01 はじめての……①
大学に入学して一ヶ月。俺は早くも問題に直面していた。
今は講義も終わり、家に帰るところだ。何の変哲もない帰り道。普通なら気持ちの良い昼下がりの時間帯。
バスを降りて、振り返る。そこで確信する。……やっぱりな。
「どうしてついてくるんだ……、黒宮?」
黒宮……、俺の3メートル後ろを測ったように追跡してくる少女に、訊いた。
「……気の所為。私はいつもここを通ってる。おかしなところなんて一つも見当たらないと思うけど」
「毎日この道使ってる俺が一度も見たことないのに、平然と嘘を吐くな!」
「そんなこと言われても困る。いつも使ってるのは事実。いつもは気づかれないように気配を消して乗ってる」
何故気配を消す必要がある。そしてこいつの自宅は俺の家とは正反対の方角だったはずだ。毎日こっちに向かう理由が分からない。
ともかく俺は、不審に思いながらも、相手に合わせるのが癪だったので、いつも通りに家路を急ぐ。と、そこで……
「……今日はコンビニに寄っていかないのね。……読みたい雑誌がないから?」
「そうだな……。月曜でも水曜でも木曜でもないし、読むものは特にないし……」
「そう……、金曜だものね。明日は土日で休みだし、休日は家でゆっくりするの……?」
「……そのつもりだが……。というか何故俺のプライバシーを詮索するんだ。そして何故に俺の行動パターンまで知られている……?」
よもやこいつ、マジで毎日俺を追跡していたのか……。冗談だと思いたかったが、ここに来て真実味が増したな。そんな説得力は微塵も欲しくなかったけど。
そして、今まではストーキングに徹してたこいつが、何故ここで気づかれるというリスクを冒してまで背後3メートルの距離を選んだのかも謎だ。
……まぁ謎というならストーキングしている時点で謎だし、そもそもこいつの言動は意味不明すぎて謎が多いんだけど。
「どうして……? そんな分かりきったことに質問が必要? 私はあなたを愛してしまった。熱いパトスが私に命じるの。あなたの全てを私は知りたい……」
「いや、知りたいって……。その知り方がおかしいだろ。普通に考えてストーキングはしない」
「だって、……こんな気持ち初めてだったんだもの。持て余してしまうのも、仕方がないことだわ」
「仕方があろうがなかろうが、ストーカーはダメなの! 何ちょっと純情な女の子ぶってんだよ!」
「……そう? 私は純情よ。あなたのことを想うだけで熱いパトスが迸って、気づけば下のほうが大洪水よ」
「純情なやつはそんなこと言わねえし、そんな状態にもならない」
淡々と何言ってやがるんだこいつは……。
人畜無害というか、小動物系というか、見た目は小柄でちょっと可愛らしい感じだけど、発言がいちいちヤバ過ぎる。
「そうこう言っているうちに、もうあなたのアパートの目の前ね」
「そうだが……、どうしてここまでついてきてるんだ……?」
「不躾な質問ね。答えるまでもないでしょう? 同衾……じゃなかった。お泊まりしようと思ってね」
「絶対に嫌だ……」
なんてことを言っていると、いつの間にやら空は暗くなっていて、ゴロゴロと雷が鳴り響き、ポツポツと雨が降り始める。
「あら……。空も大洪水ね。今の私の下半身と一緒――」
「ああもう、分かったよ! 入れればいいんだろ入れれば!」
「分かれば良いのよ。ちゃんと濡れてるから前戯は必要ないわ」
「家に入れるってだけだよ! どんだけ変態なんだお前は!」
ズカズカと俺の家に押し入る黒宮。
どうしてこんなことになっちまったんだろう……。思わず空を眺めて嘆きたくなったが、この生憎の空模様じゃ、今更帰すのも忍びないか。
とはいえ……。俺は無事に夜を越えられるのだろうか。不安でならない。
1 はじめての
自分の妄想そのまま吐き出しただけのお話です。
勢い重視の話なので状況説明はほとんどなし。考えるな感じろ。
黒宮は自分の趣味まっしぐらな女の子です。書いてて楽しいです、うへへ。
タイトルについて。
分かる人には分かると思いますがとあるCDのタイトルをなぞってます。
キャラ名について
色から取ってます。いそうでいない名前を狙ってます。