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奇迹を导く者

ナセルがこの世界で初めて発した甲高い叫び声は、ゴブリンたちに自分の耳を疑わせた。しかし彼女たちには確かに聞こえていたのだ。


「みんな、早く来て! あの子が喋ったわ! ゴブロとゴブナの子供が! 言葉を話したの!」一人のゴブリン女性が叫ぶと、周りで日常の雑談をしていたゴブリンたちが一斉に振り向いた。誰もが困惑した表情を浮かべている。


「本当よ! 本当なの!」ゴブリリが彼らの無言の疑問に答えた。村長ゴブメノの孫娘である彼女は大雑把に見えるが頭が良く、豊富な生存知識と狩猟技術を持ち、戦闘技術を教える隊長ゴブクズに次ぐ実力者だ。予定通りなら次期村長になる彼女の言葉には説得力があった。


他のゴブリンたちが押し寄せる中、ゴブリリは人混みを抜け出した。「こんな大事な時に家族が誰もいないなんて、どういうこと~!」彼女はゴブシャの家のある大木まで小走りに進み、上に向かって叫んだ。「ゴブシャ!?」返事がないと、少し傾いた幹を素早く登っていった。


「ゴブシャ!? いる?」開け放たれたドアから入ると、寝室で疲れ果てて眠るゴブナの姿が視界に入った。横には家族が用意した食事が置いてある。ゴブリリは足音を殺し、こっそり寝室の入り口まで近づき、板陰から様子を窺った。「ゴブナおばさん、本当に偉いわ」小さく呟いた。


その時、ゴブナが目を覚ました。ゴブリリは身を隠した。


「ゴブシャ?」ゴブナがかすかに顔をドアの方に向ける


「私です、おばさん」ゴブリリは照れくさそうに板陰から現れた。


「リリじゃん。ゴブシャに用?」ゴブナは起き上がろうとしたが、産後の疲労は想像以上で、横向きのままだった。彼女は笑顔で冗談めかして言った。「まさか私を探してたんじゃないでしょうね?」


ゴブリリは2、3秒考えた。


「両方です。お知らせがあって...驚かないでくださいね」


外からゴブリンたちの驚嘆の声が聞こえてきた。


ゴブナは不安そうに聞いた。「何か...あったの?」楽しい雰囲気以外は感じられなかったが、それがどんどん盛り上がっていく中、彼女はつい心配してしまった。


「実は、お子さんが...(ゴブリリは少し躊躇して)お子さんがお話ししたんです」


ゴブナはまず驚き、「ほ...本当?」礼儀正しく微笑んだが、喜びの表情は見せなかった。そしてある感情が堤防を決めたように溢れ出した。ゴブナは新たに増えた皺の目を何度も瞬きさせ、慌てて手で顔を覆って泣き出した。


彼女が泣いたのは、悔しいからでも、生まれた初日に話すという奇跡の子供を産んだからでもない。ただ純粋に嬉しかったのだ。ナセルを身ごもってから経験した全てのことが。


この日々、ゴブシャとゴブロは必ず一人が彼女の傍に残り話し相手になった。父娘で何か言い争いがあっても、気持ちを切り替えて彼女を楽しませようとした。

ゴブロとゴブシャは毎日より多くの薪を割り、より多くの獲物を捕まえ、ゴブナの衛生管理のためにより多くの水を汲み、沸かして消毒し、冷ましてから彼女の体を拭いた。彼女のお腹が大きくなるにつれ、体が弱っていくのを心配した。

そして今回の妊娠は初めてゴブシャを産んだ時ほど順調ではなかった。母親として、自分と胎児の状態が良くないことは十分わかっていた。出産が近づく数日間、彼女は内心恐怖さえ感じ始め、もしあと数日出産が遅れたら...(もしナセルがこの体に入らなければ、また別の悲しい物語になっていただろう)だからゴブナは泣いた。心からナセルを喜び、この家族を喜んだのだ。


ゴブリリは初めて年長者が自分の前で大泣きするのを見て、どうしていいかわからなかった。「おばさん~! おばさん、どうしたの?」ゴブリリはゴブナの前にしゃがみ込んだ。良い知らせを伝えに来たのに、なぜ泣くのか理解できなかった。


ゴブリリは焦って聞いた。「悔しいことがあったの? もしかしておじさんが妊娠中に態度悪かった?」


ゴブナは微かに首を振り、感情を抑えて普段の笑顔を見せた。「いいえ、違うの。ただあまりに嬉しくて。心配してくれてありがとう、リリ。ゴブシャにも知らせに行くんでしょう? 多分お父さんと食堂にいるわ、早く行ってあげて」


「じゃあ行きます、お体大切に」


ゴブリリはゴブナの元を離れ、ツリーハウスを降りて厨房へ向かった。まだゴブナの泣いたことが少し気にかかったが、その心配はすぐに喜びの雰囲気に洗い流された。


この村には食堂が村の中心近くにあり、小さな池に隣接していた。ゴブリンたちは集めた物資―薪、香辛料、一般的で入手しやすい食料などをここに保管する。薪を節約するため、大量に採集できる食材は7~8割がた火を通し、各家庭が必要な分だけ取ってさらに調理し、それぞれの美味しい食事を作るのだった。特別な日には、今日のように食堂で共同食事もする。


ゴブリリが食堂に着くと、ゴブシャとゴブロ、そして彼らの隣人たちが皆の食事の準備をしていた。

ゴブリリはゴブシャとゴブロの元に駆け寄った。「今は何時だと思ってるの? こんな時にのんびり料理してていいの?」

ゴブシャはため息をついた。親友であるリリの男勝りで大雑把な部分にはいつも呆れているようだった。


ゴブロは振り向きざまに言った。「副頭、何言ってるんだ。こんな時だからこそ頑張らないと。もうすぐ食事時間だ、みんなお腹空いてるだろう?」


「違うわ~! あなたの家に天才が生まれたの! ゴブシャ、あなたの弟がさっき喋ったわよ~!!」


ゴブシャは作業を止め、厳しくリリを指差して叱った。「リリ~! そんな冗談やめなさい、バカみたい。ほら、私忙しいの見えない? それとも食堂まで食べ物を盗みに来たの? ダメよ!」。


「違うってば!! 本当なの! 感じられないの?! この強い喜びの感情が!! 次々と強くなっていくのが!」


ゴブシャは一瞬たじろいだが、まだ信じられない様子だった。「で...でたらめよ、そんなことが起こるわけない」 作業に戻ったが、手の動きは明らかに鈍り、喜びの波が来るたびに体を震わせていた。


ゴブロは突然食材の炒め作業を止め、鍋返しを置いた。かまどの下で燃える薪を取り出し、手を拭うと、抑えきれない得意げな笑みを浮かべた。「パパ、ちょっと見てくるから!」


「私も行く!」


「違う!みんなで行くんだ!みんな一緒に行くのよ!!こんな大事な時に誰も欠けちゃダメだわ!」


こうして食堂のゴブリンたちもゴブシャのツリーハウス下に集まり、村中のゴブリンが揃ってその切り株を囲み、ナセルを取り囲んだ。


「近寄らないで~!」新生の騎士は必死に立ち上がった。よろめきながらも眉間に皺を寄せ、厳粛で愛らしい表情を浮かべている。


「奇跡だわ~!」


「生まれた初日に立てるなんて?」


「あの伝説!!誰かあの伝説の話覚えてる?」

ゴブリンたちは興奮して語り合った。


その時、ゴブリンたちはゴブシャ一行の到着に気づくと、すぐに静まり返り、自発的に最前列への道を開けた。この行為にゴブシャとゴブロの心臓は飛び出そうだった。

ナセルはよろめいて転びそうになり、バランスを取って再び立ち上がると、ゴブシャ、ゴブロ、ゴブリリの姿が目に入った。視線が交錯した。


ナセルは固まった。ゴブシャとゴブロが自分の家族だと知らないうちから、彼らから他のゴブリンとは違うオーラを感じ取っていた――真剣で、期待に満ち、心からの幸福な笑顔。まるでナセルと二人の間に細い糸が張られ、引き寄せられるようだった。「彼らが私の家族なのか?」ナセルはそう考え、手を伸ばしかけた。


しかしゴブロとゴブシャは人垣の前で足を止め、ナセルからまだ1メートル以上離れていた。ナセルが「もしかして家族じゃないのか?」と思った瞬間、背後から一組の手が彼を持ち上げた。

「何する!?放して~!」ナセルはもがき、自分を持ち上げた手を見た。


それはとても痩せた手だった。骨が高く浮き出ており、硬い長い爪が残っていて、ナセルの脇の下を痛めた。色は土から顔を出した新芽のように淡い緑色で、大小の白い斑点があり、震えていた。ナセルの脳裏には老人のイメージが浮かんだ。


ナセルが振り返ると、そこには確かに一人の老ゴブリンがいた。年を経た白髪のその姿は、髪を後ろで小さな髻に結い上げていた。真昼の陽光が木々の間から漏れ、老人の顔を照らす。まぶしさに瞬きを繰り返しながらも、老人は必死にその光と闘い、ナセルの姿を自らの瞳に――年月の積もった濁りを湛えたその瞳に――焼き付けようとしていた。ナセルは胸を打たれ、もがくのをやめ、次第に心が落ち着いていくのを感じた。


ゴブリリはこの光景を見て心配した。この老人は彼女の祖父であり、村の長だった。かつて知恵と強靭な体で村民を導き、数々の困難を乗り越えてきたが、今や命の灯が消えかけていた。


「村長」「村長~」「村長!」「メノー村長」周囲のゴブリンは敬意を込めて呼びかけた。


メノーは咳払いして喉を整えると、ゴブリンたちは静かになった。そしてメノーは胸の前のナセルをゆっくりと持ち上げた。腕は震え、薄皮のような皮膚が空気中で揺れ動いた。しかし次の瞬間、歯を食いしばり、目を見開き、もともと曲がっていた背中を少しずつ伸ばしていき、両手に力を込めてナセルを高々と掲げた。まるで空に突き刺すように、これ以上高く上げられないところまで。


深く息を吸い込むと、目の充血がすぐに現れた。メノーはその一息で命を懸けて叫んだ。

「ゴブレノン!」力いっぱいだったが、その声は古びたアコーディオンを軽く引いた時のような音だった。

すぐまた息を吸い込んだ。

「ゴブレノン!」先ほどよりさらにかすれた声。

もう一度息を吸った。

「ゴブレノン!」声はさらにしわがれた。


「ゴブレノン~!!」ゴブリンたちも一緒に叫んだ。

「ゴブレノン~!!!」まるでメノーからバトンを受け取るように。

「ゴブレノン!!!!」さらに大きな叫び声!

「ゴブレノン!!!!!」ゴブリンたちの叫びは激しくうねった!


「ゴブレノン!」の叫びは波のように次第に高まり、強くなっていった。その声は森全体に響き渡り、森の隅々に散らばったゴブリン集落にも伝わり、一緒に「ゴブレノン!!!!!」と叫ばせた。大量の情報伝達物質がゴブリンたちの血液を駆け巡り、震えは異国の地まで伝わり、世界中に散らばったゴブリンたちが同じ信号を感じ取った――彼らを暗闇から救う英雄が現れたのだ。


しかしナセルは、自分の精神を押し潰さんばかりの使命感に圧迫された。それは飢餓への絶望、人間に家を焼かれ、追い立てられ、殺された恨み、そして英雄到来への熱狂的な期待だった。この無形の力はナセルを窒息させ、ついには赤子独特の自己防衛本能を引き起こさせた。彼は声を上げて泣き叫んだ。


彼はゴブリンたちに伝えたかった。自分は彼らの仲間ではなく人間だと。かつて軍隊を率いてゴブリンを追い払った騎士だと。帰るべき自分の親族や国があるのだと。しかし彼の体に流れるゴブリンの血が彼を強くゴブリンたちと結びつけ、体は彼の考えを拒絶した。


メノーはナセルをゴブシャに渡し、ゴブロに訊ねた。「子供の名前は決まったか?」

「ええ、決めました。ゴブルと呼ぶつもりです。もし将来二音節を得たら、ゴブナールと呼びましょう」

メノーは首を振った。「ゴブレノンの名には三音節が必要だ」


村民たちは一斉に目を見開いた。メノーはしばらく考え、二音節を融合させ、記憶から人間の名前を引き出した:「『ナセル』、この名前はどうだろう?」

……

…………



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翻訳された日本語部分のチェックは本当に苦行でしたT w T

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