第7話
「貴方がここの当主ですか?」
あっさりと見つかった。
屋敷の入り口へ向かう途中に庭の辺りを見回していると魔術連合から送られた写真と一致の者がいた。
「それがどうした」
ブランコに座った1人の少女とその隣の少年。少女から強い魔力を感じるが戦意より少女は恐怖している様に感じる。
一方少年は敵意剥き出しの鋭い眼でこちらを睨みつけている。
「あなた方を黒魔術研究の疑いで連行します」
二つの影がいきなり少年少女の横にシュッと現れる。黒いスーツにサングラス、この子達のボディガードだろう。
「援護します…透様」
2人のボディガードは拳と拳銃を構える。魔術は使わないのであろうか。
「お、お兄ちゃん…」
今にも泣き出しそうな顔で透の服を握りしめる。
「大丈夫だ雪。俺が守るから」
透はポケットから赤い宝石を一つ取り出した。
「あんたら、魔術師だろ?俺らが相手してやるよ」
そう言い終わると宝石を口に入れ、ゴクリと飲み込んだ。
「降伏してくださると嬉しいのですが」
雛がセルフィの前に立つ。
「馬鹿を言え、殺すぞ…」
殺意が段々に増幅して行くのがわかる。透の首辺りから炎の入れ墨の様な物が右側の顔や腕を侵食していった。
魔力が増幅する。
先ほどの少年とは比べものにならない程、魔力の密度が高く感じられる。
「これが、黒魔術…」
「お前らが来ると雪が泣くんだよ。消えれよ」
透は手から炎を出現させ、火炎放射が雛に向かって放たれる。
「グラビレイ!!」
繭の両手の間にある水晶は紫色に輝いた。
ドン!!炎は一瞬にして地に落ち消え去った。
「大丈夫!?雛!!」
「ええ、大丈夫です」
「重力魔法かよ、ならこれはどうだ?」
左手の人差し指を繭に向ける。
バチッと指先に電撃が走り、次の瞬間。
繭の胸に目掛けて電撃が一直線に放たれた。
「五重魔法防壁、ガディル!!」
繭の目の前に魔法壁が現れ電撃を受ける。直視出来ない程の光が辺りを照らす。
「魔法防壁を五重に!ありえない…どんな魔力だよ」
一般人ならば三重が限界だ。しかも魔力を放出するのに三分は掛かる。何人か協力するれば出来ない話ではないが、1人で発動するのはありえない。
「ヒナ、マユ!!援護をお願いします!!」
「了解です!!」
「うん!!」
セルフィが走るのに続いて雛も走り出す。
「クソが…おい、雪を遠くへやってくれないか」
拳を固め戦闘の構えをした。
「了解しました」
1人のボディガードは繭を担ぐ。
「お兄ちゃん!」
「大丈夫だ雪。お兄ちゃんは絶対戻って来るから」
優しい言葉を妹に掛ける。
出来るだけ待つ時間に悲しい思いをしないように。
「絶対、絶対だからね…」
「ああ、絶対だ」
ボディガードに合図を送ると素早くその場から走って消えていった。
「こいよ、倒してやるからよ」
「言われなくても」
雛は高くジャンプをして、袖の中からサバイバルナイフを一本掴んで透へ投げつけた。
「はっ、意味ねえよ!」
透の目の前で魔法壁が発動し、ナイフは硬直した。
雛は右手を忍びが術を発動するかのように前にだした。
「物質強化、雷!!」
ピカッと辺りをを照らし視界を奪う。さらに雛はナイフを2本透へ投げつけた。
「物質強化、爆!!」
先と同じように魔法壁にぶつかるがナイフは手榴弾のように爆発した。
「クッ!!」
魔法壁にはヒビが入り透は顔を歪ませる。
「ふざけんな!!」
人差し指を雛に向けて電撃の準備をする。
「物質強化、脚」
空中にいるはずの雛は地面ではなく空を蹴った。斜め下に跳び地面に獣の様な姿勢をとる。
少し遅れて雛がいた場所に電撃が通り抜けた。
「隙だらけよ、ボルケイノ!!」
いつの間にか近づいていたセルフィは先ほど透が出した火炎放射よりも一回り大きい火力の炎を発射した。
既に魔法壁にはヒビが入っており、そんな高火力を受け止めることは出来ず呆気なく割れた。
「う、がぁあ!!」
屋敷の壁に激突し、壁がガラガラと崩れ落ちる。
煙の中によろけてはいるが確かに透は立っていた。
セルフィの横に雛は歩いてきた。
「頑丈ですね、あの少年は」
「さっきの宝石を飲んでから様子が違う。魔力だけじゃなく防御面でも力が上がってるわ」
「はぁっ!!!」
先程横にいたボディガードがセルフィに向かって走って行った。
シュッと雛はナイフを顔に目掛けて投げた。
男は軽く顔を横にして避けた。
「物質強化、爆」
顔の横を通り抜ける途中にナイフは爆発する。激しい音と共に男は吹き飛んだ。
「これで、チェックメイトですかね」
セルフィは自信ありげに微笑んだ。