第4話
「お兄ちゃん、私…死ぬ、のかな?」
「ーーーーーーっ!」
悲しそうな顔をしてこちらを見つめ、そして俯いしまった1人の少女。
つい最近、魔道士同士の争いが始まると聞いたが、やはりまずは戦力の低い場所が狙われる。
美しい湖の前にそびえ立つ豪邸。庭には薔薇が赤や白、深くしかし色鮮やかな木々がそよ風になびかれている。
庭の端っこにはブランコがあり、1人の少女は漕ぐこともなくただ俯きながら座っている。横には16歳ほどの少年が言葉を発せないのか佇んでいる。
「そんなことない。美知花はこれからもずっとここに居るんだ」
「本当っ!?」
確信も根拠も無い口から出る言葉。
「ーーーーあ、ああ。だからさ、心配するなよ」
ニッと無理に笑う。
1番に狙われる場所はここ、凪屋原という魔術師の一族。黒魔術師の一族の中では弱小であり格好の餌食だ、そしてまわりには自然しかない。
ここで何が起ころうとも数日は確実に誰も気づかない。そんな場所なのだから。
「だから、ここは俺が守るからさ」
両親が黒魔術に失敗し、残ったのは2人の兄妹。両親の意思を受け継ぎ黒魔術の研究を何度も何度も繰り返しやっと手に入れた力。
大体の黒魔術師は知っているであろう魔術でさえ知らなかった一族は、この兄妹によって魔物召喚及び契約の方法入手まで前進した。両親の遺体は魔物召喚の時に生贄に捧げた。これは両親の執念の籠った頼みでもあったのだ。
「父さんと母さんの死は無駄には出来ないよな」
「…うん」
首に描かれた鎖のマーク。首に手を当て反対の手を強く握る。
「どんな魔術師が来ようと俺らには魔物がいるんだ!こんな技術は生半可な黒魔術師でも知らない魔法だ!俺らは負けない、どんな魔術師がどんなに何回も来ようと!!」
わかってる一度追い払えばその後にはそれ以上の魔術師が来ることを…。
「…そうだよね。うん、そうだよね!お兄ちゃんなら出来るよ!」
「おう!お兄ちゃんに任せとけ!」
誰でもいいからさ、もう少しだけこの幸せな夢(時間)をくれよ。
離れた薔薇の畑から1人の女は兄妹を眺めていた。首には鎖のマークが黒く輝いて。
「あ〜、疲れた〜。マスターよお、どんだけババ抜きつえーんだよ」
「貴方は運が悪いだけですよ。とてつもなく、ね」
長く黒い高級車は屋敷の見えるところで止まり、次々と人や荷物を吐き出して行く。
「あああっ!もうっ!何で何で!?セルフィに勝てない!」
「奥様が強すぎなんですよ…私も昔はコテンパンにされましたよ」
ナイト、セルフィ、繭、雛と次々に車から降りて行く。
道は屋敷まで続いており、あと10分ほど歩けば着くぐらいの距離だ。
ついでに言えば今回爺は他の魔術師の仲間との連絡の取り合いなどで自宅待機。
「はい、奥様」
「ヒナ姉、ありがとう」
雛に手渡されたのは青やら赤やらの液体の入った試験管を5個ほどだった。それをコートの内ポケットにしまう。
「マスター、それなんだ?」
「ふふっ、秘密です」
「んっしょんっしょ、うわわっ!」
繭は車の中から大きさが異なる水晶を2個取り出した。
一つは明らかに大きすぎるバランスボール並みの水晶。一つはサッカーボール並の水晶だ。
「へー、やっぱ皆魔術師だな〜。ま、魔物の俺は自分の魔力で武器なんかすぐに作れりけどな」
シューンと手のひらに黒いナイフが一つ簡単に現れた。
「ナイトはいいね〜、そんな簡単に出せて。私なんか場所に困るよぉ〜」
繭はバランスボール並みの水晶に手を当てぶつぶつと何かを唱え出した。すると水晶はふわっ重力を忘れたかのように浮き始めた。
同じように小さい方の水晶に何かを唱え水晶の占い師のように両手の間に小さい水晶が浮き始める。しかも大きい水晶に座ったので物凄く様になっている。
「おおっ!何か本当に魔術師っぽいな」
「魔術師っぽいじゃなくて魔術師ですぅ〜」
ブスーと小さなメイド少女はそっぽを向いた。
「では行きましょうか」
「ん?雛は何も持たないな」
「私ですか?私は隠してますよ。いっぱい♪」
にっこりと笑って見せる雛(目は光が無いが)。
確かに雛からは微量ながら魔力の塊を感知でかる。
「まあいいや、じゃあいこうぜ」
「うん!」
「そうですね」
「わかりました」
三人いろんな肯定で歩を進め出した。