旅の始まり2
ナータはマラを無視してその洞窟を出た。
身体は鉛のように重かったが、どうにか立ち上がって歩き出す。
外は風が吹いていた。
木々の梢が揺れ、枝は風にたわんでいる。
さらには黒々とした雲が流れていた。
雨が降り出しそうだが降らず、唸るような風の音だけが響いていた。
崖に沿って細い道が続いていて、岩肌が剥き出しになった小道は、一歩間違えれば谷底へ落ちていきそうである。
「俺を無視するのか。」
マラの問いかけにナータは無言のまま歩き続ける。
「ナータ。お前はやるべきことをやっていない。お前は自分の領地をそのままにして、自分のできることをしているだけだ。目を背けて、言い訳ばかりしている。」
マラは続けて言う。
「ずっと何もしなかったお前が悪いのに、今さら手の打ちようがなくなったといって、領地を捨てるなんてなぁ。お前は血も涙もないやつだ。その上、完全には捨てられず、領地の中で救えるものだけ救おうなんてな。」
マラはげらげらと笑った。
ナータはその言葉に、一言も反論することはできなかった。
マラの言葉は本当のことだと思ったからだ。
ナータは沈黙して崖の道を歩き続ける。
精霊との約束で、20歩行く度に地面に印を書く。
それは世界の浄化の印であると同時に、ナータの安全を守るものだった。
しかし、マラの言葉が気になって、ナータは集中することができなかった。