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05 潮騒にまぎれて……③

 サイフの中で眠り続けていた光り輝く免許証は、久しぶりに外気に触れたみたいに生き生きとその存在を誇示していた。

 降り注ぐ太陽の光を一身に受けて、いっそ空しいくらいの眩しさだった。

 免許を取りに教習所に通ったときも、免許証を受け取ってサイフに仕舞い込むときも、こんな気持ちで再びまみえることになるだなんて、あの時の俺には予想だにできなかった。

 俺は赤飼の車の前で、キーを持ったまま軽く放心状態で立ち尽くしていたのだが、そんな油断だらけの俺の腕から車のキーが掠め取られる。

 遅れて視線を動かせばそこにはまぁ予想通りだが、黒宮がいた。なにやら車の各所を探っているようだがなんだろう……? キー以外に運転に必要なものがあっただろうか……?

 ……そんなものあったかな。なんて思っているとその作業は終わったらしく、黒宮が両手を広げた。……なにそれ? ケーブル? それから、黒いなんかの端末っぽい何かが……?


「盗聴器とカメラよ」

「なんだ盗聴器とカメラね……。脅かすんじゃねえよ……。………………ってオイッ!! なんじゃそりゃあッッ!!!」


 なんなの? 何しれっと答えてんの? そんな当たり前に車に仕込んでていいものじゃないよね? どう考えても普通におかしいよねぇ?


「……? ごめんなさい、さすがに型番までは分からないわ。わりとポピュラーなメーカーの製品だということは分かるけど……」

「んなマニアックな質問するわけないだろ! 馬鹿かテメエは!」

「そうなの……? ごめんなさい」


 どうしてそんな返しが来るんだよ! 斬新すぎるだろ! 俺が訊きたいのは何ていうカメラかじゃなくて、なんでカメラがあるんだってことだよ! それくらい伝わってくれ頼むから!!


「……そんなにおかしいこと? 盗聴器の一つや二つ……」

「むしろおかしくない要素が見当たらないだろうが……」

「けど、あんな男のすることなんて精々そんなものでしょう? どうせ、私たちの密事を録画しようなんて、そんな魂胆は見え見えなのよ。……そんなことにいちいちツッコむなんて、律儀ね白里くん」


 そうなのか……? 最近のニホンの治安はそこまで狂ってきているのか……。ここって怖い国なんだな……。よし、ちぃ覚えた。


「けど、監視網としてはザルもいいところね。私ならもっと的確に配置して、そのうえで見つかりづらいようにカモフラージュだって完璧にできるのに……。だって白里くんの……。いえ、なんでもないわ」

「ちょっと待て。今捨て置けない言葉が聞こえたんだけど。人として聞き逃してはいけない言葉が聞こえた気がしたんだけど!」

「冗談よ、安心して。私は赤飼なんかとは違ってあなたを監視したりなんかしないわ。盗聴だってしない。私はあなたを遠くから見つめているだけで充分幸せだもの」


 それ、やんわりと言ってはいるが、要はストーキングってことだよね? 全然ノーマルではないよね?


「さぁ、そんなことより、白里くん。邪魔者は一つ残らず撤去したから、イキましょう? 間違えた、行きましょう?」

「え、今何を間違えたの? ねぇ、なんかすごく怖い気がするんですけど」

「あなたが何を言っているのか全然分からないわ。さぁ、楽しい楽しいドライブの時間よ」


 運転するのは俺なんですけどね!

 これ、大丈夫かなぁ。なんだかそこはかとなく悪い予感しかしないんだけれども……。

 しかしいち早く助手席に腰掛けてしまった黒宮さんがいるので、俺としては付き合わざるを得ないという形だ。

 断ることが苦手なジャパニーズソウルはこういうときに、歯痒く感じるものだ。しかし、それも宿命か。あるいは人という名の業かもしれない。

 俺はゴクリと唾を飲み下すと、運転席へと腰掛けるのだった。

白里くんの盗聴器に対するリアクションが安定していないように思われますが、彼は普通のビデオカメラをセットしている、くらいに予想していました。それがあまりにも本格的な代物だったため驚いています。一人称視点でそういう説明がうまく挟めなかったため、この場での解説と相成りました。

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