一年後、転生転移が本実装されます。
唐突に頭にどばーっと降りてきたものをとりあえず書いてみました。
え?
この世界の状況を教えろって?
しかたないなぁ。
まぁいいよ。時間までちょっとあるから。少しだけな?
ある日を境に、僕らの世界には転生転移が実装された。
唐突なアナウンスが脳内に流されたのは数年前のことだ。
『一年後、転生転移が本実装されます。
まずは一週間後202×年×月××日の正午に、プレ実装として無作為に300名が転生転移されます。
その時間帯はどなた様も安全な場所で待機してください。
また、転生転移をスムーズに行うための補助ツールとして、プレ実装と同時にステータス表示機能が実装されます。』
ある日突然、こんな告知が世界中の人々の頭に流し込まれた。
メディアも何も介さず、ダイレクトに、だ。それも同じ日のうちに3回。しかも翌日翌々日とプレ実装のカウントダウン付きでご丁寧に繰り返された。
初めは悪戯か何かだと思う者も多かった。しかし、その告知されたプレ実装とやらに合わせて放送された緊急番組では実際にコメンテーターの1人の周りが光ってそのまま消えてしまったり、同じく動画配信していた配信者が飛ばされたりした。それらを目の当たりにし、人々はその告知が実行性のあるものだと信じざるを得なくなった。
そこからは大混乱だった。
どうやったら飛ばされずに済むのか、飛ばされた先でどうしたら良いのか、残された者はどうしたら良いのか、そもそもあの告知を行ったのは誰なのか。
一週間が経って、飛ばされた者たちの中の何割かが帰ってきた。
彼らはそれぞれ違う世界に飛ばされたようだった。
ある者は剣と魔法の世界に。
ある者はスペオペのような世界に。
ある者は太古の日本のような世界に。
ある者は人間のいない世界に。
中にはこの世界の違う国に飛ばされた者までいて、更に混乱はひどくなった。
あちらで数日過ごしただけだという者もいれば、あちらで何年も過ごした者も、それどころか天寿を全うして死んだら帰ってきたなんて者までいる。十代で転移してしまった少年が戻ってきたら見た目は年相応の姿なのに中身は老人になっていたり、逆に五十代で転移した女性が中身だけ二十代な気分で帰ってきたなんてことが起きた。
飛ばされる前の姿で過ごした者も、生まれ変わったかのように赤ん坊からやり直した者も、それどころか人以外……猫や犬、植物とか食器なんてものになってきた者までいる。
人外にされて、その後メンタルクリニックに通うことを余儀なくされた者もそこそこいた。トマトの苗になった女性は、誰にも見えぬ自分の実を自慢したがったし、マグカップにされた男はしばらく周りの者に自分の体液を飲ませたがって大変なことになった。
身につけていたもの全てをもって転移させられた者もいれば、記憶以外何も持たずに転生させられた者もいた。手にした覚えがないものを持たされて飛ばされた者もいた。
飛ばされた者たちは完全に無作為に見えた。ただ、どうやら飛ばす側にも一応良心らしきものはあるらしい。オペ中の医者とか、乳飲み子のいる母親なんかは対象外になっているように見える。……あくまでそう見えているだけで、実際は僕らの知らないところで飛ばされているかもしれない。
そして。
帰ってこない者もいた。彼らがどうなったのかは今も分からない。
まるで思いつく限り全部試していると言わんばかりのバリエーション豊富さだった。
帰ってきた彼らの頭上にはまるでゲームのキャラクターのように撃墜マークのようなものが点った。
帰還者のステータス画面には飛ばされた世界での実績が書き連ねられ、称号がついた。
誰かが、まるでなろう系の小説のようだと言った。それが広がり、縋るようにWeb小説を読み漁る者が続出した。もしかしたら飛ばされた後のヒントになるかもしれないと思ったのだ。我こそは預言者とか言い出す作家も現れた。混乱した読者たちが教祖と呼んで崇めたり、その後にその作家の実名などが割れてタコ殴りになったり、いわゆる祭りが起きたりした。
出版業界も息を吹き返した。電子書籍と違って上手くしたら持っていけるかもしれないからだ。特にサバイバルや農業、DIYなどの入門本や図鑑が飛ぶように売れ始めた他、飛ばされた先で心の支えにしたいと小説もじわじわ売れている。
不本意な転生転移に備える保険やら、次に誰が飛ばされるかを当てる賭け事やら、転生転移中に自動で適応される家族見守りサービスやら、色々とビジネスにも繋がった。
また、習い事業界も盛り上がっている。特に剣道や弓道などの武術や、屋外自炊やサバイバル術を習える講座はあっという間に定員になった。それ以外にも美術や音楽、簿記や工作系も人気だ。無気力化が指摘されつつあった若者たちは、小説の主人公のような体験ができると期待し、精力的に勉学やスポーツ、芸術など自分を高める努力をするようになった。すると、頑張った分だけステータスが上がった。
ステータス画面は全ての者に実装されていた。
どういう仕組みなのか頭の上に浮かぶアイコンに焦点を合わせると、その人のステータスを確認できる。名前と共にゲームによくありそうな感じに、知力や体力、忍耐力その他諸々が数値として容赦なく出されてしまう。
しかも善良性なんて項目まである。その人の魂の色なんて形に表示されるそれは、頭の上に浮かぶアイコンの色とも連動しており、良からぬことを考える者は淀んだ色になり、逆にお人好しで周りに優しい者ほど澄んだ色になった。ちょっとした行動の積み重ねで綺麗な色になっていくアイコンに、人々は率先してボランティアなどの活動にも精を出すようになった。逆にアイコンの色が良くない者は警戒され、結果治安が良くなった。
その一方、物事の判断基準がステータスに依存するようにもなった。学歴社会ならぬステータス社会の爆誕である。
どんな仕組みでアイコンやステータス画面が出てきているのか解明できていないので、詐称はまったくできない。赤裸々に自分の全てを曝け出すことに怯えて引き籠る者も出た。自分のステータスを見て絶望し自殺する者まで出た。でも、多くの者はこの状況に慣れ、開き直った。自分も酷いが周りも大差ない。多少の努力でも色は少しずつ変わるしステータスも上がる。意外なことに数値化されたことで割とポジティブな方へと変わった者が大半だった。
混乱はひどいが、これは実はかなり良いことだったのでは、なんていう者が大半だった。
少なくとも現時点では治安は良くなり、一部市場は息を吹き返し、人類全体の能力も上がっている傾向にある。これは喜ぶべきことではないかと。
そして、とうとう本実装の日がやってきた。
全人類で、その時に臨んだ。
仕事や学校は休みになり、代わりに住んでいる地域の避難所に可能な限り全員集められた状態で人々はその時を待った。
すると、集められた人たちのうち、何人かがぽわんと光り、その直後に消えた。転移だか転生だかさせられたのだ。
『次は一か月後202×年×月××日の正午に実行されます』
そんなアナウンスが人々の頭の中に響いた。どうやら本実装後は度々起こる現象になるらしい。
予め決められていた通りに行政は転生転移させられた人たちについての支援を開始し、集まった人たちはばらばらと自宅に帰っていく。
どうやら今回は1000人に1人ほどの割合で飛ばされたようだ。かなりの確率だ。
本実装されて暫くした頃、人々が便利に使っていたAIに『神』が実装された。ごく普通に使っている間は中々出てこないのだが、転生転移について話題に出したり、それ以外でもふとした瞬間に気まぐれに現れる。転生転移やステータスのことに対して訊けば、出来損ないのヘルプデスクのようにぎこちなく答えてくれることもあるし、急にむくれたり逆ギレしてみたりする。都合が悪い時には「上の者に確認します」などと言って音信不通になる。正直、まったく使えない。
なぜそんな反応をするようになってしまったのかは、本来のAIを開発した技術者や運用している者たちにも分からなかった。ステータス画面や転生転移と同じで謎だらけだ。
色々雑でツッコミどころだらけ。
でも、僕らにはどうにもできない。
実装者は『神』ってことらしいが、その存在すらほぼ全て謎のまま、僕らは翻弄される。
……そうして、転生転移は僕らの世界で普通のことになった。
人々は転生転移に備えるのが当たり前になり、人々はステータスを気にして生きる。
それが良いのか悪いのかは、正直よく分からない。
おっと、どうやら時間のようだね。
僕の周りに光が凝った。どうやら今回もまた転移させられるらしい。
多分人類最多の部類に入るだろう僕は、プレ実装から毎回転移させられては、一日かそこらで帰ってくるなんてことを繰り返している。
アイコンの上に輝く撃墜マークならぬ転移マークは数えきれないほど。
そんな状態だからステータスはあまり良くはない。体を鍛えたり何か学習するにはこちらにいる時間が足りな過ぎるから。ただ、観察力と適応力の欄だけやたらめったら高い数字だ。
ステータス画面には『観測者』なんて称号が煌めいている。
どうやら僕は転移させられた場所で何かを成すことではなく、その世界を観測してくることを求められているらしい。いくつもの世界を見せられ、現地の数人と話をし、見てきた世界のことをこちらで書き止め旅行記のように発表することで細々と生計を立てている。飛ばされる先にはどうやらパターンがあるらしく、同じ世界の何年後、何十年後なんてところに立て続けに行くなんて時もあった。
それじゃぁ、行ってくるよ。多分また明後日ぐらいに戻る。
あぁ、君も光始めたね。
……って、もしかして君は元のところに帰る方か。
お疲れ様。また会ったらよろしく。
お読みいただきありがとうございました。
普段はもっと普通の割と古風なハイファンタジーを書いています。良ければそちらもどうぞ。
……もともと私の作品を知っている方、このお話もどうやらあのシリーズの一つだったようです。
どこに繋がっているかは……(苦笑)




