第一章 発症
ITベンチャーの広報担当、佐藤ケンジ(28)の人生が終わったのは、火曜日の午前11時23分のことだった。
彼がSNSに投稿したのは、たった一枚の写真だった。新商品のエコバッグを持った女性社員の写真に、「環境に優しい生活、始めませんか?」というキャッチコピー。
問題は、その女性が片手にペットボトルを持っていたことだった。
最初の返信は12分後に来た。
「エコバッグ持ってるのにペットボトル? 偽善では?」
そして、ここから地獄が始まった。
『これが現代の企業倫理か』
『環境問題を軽視するな』
『#偽善企業』
『炎上商法じゃないの?』
『この会社の他の商品も調べた方がいい』
午後2時までには、どこに出しても恥ずかしくないほど、立派に炎上していた
そして、なぜか佐藤の個人情報まで晒され始め出した。
『佐藤ケンジって奴、大学時代にコンビニ弁当ばっか食ってたらしいぞ』
『環境意識の欠片もない男が環境商品の宣伝とか笑える』
『住所特定しました』
佐藤は震えながら上司に報告した。
「部長……炎上してます」
「炎上だぁ? どれくらい?」
「それはもう見事な大文字焼きレベルで……」