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「そろそろ行きましょうか?」
竹下が時計に視線を移すのを見て、亜矢子はそう声かけた。
多分2人で話し始めて1時間は経っているだろうし、そろそろお開きにしても良い頃だろう。
バックを持ち、立ち上がろうとした時、竹下が声をかけた。
「また・・・誘ってもいいですか?」
亜矢子は少し控えめにいう竹下の顔を見あげた。
「えっと・・・」
竹下の顔は真剣だ。たぶんこれから先の・・・結婚を含めた話も入っているのだろう。
そう考えると亜矢子は何も言えなくなってしまった。あいまいな笑顔を作り、どういえばよいかを考えている。
丁度今仕事が楽しくなってきたところだ。やりがいも感じているし、もし誰かと結婚しても出来る限り仕事は続けていきたいと思っている。
でもそれより亜矢子は不思議に思うことがあった。
いつか自分がみた、かわいらしい女の子はどうしたのだろう?
竹下はまだ若いというのに、私で良いのだろうか?
なかなか返事がない私の表情を見て、竹下は微笑みながら言った。
「とりあえず、またごはんでも食べに行きましょうよ・・・これも何かの縁だし」
「あ、それはまたぜひ」
深く考えてすぐに返事をだせなかった自分に後悔をしたが、竹下の笑った顔を見て考えすぎだったのかな、と思い直していた。
また後日会う約束をして竹下とアドレス交換をし、親たちの待つロビーへと向かった。
※※※※※※
「・・・疲れた・・・」
豪快に帯を解き、着物を脱ぐと亜矢子は大きなため息をつき、ベットに倒れ込む。
母親が脱ぎ捨てた着物をたたみながら、こちらもため息交じりにつぶやいた。
「あんたねえ、着物をこのまま脱ぎ捨てていると汚れてしまうでしょう!!」
ブツブツと小言を言いながら手際よく着物をたたんでゆく。その姿を亜矢子は横目で眺めていた。静かな部屋に衣擦れの音が響く。
「それで、これからどうするの?竹下さんいい人だったけど・・・」
トントンと手で帯をきれいに伸ばしながら母親は亜矢子に尋ねた。
「よく分かんないよ。まだ・・・でもまた会う約束はした」
母親は亜矢子の返事を聞き、亜矢子の方に振り返った。いつになく真面目そうな顔をして、何かを言いたそうに亜矢子を見つめる。
「母さんは・・・正直に言えば・・・やめたら?って思うよ。美和ちゃんには悪いけど・・・あんたよりも5歳も若いっていうのがねえ・・・。今はそういう時代だから、関係ないのかもしれないけど・・・。
竹下さんね・・・たくさんご苦労もされてるみたいだから、あんたでは支えきれんのじゃないかと思ってねぇ。
・・・まあ、あんたの気持ち次第だけど、浮ついた気持ちであの人を振り回してはだめよ・・・確かにお見合いは勧めているけど、あんたにあう人を選んでほしいだけだから・・・よく考えなさい」
母はそれだけ言うと、着物と帯を持って部屋から出て行ってしまった。
ドアの閉じる音がすると、亜矢子はまたため息をついた。
目を閉じれば、微笑んだ竹下の顔が浮かんできた。
とても穏やかに微笑んでいたけど、少しだけ辛そうな瞳だったなと、いまさらながら思っていた。
本当にご無沙汰いたしております・・・(汗)
また内容も薄く申し訳ございません。徐々に書いていけるかと思いますので、またよろしくお願いいたします。
読んで下さる皆さんに感謝です。