指令1
崖沿いの道を歩いてしばらくすると、岩壁に大きな洞が空いていた。
見上げるほど高い天井で、内側の壁は人の手でくり抜かれたように滑らかだった。
そこにはナータと同じような、旅の人々が集まっていた。
数十人ほどが水場を囲んだり、談笑したりして過ごしている。
人々の声は不思議と反響せず、小さな湧水の流れる音が静かに聞こえている。
「やあ、ナータ。」
洞の守り番が話しかけてきた。
洞の守り番は洞の下仕事のようなことをしながら、ここを通る人々の用向きを聞くのが役目である。
「どうも。」
「久しぶりに来たな。君に指令が来てるよ。あ。あとは今回の分の報酬な。」
守り番はそう言うと、一枚の封筒と一抱えほどの大きな麻袋を渡してきた。
それを受け取ると、ナータは以前渡された袋を返す。これはすでに空になっている。
新しく渡された袋を開くと、そこには大量のパンが入っていた。
硬くてパサパサしたパンだが、長持ちするという特徴がある。
その他には少しだけ、干した野菜と肉が入っていた。
ナータは目をあげて、守り番をじっと見た。
そのまま数秒沈黙。
「そんな目で見るなよ。仕方がないじゃないか。物の値段が上がって、それしか買えないんだから。」
ナータは袋の口をしばると、守り番に礼を言って洞の隅に移動した。