指令2
ナータが洞に寄ったのは、大体60日ぶりだった。
その間は、前に寄った時の報酬であるパンで食い繋いできた。
麻袋の口を広げながら、パンの数を数える。前回よりも1割程少なかった。乾燥肉の量も、少なくなっているような気がした。
その数を数えながら、昨日の道中でのことを思い出していた。
ナータが歩いていると、1人の老婆が話しかけてきた。
「こんにちは、お若い人。どちらへ行かれるのですかな。」
「こんにちは。正面山に向かっています。」
正面山というのは、南へ数キロほど行ったところにある山である。
「そうですか。それはよいところへ行かれますな。」
老婆はゆっくりと口の両側を広げて笑った。
老婆の髪と服は埃で暗くなり、肌も浅黒い中にシワが刻まれていた。顔も服も汚れていて、声には作ったような優しさが張り付いていた。
ナータは老婆との会話を終わらせようと、目を背けながら言った。
「それでは先を急ぎますので失礼します。」
「少しお待ちなさい。わしの持っているこの干した魚と、あんたの持っているパンを交換してもらえないかい。あんた印を書く人だろう。たくさんパンを持っているだろう。少しぐらい交換してくれてもいいじゃないか。」
そう言って干した魚を取り出した。それは両手の平に収まるくらいの大きさだった。