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恋を知る  作者: 亜莉
6/11

丁度河合の周りには誰もいなかった。

挨拶周りも一段落したらしい。


亜矢子は一つ息を吐き、明るい声で河合に声をかけた。


「河合さん、お疲れ様でした。これ、課の皆からです」


そう言って河合に花束を渡した。

河合は照れ臭そうに花束をもらい、亜矢子にお礼を言った。


「・・・青紫のバラって初めて見たよ。綺麗だね。ありがとう・・・これは中村さんの見立て?」


河合は興味深そうにバラを眺めながら尋ねる。


「ええまあ・・・でもほとんどお花屋さんにお任せしたので、花屋さんのセンスですね」


「・・・このバラを選んだのは、中村さん?」


河合が尋ねる。


「あ、はい・・・。色がきれいだったのと、花言葉が気に入ったんです」


「花言葉?」


「ええ。このバラ、ブルーローズっていう名前ですが、青というより、紫がかっていますよね。これまで青いバラを作るのが無理だと言われていたので、花言葉も不可能とか、奇跡とか言われていたんですが、今は神の祝福とか、夢かなうって言うんですって。これから新しい職場に向かう河合さんにぴったりかなって」


そういって河合を見上げると河合は真面目な顔をしてバラを見つめていた。

ずっと無言でバラを見つめているので、やっぱり男の人に花束はなかっただろうか、と心配になり始めたころ、河合は花束をギュッと握りしめて微笑んだ。


「・・・ありがとね、中村さん」


亜矢子はこの言葉と、笑顔を見ることができてもう充分だと思った。


本当はもっと話していたい。笑顔を見ていたい。

だけど、きっとこれらの幸せは柳井さんと作って行くのだろう。

亜矢子は動けなくなっている足を何とか動かすように努力しながら、河合に言葉をかけた。


「色々ありがとうございました。河合さんとパートナー組めて良かったです。これからも頑張ってくださいね」


これ以上、ここにいると泣いてしまいそうだ。


亜矢子は礼をすると足早に立ち去った。


更衣室で着替えを済ませ、玄関に来ると曇天の空で熱気と湿気がまじりあって、とても気持ち悪い熱風が亜矢子の頬を撫でた。


どうも一雨来そうな感じだ。

傘を持って来なかった亜矢子は足早に駐車場へと向かった。


エンジンをかけ、車内の空気を冷却する。


「あ~あ・・・・」


溜息交じりにつぶやくと、しばらくハンドルに体を預けていた。


やがて車のフロントガラスにポツポツと雨滴が落ち、ついには雨のカーテンとなって、車内にいる亜矢子の表情はよく分からなくなった。


しばらく車は動かなかったが、雨が少し小降りになり始めたころ、車はゆっくりと動き出した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



それから1年半が経った。


今のパートナーは駆け出しの後輩社員だ。勢いはあるのだが、少し詰めが甘い。

けれど新人とあって、何事にも全力で向かっていく姿に、亜矢子は元気をもらっていた。


また、工事現場の姿勢のいい誘導員とはお辞儀をしあう仲だ。いつも通り過ぎる時に礼をする。

友人に誘導員の話をすると、それは恋かもしれないから一度きちんとナンパしろ!!と言われたが、亜矢子は今のままでちょうど良いと思っている。


どんな時も姿勢を正し凛としている誘導員に、恋をしているのではなく、憧れているのだと亜矢子は思う。


・・・それに一度見てしまったのだ。


店舗の視察に行ったときに、あの誘導員とかわいらしい女の子が手をつないで大通りを歩いているところを。


私服姿でも誘導員と分かったのはやはり姿勢の良さだった。

仕事をする立ち振る舞いから考えて、亜矢子と同じくらいの年齢かと思っていたのだが、どうもまだ若そうである。

いつもの真面目な顔とは違い、優しい笑顔を見せている彼を見てほっこり嬉しい感情が湧き、きっと弟に彼女が出来たらこんな風に思うのではないだろうか、と亜矢子は勝手に想像している。


彼らの幸せな雰囲気を見て、恋に憧れる気持ちもあるが 今は当分、恋はしない。

・・・というか、したくない。


そう思って、スキルアップの為、資格をとる勉強していたり、社内の昇格試験も受けてみようかと思っていたのにお見合いだなんて。


横目で母親を盗み見ると、上機嫌でお見合いの話をしている。もうこのまま結納でもかわすような勢いだ。

相手も華の無い自分を選ぶとも思えないが、ここまで来てしまっては仕方がない。まな板の鯉だ。どうせ断わられるだろうし、料理を楽しもう。と亜矢子は思うことにした。


「ねえ、お母さん、今日の食事って和食?洋食?」

「もう、あなたはどうしてお見合いの男性の事より食事が気になるの?少しは気合を入れなさいよ!」


尚も母親がお見合い相手について話し出そうとした時、タクシーがとあるホテルの玄関に到着した。

全く聞く耳を持たない亜矢子はさっさとタクシーから降り立つ。

後ろで母親のブツブツ文句を言う言葉が聞こえてきたが、知らんふりを決め込んでロビーへと向かった。




















やっとお見合い会場につきました・・・。ゼィゼィ(汗)


たくさんの方に読んでいただきありがとうございます。

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