殺したがり
流血、残酷な描写がありますので、苦手な方はご遠慮下さい。
雨という天気は殺しにぴったりだとつくづく思う。
雨は返り血を流してくれるし、服に乾いてこびりつく事もない。
外を歩く人間が少なる事だけは少し残念だけれど、俺はそんな雨の天気が好きだった。
ふと気が付いて足元の真っ赤に染まった水たまりに視線を落とす。もう随分と履き潰したお気に入りの革製ブーツにじんわりと冷たい感覚が広がっていく。しまった。暗いからわからないがもしかしたら返り血を浴びてしまったのかもしれない。
小さく舌打ちして、さっさと帰ろうと踵を返して歩き出す。さっきまで俺がいた場所には、首の無くなった中年男性の死体が無残に転がっている。振り返ってまで確認しようとは思わないが、俺がやった。これがまた見掛け通りの汚い性格の奴で、最後まで滑稽に命乞いをしている姿を思い出して思わず吹き出してしまった。
「金ならいくらでもやるから…って。別に金目当てで殺したんじゃねーっての」
そう。目的なんてない。殺したかったから殺した。それだけだ。
人間は殺しの対象でしかない―それが俺、リンの信条だ。
ぴちゃぴちゃ。
歩けば足元から水たまりが跳ねる音がする。
先程に比べ少し強くなってきた雨から逃げるようにリンは人気のない路地裏を歩いていた。
目的の宿までまだまだ距離はある。別に濡れて帰るのも悪くはなかったが、何故か今日はそういう気分にはなれなかった。
「(くそ…流石に鬱陶しいな…)」
肌に張り付く髪の毛の感触が、鬱陶しい。
リンがそう思って肌に張り付く髪を剥がそうと立ち止まったその一瞬。
「覚悟しろぉ!殺人鬼!!」
今まで気配を消していたのであろう黒服の男に、背後から襲われたのだ。
リンは咄嗟の事に反応が遅れてしまい、すぐに背中に焼けるような痛みが走った。
痛みとともに聞こえたのは3発の銃声。
「ぐぁ…!」
撃たれた、直感的にそう思った。
殺しの後で気が緩んでいたとはいえ、背後からの攻撃を許すとは…。
倒れそうな体をギリギリで支え、視界に男の姿を捉えた。くそ、殺してやる。
リンは痛みを堪えながら、自分を背後から襲った男の首に手を伸ばした。
「くたばれ!!」
リンが少し力を籠めれば、男の首は簡単に宙に舞った。
少し離れた位置に男の首が落ちたのを確認すると、リンの視界がぐらりと歪んだ。
ちくしょう…。小さく呟いた言葉は、雨の音にかき消された。