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「今日もありがとう、猫さん。お疲れ様」
カイが現世に帰ってから数か月が過ぎた。酷かった隈は無くなり、精神的にも回復している。
日常生活も問題なく送ることができ、お手伝い猫が部屋に派遣されるのもあと数日であると大家から連絡があった。
その存在に日々癒されていたので寂しさは感じるが、依存してしまってはいけない。
今日も家事を手伝ってくれたお手伝い猫を労い、帰りを見送った。
「こんにちはー猫さん!」
カイの部屋の又隣の住人と、お手伝い猫はぺこりと挨拶してすれ違う。
住人が帰って来たその部屋は猫グッズで溢れかえっていた。
この部屋の主であるルミは大の猫好きで、非常に悲しい事にアレルギー持ちのためお迎えすることはできないのだが猫を愛する気持ちに変わりは無い。
(2つ隣の人のところに来ている猫ちゃん、三毛なんだよねー可愛い!)
先程すれ違ったお手伝い猫の愛らしさを反芻しては幸せを享受する。
転生した世界には猫というルミにとって唯一無二の存在がおらず、心がすさむ一方だったから。
ルミが転生したのはそれぞれの国が管理する大きなダンジョンが存在し、冒険者が集うギルドも国が運営しており世界人口の大半は冒険者という世界だった。
ごく平凡な家庭にボニーとして転生した彼女はある日幼馴染の少年であるフィンに訊いてみた。
「ねえ、ねこちゃんっていないの?」
フィンは不可解な面持ちで彼女にとってショックな言葉を言い放つ。
「ねこ?何それ。聞いたことないよ」
何ということだ。牛や羊はちゃんといるのに猫がいないなんていう事があるのか。
その後もフィンは不思議そうな顔をしていたものの、これ以上猫がこの世界に存在しない現実を突きつけられたくないボニーは一切その名を口にすることは無かった。
16歳になり、冒険者として活動できる年齢になるとボニーはフィンに頼み込まれて登録の為にギルドに来ていた。
錬金術が使えるフィンとは違い、少し回復魔法が使えるだけなので自分は冒険者には向いていないと断っていたが、毎日のように粘り強く頼みに来る彼に根負けした。
無事登録が済み、同じく登録したてでメンバーを募集しているパーティに声をかけて入れてもらうことができた。
リーダーで剣士のマルク、戦士のユーゴ、魔法使いのジャンは3人とも話しやすく、元から人と話すことが好きなボニーはともかく人見知りなフィンでも馴染めた。
これならばなんとかなりそうだなとボニーは冒険者としての日々を送ることになったのである。