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第十一章 日常への回帰
佐藤ケンジは、すべての騒動を横目に普通の生活を送っていた。
転職も考えたが、結局同じ会社に残った。
今度は経理部に異動し、SNSとは少し遠ざかった生活を送っている。
「あのときは大変でしたね」新人の田中(22)が言った。
「そうだね」佐藤は苦笑いした。「でも、今思えば面白い経験だった」
「面白い?」
「うん。一枚の写真から始まって、学会まで炎上させちゃったんだから。普通の人生じゃできない体験だよ」
彼の達観した言葉に、田中は感心した。
「でも、もうSNSはやらないんですか?」
「やってるよ」佐藤はスマホを見せた。「今は猫の写真しか投稿しない」
「それなら安全ですね」
「そうでもない。昨日『うちの猫可愛い』って投稿したら、『親バカ』って批判された」
「え?」
「でも大丈夫。『親バカ』って言った人が、今度は『猫に親も子もない』って批判されてる」
田中は呆れた。
「永遠に続くんですね」
「そういうこと」佐藤は肩をすくめた。「でも、それがSNSってもんでしょ」