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ホテルのロビーはゆったりとした時間が流れているようだった。
駅に併設されたこの有名ホテルは人の行き交いが多いのだが、従業員がきびきび誘導しているせいなのか、この大きなガラス窓から見える庭の風景の所為なのだろうか、とても落ち着いた雰囲気である。
「亜矢子、落ち着いてね。」
という母親は、亜矢子が見ても一番緊張しているように見える。
あたふたしている母親を見て、亜矢子は少し可笑しくなり、ふっと笑いをもらした。
ただこれ以上笑うと怒られそうなので、窓の景色に気をやり、あふれてくる笑いをやり過ごしていた。
「あ、お見えになった様よ?」
叔母の声を聞き、母は急に立ち上がり、相手のくる方向を見て待っている。
亜矢子は重い腰を上げ、立ち上がった。
まだ遠くに見える男性は二人。一人は60歳ぐらいの男性。仕立ての良いグレーのスーツを着こなしている。
会社での立場はきっと高いのだろう、立ち振る舞いが堂々としている。
・・・まさか、私のお見合いの相手って、あの人なんだろうか?
知らず叔母の顔色を窺うとにっこり笑っていた。
その顔は、「良い方でしょ?」と言っている風である。
亜矢子はうつむいた。
確かに自分はお見合いするには年齢が高い方だと思う。
でも、だからと言って、自分の年齢の倍ほど差がありそうな人とお見合いするんだろうか…。
下を向いている亜矢子を恥ずかしがっていると解釈したのだろうか、叔母はやってきた二人に、というかその60歳くらいの男性に向かって声をかけた。
「高階君、今日は来てくれてありがとうね!」
「美和ちゃん~、今日も綺麗だねえ!ますます惚れ惚れするよ。」
高階、君?
・・・美和とは叔母の名前だから、叔母の知り合いなのだろうか?
思わず顔をあげると叔母と男性がにこやかに話している。
二人は旧知の仲のようで、とても親しげな雰囲気だ。
高階、と呼ばれる男は亜矢子の視線を感じてか、ニコリと笑い手を差し出した。
「君が亜矢子さんかい?・・・写真も綺麗だったけど、実物はもっと綺麗な方だねえ。僕は美和ちゃんのボーイフレンドの一人で、高階譲です。いやぁ~僕が立候補したいくらいだ!」
亜矢子はお世辞とは知りながら、普段言われない言葉に気恥ずかしくなりながらも挨拶した。
「中村亜矢子です。どうぞよろしくお願いいたします」
「奥ゆかしい感じがまた良い・・・なあ、カズ」
高階が隣に立つ青年の肩をたたく。
『カズ』と呼ばれた人物を見て、亜矢子は心臓が止まってしまうかと思った。
青年は皆に向かってお辞儀した。
「竹下和樹です・・・よろしくお願いいたします」
母親はとてもきれいな立ち振る舞いに知らずため息をついたようだった。
叔母は高階に満面の笑みを浮かべて高階の腰をたたく。
「高階君!素敵な子じゃない!!」
「そりゃ美和ちゃんの頼みとあれば、とっておきを出さないとね、って痛い・・・美和ちゃん痛いから叩かないで」
「ああ、ごめん。つい力が入っちゃった」
叔母と高階の楽しそうな会話をよそに、亜矢子はこんな偶然ってあるのだろうと思いながら、相手の顔を見つめていた。
紺色のスーツを着て、銀色の細いフレームの眼鏡をかけ、姿勢よく立っている青年。
いつもはヘルメットを被り、作業服を着て、汗を流して誘導している青年。
工事現場の誘導員の彼、だった。
いそがしくてなかなか投稿できませんでしたが、やっと投稿できました!!お待たせいたしました!!(・・・待って下さった方いるか・・・な・・?)
また10月半ばから忙しくなるので、今のうちにUPしていきたいと思います!!
どうぞよろしくお願いいたします。