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07 潮騒にまぎれて……⑤

 (貞操的な意味で)無事に海に辿り着いた俺は、とりあえず駐車場に車を止めて準備に入る。

 さて、その準備とは……。


 フゥ……フゥ……、ハァ……ハァ……。


 軽い息切れを起こす俺と黒宮。


「は、早くちょうだい……白里くん」


 俺はいい加減にツッコむことにした。


「お前が空気入れた浮き輪を駄目にしてるの! なんで!? 何でわざわざ閉めた栓を開けちゃうの!? 挙げ句の果てに栓のところをペロペロしてるの!?」

「ごめんなさい、白里くんの口元を見てたら我慢できなくて……」

「我慢してくれ!! ホントに頼むから!! こっちは酸欠で目とか回りそうなんだけど!?」

「そしたら助けてあげるから安心して、マウス・トゥ・マウスで」

「それ二酸化炭素しかもらえなくない!? 酸素は届かないよねぇ!?」

「そう……、残念だわ」


 残念なのはお前の発想だわ。ホントもう帰りたいわ。

 しかしここで逃げるのはなんだか負けた気がする。ここまで来た以上海に入らないで帰るわけにはいかない。悔しいが、もう少しの辛抱だ。

 そうしてどうにかこうにか膨らませ終わった浮き輪とビーチボールを傍らに置いて、次の準備を始める。

 さて……。次の準備とは……。


「……脱がして欲しいの、白里くん」

「却下です」

「お願い、一生のお願いよ白里くん!!」

「なんで、どうしてそんなストレートにピンク色なの!?」


 言うまでもないが、黒宮はこれでも花も恥じらう女の子だ。そのうえ結構可愛い。そういう子が放つトークとしては破壊力が高すぎる。


「大丈夫よ、白里くん! ちゃんと下には水着を着ているから何の問題もないわ! 貞操観念に強いしがらみを持つ白里くんでも問題なく脱がせるわ! さぁ、やって!!」

「できるかっ!?」

「どうして? 疑っているの? ならほら見て! (チラリ)この紐は水着の紐よ! 決してスポブラなどではないわ! 極端に女性の下着知識に詳しい健全な男子なら分かるでしょう?」

「分かるかーー!! あと、健全な男子は女性下着に関して知識など持ってないから! 赤飼とかなら無駄に詳しそうだけども!」


 あと、チラリと襟元をめくるのをやめてください。目に毒ですマジで。

 ……とまぁ、そんな一悶着を経て、どうにかビーチサイドへ繰り出すことに成功した。なんならここまでの課程で一年近く月日が経過してるんじゃないかってくらいに疲弊している。もう私のライフはゼロよ! ……的な。


 俺がビーチパラソルの下で、大きく溜息を吐いた頃――。


「お待たせ……」


 そんなふうにしてパラソルに入ってくる黒宮。

 パラソルに入ろうとして身をかがめるもんだから、否応にも視線が胸元へと吸い寄せられる。この万有引力には世界中の男子が逆らえないだろう。


「……? お望みとあらばいくらでも挟んであげられるけど……?」

「いや、誰もそこまでは考えてもいないし、そんな小首を傾げるふうにして言うような台詞でもないからソレ」


 そんな俺のお小言を黒宮は聞き流すふうにして腰を下ろす。

 はいはい、そうですね。いつもの黒宮さんですね。いつもいつもご苦労様ですー。

 しかし本当に歪みないな。どうしてここまで好感度高いんだろうね。俺、なんかしたかなー。

 思い返しても、それらしい出来事は思いつかない。けど、初めて一緒の講義を受けたときは何ともなかったような気がする。……となれば、やっぱり無意識に好感度稼いじゃったのかもしれん。……んな馬鹿な。全国の非モテからパッシングの嵐をもらうこと請け合い。

 そんな俺を尻目に……。

 黒宮が俺に視線を向ける。


「ねぇ、日焼け止めを塗って欲しいん――」

「だが、断る」


 俺はぴしゃりと言ってのけた。さすがにそろそろ耐性ができる。こいつが何を言うか、予想くらいはできる。私を過去の私と同じにしないでもらおうか。ハッハッハ……!!


「じゃあ、日焼け止めを塗らせてもらってもいいかしら……?」

「……なに?」


 俺は一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。頭が追いつかなくなっていた。形勢不利、を理解するまでもなく。


「白里くん、あなたに、日焼け止めを塗るわ」

「ひゃえ!? えっと、その……遠慮して――」

「塗らせてもらうわ、白里くん」


 白くてベトベトした手が、俺の身体へと伸びてくる。

 しまった。油断した――、そう思ったときにはもう遅い。

 俺は、黒宮のほっそりとしたしなやかな指に蹂躙されていた。

 羞恥と他人に触られるくすぐったさや居心地の悪さ、そして、敏感なところ(性的な意味でなく)に触れる巧みな指使いに俺は思わず声を上げてしまった。


「や、ダメ……ッ! あ……ぅあっ、アッーーー!!!」(←俺の悲鳴)


 間違っても歓喜の声、ではないと思いたい。

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