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あんなに勢いよく扉から現世に帰って来た人はあなたが初めてですよ、と大家に言われた事を思い出す。
その大家も姿は大きい猫なので言わずもがなルミに拝まれたのだが。
(困らせてしまったのは申し訳ないけれども、あの時の大家さんの困り顔可愛かったな……)
猫アレルギーの自分が近づけるのは大家とお手伝い猫たちだけなので大目に見てほしい。
スマホの通知音が鳴り、画面を見ると推し猫アカウントの1つの更新通知で子猫が生まれたらしい。
小さな命を見て尊さを噛み締めたルミは現世に帰って来て本当に良かったと思いながらいいねを押した。
♢ ♢ ♢
アキは仕事帰り、いつものように必要品を買う為にスーパーに寄り、買い物を済ませて帰路についていた。
夕方タイムセールで安く買えてほくほくしていると、足元にわけのわからない魔法陣が展開される。
頭の中で警鐘が鳴り響き、逃げようとするが体が動かず血の気が引いていく。
(絶対にいやだ!)
すると急に魔法陣はバラバラに砕け散り、光の粒となって消えていった。
呆けたままのアキの目の前に大家が現れ、アキの無事を確認する。
「アキさん!ご無事ですか」
大家の姿を見てアキは一気に安心と恐怖と色んな感情がない交ぜになり、大家に縋りつく。
「こわかった……すごくこわかった……!」
アキの涙が収まるまで大家は彼女の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
落ち着きを取り戻したアキは大家と一緒に帰りながら疑問を口にする。
「大家さん、あれってどこかに転移する魔法陣ですよね?」
「そうです。どこかの異世界でこちらの世界の人を魔法陣で召喚しようと試みたのでしょう」
やっぱりとアキの背におぞ気が走る。
「でも途中で消えてしまったのはどうしてなんですか?」
「アパートに住む方々は転生も転移もできないように守護されています。なので、守護の力に反発されて魔法陣は消えたのですよ」
「そっか……こういう事ってよくあるんですか?」
「ごくたまにですがあります。ですが、安心してください。守護の力が必ずアキさんを含め皆さんをお守りします」
大家の力強い言葉にアキは安心した。ハナや他の住人達もちゃんと守られているのだ。
アパートに到着し、アキは礼を言って帰ろうとすると大家に呼び止められる。
「アキさん、異世界との縁がもうそろそろ切れる予定です」
「本当ですか!?……よかった……」
悪い事のあとには良い事があるもんだとアキは喜び、前からいくつかピックアップしておいた物件のどれにするか決めようと鼻歌を歌いながら家に帰った。




