第六章 無限ループ
佐藤の会社の炎上は、いつの間にか世間では忘れ去られていた。
夏のボウフラのように新しい炎上案件が次々と発生し、【正義の戦士】たちは新しいターゲットに移っていたのだ。
しかし、それぞれの炎上がまた炎上を生み、その炎上がまたまた炎上を生むという無限ループが始まっていた。
環境問題の炎上
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炎上させた人の偽善暴露
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暴露した人の過去発掘
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発掘した人への批判
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批判した人の身元特定
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特定した人への攻撃
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攻撃に対する反撃
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反撃への再反撃
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(以下無限ループ)
大学で社会心理学を教えている山根教授(55)は、この現象を研究し始めた。
「現代のSNS社会では、集団ヒステリーが自己増殖する構造になっている」
山根はなぜこのような自体に陥っているのか学会で発表した。
「問題を解決しようとする行為そのものが、新たな問題を生み出す。正義を求める気持ちが、新たな不正義を作り出す。私たちは『正義の感染症』とでも呼ぶべき新しい病気にかかっているのです」
学会は大いに盛り上がった。多くの研究者が賛同し、「正義の感染症」に関する研究が活発化した。
そして、研究者たちは論文で互いを批判し合い、学会が炎上した。
『山根の理論は浅薄だ』
『田中の反論は的外れ』
『学会のレベルが低い』
『#学会炎上』