の瞬間、その蹴りが斜め上へと流される。その軌道に対して滑走路のように後を追う白い腕が見えた。

 回し蹴りは見事なまでにいなされた。

 東雲篠によって。

 殺された威力はそのままいなした腕に宿る。

 円運動を加えて両掌が前へと突き出され有希奈の胴を捉える。

「甘いッ」踏み出した足が地面に食い込んだ。「メンブレン――」エネルギーが脚を経由し体を伝播する。「ショット!!」

 迸ったエネルギーは蹴りの威力を巻き込んで有希奈の体躯へ流れ込んで炸裂する。

 外部ではなく内部へ。

 線ではなく、面で。

 突くのではなく、穿つ。

 有希奈の黒髪が風になびいたかと思うと、攻撃による衝撃が、思い出したかのように有希奈の体を吹き飛ばした。

 数歩離れた場所で踏ん張りを効かせた有希奈に変わらず向けられた掌は、僅かな廃熱によって細く煙を上げていた。

「相変わらず」

「そちらこそ」

 処女のみが生き残れる理由はその防御力にある。

 それこそが、東雲が打ち込んだ「メンブレン」に象徴されるもの。

 処女はその身に盾を持つ。だからこそ攻撃に耐えることができる。

 その体は得てして柔らかい質感を持つが、時に堅硬にして堅牢な砦の中にその心身を封じ込めてしまう。

 それは得難く落とし難いからこそ清純なのだ。

 そして、その守りが揺らいだ隙には炎のような情熱を生じさせる。

 その二面性こそ、処女の攻撃力と防御力。

 さすがにここまで残ったこともあるのか、両名共に白兵戦の実力はどこを取っても均衡している。――性質は真反対ではあるが。

 その四肢を振るい、チラリズムを攻撃力に変えて叩き込む、豪を象徴とする有希奈。

 対し、壁によってその力を跳ね返す、柔を象徴とする篠。

 しかし、攻撃を続けるということは、互いの処女を、清楚さを徐々に欠いていくことに他ならない。長引くほどに力は下がっていく。

 その最たるものが服装の乱れ。それは攻撃力を爆発的に上げるが――

「鉄壁の前には! 無意味!」

 同時に、著しい防御力の低下を伴う。

 文字通りの鉄壁を誇る東雲篠に対してはあまりに無謀に見える凶行。

 だが。

 清水有希奈は止まらない。

 清水有希奈は迷わない。

 なぜなら信じているからだ。

 なぜなら知っているからだ。

 そして教わってきたからだ。

 真っ直ぐな想いは何より清く、絶対に伝わるのだと言う事を。

「通るよ」否。「通して見せる!」鉄壁だと言うのなら、「だからシノ――」聖処女だと言うのなら!

「超えて見せる! あなたを!」

 この熱く迸る想いを受け止めてくれるはずだ。

 いや、例え受け止めきれなくても構わない。構うものか。そんなもの、清水有希奈にとっては些細なことなのだから。

 ガードによって篠の顔が隠れたその一瞬に、有希奈は右足を振り上げる。

 スカートが翻る。

「見え――」

 風が吹く。

 風圧が、壁を成す。

 ほとんど真上に振り上げられた脚が風を斬りながら降ろされる。その最中、突然下方に向けて押し出された空気は壁と成り、同時に砕け散った硝子の破片となり、はたまた刃のような鋭利さを持ち合わせ、東雲篠に襲い掛かる。

 繰り出された踵落としに、しかし炎は宿らない。それは「有希奈にとって」攻撃力が生じていないという事に他ならない。

 そう、有希奈には。

 篠は確信を持ってその攻撃を受け止める。

 受け止めてから、思い出す。

 そういえば、さっき「見えそうで見えない」を作り出したのは自分の腕だったということを。

「あ……!?」

 ズシン、と地面が沈み込む。

 骨が軋む感覚。体の中から音がした。

 顔を、上げられない。膝が地面に着きそうになる。

 跳ね返せない。

 その事実が更に攻撃を重く感じさせる。頭上に掲げたガードで防いではいる。だがこれは――これは心臓に響くような想いの一撃だ。

 私の想いを受け止めて。有希奈はそう言っていた。

「まだまだ――行くよシノ!」

 踵落としはきっかけに過ぎない。

 受け止めきれず逃がされた足は地面へ着地する。それを踏み込みに利用して、次なる強烈な一撃が――繰り出されはしない。

 代わりに来たのはその風のような緩い空気の流れ。堅牢な盾を作り出していた篠は構えから攻撃へのロスタイムにタイミングを乱される。

 踵落としの衝撃から立ち直ろうとした瞬間だ。力が抜けたその一瞬。

 力の抜けた腹筋に、有希奈が鉄拳を叩き込む。

「ヴァージン・インパルス!!」

 衝撃が迸る。

 篠の体が浮き上がり後方に飛ぶ。

 そのまま勢いが殺されて、地面を錐揉みするように転がった。

「がはっ!」

 ダメージは大きい。

 それは互いに言えることだ。

 東雲篠のカウンターは決して甘いものではないし、清水有希奈が放った攻撃もまた、弱いものではなかった。

 体力を消耗しているのか、有希奈は膝を折っていたし、篠はすぐ立ち上がることができないでいた。

 しかし、それでも、二人の意志は屈しない。

 処女が何度も恋をするように。

 その身が清くある限り。


◆◆◆◆


 私はシノを愛している。

 たぶん一目惚れだった。私の初恋の相手。

 そしてだから、人はきっと叶わないと言う。

 でも私はそうは思わない。

 心底惚れ込んでいるなら、ずっと一緒にいたいと思うなら、共に幸せになりたいと思うなら、処女だとかそうじゃないとか関係ないんだ。

 ただ真っ直ぐ思い続ける強さがあれば。

 そう、東雲篠は強い人。

 惚れる甲斐のある人。

 人生を賭けるに値する人だから。

 だから私も想い続ける。強く、強く、強く、ただひたむきに強く真っ直ぐに!

 それが戦う理由。

 戦い続けるシノの背中を追い続けた。負けそうになるシノを何度も見てきた。

 そして、必ず立ち上がる彼女を。

 どんなに折れそうになっても、最後に立っているのはいつもシノだった。

 だから、私は彼女が、東雲篠が好きなのだ。

 最後には立ち上がれる彼女の姿に、私は心底惚れ込んでいる。


◆◆◆◆


「――……シノはすごいよ」

 膝を笑わせながら、清水有希奈は言った。

 どう見たって、追い詰められているのは東雲篠の方なのに。

「やっぱり立ち上がる」

 有希奈の声には一部だって余裕というものがなかった。

 肩で息をする篠を見つめながら、有希奈の頬には冷や汗が滴った。

「冗談」

 シンと静かに張り詰めた声。

「この程度だと思わないで」

 ゆらりと立ち上る自信と自尊。

 代わりに、剥き出しとなる、賭け値無しの敵意。

「この程度で止まるわけないでしょ? ――甘く見ないで」

 辺りが宵闇に浸かろうと言う最中、その眼光がギラリとユキを貫いた。

 だから、ユキも、見つめ返す。

 強く。

 シノが深く息を吐いた。

「あなたじゃ止められないよ、ユキ。あなたがこれまでどれだけ、人の心を変えてきたとしても」

 再び繰り出される攻撃を、シノは余裕を持って――真正面から受け止める。

「貴方は知ってるでしょ? 私が強情っ張りで、頑固者だってこと」

 衝撃はそこで相殺される。

 受け止めたガードの下で、シノははっきり笑ってみせた。

「そろそろ、終わりにしようか」

 瞬間、シノの姿がブレて消える。

 なんの前触れもなく、だ。

 地面を強く蹴ることもなく、ただ、ふと目を離したかのように、その姿が視界から消え――

 そして、ユキは後頭部に打撃を受けた。

 呻くと共に前のめると、今度はガードした頭部ではなく脇腹に一蹴分、鈍い痛みが走って、吹き飛んだ。

 すぐ様立ち上がる。

 シノのスカートがはためくのが見えた。

「準備は済んだ――行くよ必殺防御癖」

 両手を広げ。

 大きく、息を吸い。

「絶・対・領・域!!」

 光の柱が数秒間、シノの姿をすっぽりと覆った。


 必殺防御癖――東雲篠が誇る最強の防御。

 それが発動したが最後、例えどんな攻撃をしたとしても、全てが「メンブレンショット」のように返されるという。

 絶対領域という名の通り、東雲 篠を中心とした半径50センチ内に到達した 攻撃に自動的に対応し、撃墜する。――ミサイルとて撃墜するほどの威力で。

 難攻不落、絶対無敵の移動要塞……東雲篠が聖処女の前まで 歩む所以となった技。

 これを攻略することは不可能――カウンターに対するカウンターを持っていないなら、だが。

 

 それをただ傍観し、勝てないと諦めるのがユキではない。

 それはシノも分かっていた。

 その上で、終わらせようと言うのだ。

 こんな、 下らない闘いを。聖処女を決めるなんて言う、馬鹿げた儀式を。

 最後まで、成し遂げようと言うのだ。

 肩をガクンと落とす。

 脱力し。

 腕を広げ。

 そして天を仰ぐ。

 目を閉じると、今までのことが思い出された。

 たくさんの人を知った。

 何度……好きだと言われたっけ。

 そしてその度、何かが違うと思った。

 応えられないと返すと、酷いと言われた。

 それはそんなに残酷なことなのだろうか。

 女の子を好きになることは……そんなに、ダメなことなんだろうか。

 でも好きなんだ。どうしようもなく、いま目の前にいる、東雲篠が好き。

 だから伝える。

 通るかどうかなんて関係ない。伝えたい。ただ意思疎通をしたいだけ。今まで すれ違い続けてきたこの想いに、決着を着けたい。

 だから手に入れる。聖処女を。女の子を好きになるのが罪だと言うのなら……そんな理、私の無理で捻じ曲げてでも!

「……これで最後だね」

 応えて。

「大好きだよ、シノ」

 私の想いに。

 広げた両手を空に向ける。

 掌は遠い、遥かなる星へ。

 お願い神様。月夜の女神さま。

 私に勇気を、分けてください。

 今一度、目の前の壁を打ち破る勇気を!


 街路樹が揺れた。

 清水有希奈に向かって風が収束されていく。

 それは竜巻を産むようで。

 ふと、白い太腿が見えた気がした。

 吹き荒び勢いを増す風で、清水有希奈の制服は徐々に乱されていく。

 より煽情的に。

 より攻撃的に。

 だが。

「――決して見せない」

 見えはしない。

「決して破れない……」

 なぜなら彼女は。

「絶対に負けない!」

 なぜなら彼女は。

「だって私は」

 それは彼女が。

「だって私は――」

 今まで一つ、清楚さを、絶対に穢さなかったから。

「だって私は……聖処女なんだからぁぁあああ!!」

 月が有希奈の真上に見えた。

 それを映し出すように、有希奈の両掌が輝きを放つ。

 ほぼ同時、分厚い手枷が自由を奪う。

 短く息を吐くようなうめき声。

 締め付けるような光のコルセットが腹部にしがみついていた。

 一歩、退きそうになった有希奈の足に、鎖と重りの着いた枷が、巻き付いた。

 月から漏れ出たような淡い光が、全て有希奈の体を縛る拘束具と成る。

 拘束が激しくなるほどに、彼女の体から電光が走る。

 淡く儚い雷の光。

 そうして全身に発生したエネルギーは、再び掌へ。

 キッと射抜くような眼光と共に、有希奈は銃口となった手を前に向ける。

「セイント・ヴァージン・バーニング!!」

 有希奈の叫びを合図として、掌から特大の光線が発射され。

 東雲篠の絶対領域と、真っ向からぶつかり合った。


 セイント・ヴァージン・バーニング。

 その技は聖処女のみ会得を許されると言う。

 全身を拘束具に包んだ。処女のみが放つことができると伝承で語られている。

 拘束具。

 そう、拘束具なのだ。

 処女であるということは、一生何かに拘束されていることを意味する。

 抜け出せない鎖のようなもの。

 それを表面化させるのがこの技の第一段階。

 二人が制服姿であったのは、 それが一種、拘束着の役割を果たすからである。

 拘束を防御と取るか、攻撃と取るか。

 防御として捉えたのが絶対領域。

 対し、攻撃が、有希奈が放つこの閃光。

 セイント・ヴァージン・バーニングなのだ。


「ぐっ……あ……ぁうぅ」

 同じ威力の閃光が逆方向から押し寄せる。

 同じ力で押される。

 楽なものではない。

 息切れした有希奈に、しかし拘束具たちは、膝を折ることを許さない。

「届いて」

 その一言に、光の奔流が動く。

「届いて……!」徐々に細く。「届いて!」徐々に、一点へ。「届いて!!」

 その威力の全てを、集中させていく。

「届けぇぇぇええええええーー!!」

 針のように細く。どんな槍より鋭い一閃。

 拮抗したかと思った刹那、突如として細く鋭くなった力に対し、カウンターは正常に作動しない。

 初心であるはずの処女が時として、ふと異性をときめかせるように。

 その閃光も、ふとすると、自分の目の前まで――迫っているのだ。

 まるで、乙女の恋心のように。


◆◆◆◆


 ……意識が朦朧とする。

 目の前が金色の光に覆われたところまでは覚えている。

 けれど、その後――私がユキの攻撃を凌ぎきったかどうかは……

 たぶん、できなかったんだろう。

 だって、こうして仰向けに倒れているんだから。

 立てない。

 あの光は暖かかった。

 私にはない柔らかな光だった。

 今は……何も見えないけれど。

「シノ」

 気絶しかけた私の耳に、大好きなあの子の声が届いた。

 声のする方に、顔を向けた。

 すると、唇に暖かい感触があった。続けざまに、声がする。

「やっと、伝えられた……」

 そして気付く。

 あの温かい光の正体は――長い長い、私への 恋路だったのだと。

 あんなもの見せ付けられたら……答えないわけには いかないじゃない。

 清水有希奈は、卑怯だ。

「大好きだよ、シノ」

「私も。……ありがとう、ユキ」

やったね処女厨大勝利!

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