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鎌倉殿と十三人狼  作者: AI中毒
二章 加速する輪廻
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五〜六 新たな毒血 連なる縦糸

 祇園精舎の鐘が鳴り響く。そして十三人が集まる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 義経は、木曽義仲を失った巴の方を見るが、巴はこれまでとは違い、凛とした佇まいを崩さない。


「巴殿……」


「九郎殿、またなにか、女性に礼を失することをしたら許しませんよ。昼時に源氏物語の読み聞かせを致します」


「義姉上! それはご勘弁を! せめて孫子や史記をお願いします。のう兄上?」


「お、おう……」


「緊張感のない奴らだナ。状況わかっておるカ? 論の刻限は二刻ゾ」


 ここで、あくまでも源氏側が主導権を握るべきと、やや情報の多い政子が話を進めようとする。


「鎌倉殿。現界で申したとおり、今この時は、各々がやや異なる知識、異なる記憶を持っているようです。特に、あちらの黒き方々の素性や、おおよそいかように話が進められるか、など、多少経験のある者が務めるのが肝要かと」


「ああ、そうであろうな。政子、一先ずは頼めるか?」


「はい。それではまず、占師の方、おいででしたらお手をおあげください」


 しかし今回、誰も手を挙げることはなかった。


「えっ……誰もいないってことはないと思うので、占師の方が、警戒して名乗りでないということでしょうか……」


「政子? これは、これまでとは異なるのか?」


「はい。前回は、誠の占師と、偽りの者が名乗り出て相争う、というものでした」


 ここで、名乗りを上げたのは、新たにこの場に居合わせることとなった、梶原景時。


「つまり、こういうことではないでしょうか?」


「梶原殿? 何かお分かりに?」


「もし、まこと占師が、前回の記憶を持っていたとしたらどうでしょう? そうした場合、前回の流れをご存じであれば、いかに有益とはいえ手を挙げるのはためらうのでは?」


「なるほど。それはまことに筋が通りますね。さすがは梶原殿」


「恐縮至極」


「ですが、そのことを考えると、占師という線は使えませんね。絞り込んだとて名乗り出ねば意味もなく、かえって人狼の的を絞ることとなります。

 であれば、第二の策に参りましょう。これは人狼かどうかに関わりはそれほどございません。鎌倉殿、あちらのお二方はどなたと考えますか?」


「ん? 全くわからぬが、そなたは知っているのか?」


「まさに。おそらく、平宗盛公、知盛公、そして教経殿。その三人のいずれか二人です」


「「「!!!」」」


「であれば、遊戯とは関わりなくなるな。どちらかを討ってのち、今度は霊師に見てもらうとする手がある。皆も良いか?」


「「「御意」」」


「お待ちくださ……」


 平なにがしが発言しようとするも、ときすでに遅し。半数以上が意思を定めた時点で、議論はしまいとなる。


――刑者 平知盛 不明――

――死者 平宗盛 不明――


 まさに問答無用とはこの事。そして、このことがどう出るか。ともあれ、二度目の討議が始まる。


「政子、特に何事もなく平氏が討たれたが、このあとはいかにするのだ?」


「まず、先ほど同様、占師の名乗りを期待しますが……変わらずですね。まだ警戒しているのか、もしくはかの二人のどちらかにたまたまおったか、ですね。

 では、霊師の方は?」


「私ですね」


「梶原殿でしたか」


「では、占う相手は、知盛殿ですな。む、人、と出ております」


「なるほど、となれば、人狼は全て残っておいでですね。だとしたら、占師の方が名乗りを上げぬ利はもはや……」


 ここで、耐えきれなかった者が一人。


「政子殿でしたな。私です。藤原秀衡です」


「藤原様が、占師でしたか。ではこれまでの密みは不問として、どなたを占っていただきましょうか」


「ここはどうするべきなのですかのう……」


「サイの目に任せるか、死しては困るお方をあえて占うか、ですな」


 様々な思惑があるとはいえ、ここは皆合理的になる。頼朝然り、梶原景時しかり。


「そうしたら、ここは景時になりましょうか」


「左様ですね。政子様もありえますが、遊戯としての重要さは私になりましょう」


「承知した。では、むむむ……ほう、人狼、と出ましたわい」


「まさか、そんな……」


 この状況で、やや力を持つ景時がここで、ややひいき目かもしれない提案をする。


「これは怪しいですな藤原殿。ここまで控えておられて、保身が過ぎましょうぞ。はたして人狼か、よもや論を乱すための狂人か……」


「ふむ……そう言われては、返す言葉もありませなんだ。なに、老い先短き身。この先呪いが解かれれば僥倖、解けずともせんなきこと。煮るなり焼くなり好きにして下され」


――刑者 藤原秀衡――


――死者 後白河法皇――

 そして、

――死者 源義経――


 そう、共者である。片方が、人狼の気まぐれ、もしくはサイの目のイタズラにより狙われると、問答無用でもう一方の命も奪われるに至る。そして、結末は近い。頼朝、弟の不慮の死に焦燥を隠せないが、気丈に振る舞わんとする。


「九郎……なぜだ」


「これはまさに事故という他はございませんね……」


「これが呪いなのか政子」


「まさに。九郎殿、そして鎌倉殿も、前回はお命を奪われているのです」


「院が狙われたのは、何故かわかるか?」


「いえ、これは全く分かりませんが、顔見知りを狙いたくはない、という程度でも、こう言う選択はなくはないかと」


「命が軽いのう……」


「まことに」


「して、次はいかがいたす?」


 ここで、これまで特に動きがなかった、坂東武者の雄、畠山重忠が名乗りを上げる。


「梶原殿、念のため、藤原殿の素性を追えますか?」


「ああ、そうでしたな。むむむ……人、ですね」


「これはこれは、梶原殿、手痛い失策でしたな。藤原殿が人狼と断じたのに対し、実際は人、ですか……筋が通っておりませんぞ。さては虚言、もしくは狂人……」


「何を申されるか畠山殿!? あなたはどの方が、中傷など……」


 しかし、ここで話が途切れてしまう。なぜなら、八人のうち、五人の意思が定まってしまったためである。

 人狼三人は、梶原景時を。

 梶原景時、源頼朝は、畠山重忠を。それぞれ標的に。


――刑者 梶原景時――

――死者 源頼朝――


ここで、勝敗が定まる。


人狼 三人生存 狂人は死亡

人 三人生存

勝者 人狼


 人の猜疑が猜疑を生み、人狼がそれを少しだけ後押ししたことで、議論少なく、天秤は一気に傾いたといえる。また、狂人は、死しても勝者である。


 勝者 北条政子 畠山重忠 三浦義村 藤原秀衡



――そして、時は戻り、閉じた輪廻の輪が再び――


――五周目――


 鎌倉の二人は、またも記憶なく挑むことを余儀なくされたが、今回、義経が記憶を持たぬこと、畠山重忠が記憶を持つこと、などといった小さな差が生じている。


「景時よ、そなたは他の武者との仲は良くならんな」


「肌が合わぬのです。彼らはろくに書を読まぬゆえ」


「全員ではないと思うがな……まあよい。まずは、政子や三浦らのように、記憶の地盤を作るのが肝要」


「御意」



――――

 

 再び、祇園精舎の鐘の声。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 義経は、木曽義仲を失った巴の方を見るが、背後に迫る政子……


 スパァン!


「義姉上……」


「九郎殿、女性に対し、礼を失する目の運び。許しませんぞ。源氏物語への理解が足りませんね」


「許さぬとはいえ、その源氏物語で頭をはたくのはいかがかと。のう兄上?」


「お、おう……」


「緊張感のない奴らだナ。状況わかっておるカ? 論の刻限は二刻ゾ」


 そして、それを受けて、政子が再び話を進める。


「鎌倉殿。現界で申したとおり、今この時は、各々がやや異なる知識、異なる記憶を持っております。多少経験のある者が務めるのが肝要かと」


「うむ、まずは任せる」


「まずは占師の方はおいでですか?」


 このたびは、二人が手を挙げる。一人は源義経、もう一人は梶原景時。そして、あげようとしたそぶりを見せるも、あげられなかったのが、平知盛。


「九郎殿と、梶原殿のどちらかが偽りを……しかし、そちらの知盛殿も、怪しげな動き。まずはお二人とも、知盛殿を占えますか?」


「人狼です」

「人狼ですね」


「一致するとは……これは是非に及ばず、ですか……」


「あ、またれよ!」


 おおよそ前回をなぞるような動き。違うのは役回りと、それぞれのありよう。再び、平知盛の言は受け入れられることなく、時は進む。


――刑者 平知盛――

――死者 平宗盛――

――死者 藤原秀衡――


 ここで、死者が三人。すぐさま反応するのは、その者に対して多大な恩義があり、親とも慕っていた義経。


「えっ!? 親父殿? 何故?」


「共者、ですか……」


「そうか、人狼が、宗盛殿を討ったときに、同時に、ですか……」


 ここで、あまり多くを語らないが、語るときは何らかの意味を持つのが通例であった、後白河法皇が語りだす。


「宗盛を討ったのは、源氏に相違ないの。じゃがそれは粗忽というに他ならぬ。義経、そして梶原といったか? そなたら、誠にどちらか一人が占師かえ?」


 すかさず応じたのは、兄の頼朝。


「院、それはいかなることにて? 二人いれば、いずれか真、いずれか偽なのでは?」


「くくっ、若いの頼朝。そなたが臣や弟を信じたいのはわかるが、規則をよう見てみよ」


「……む、狂人、でございますか。人狼と狂人は、意思の交換が出来るとは限らぬということでしょうか?」


「じゃの。であるがゆえに、粗忽と申した。おそらく狂人が気を遣いて、占師を偽ったのが仇となったの。そして、誠の占師は、あの時何かを申そうとした知盛ではないかえ?」


「であれば、いずれも人の敵。して、いずれから?」


 このように、人狼と分かれば、臣や弟すらも即座に処するを定める。早くも頼朝は、この呪われた遊戯に染まりつつある証左か。


「無論、粗忽と厄介を比せば、いずれなるかは自明」


 自明である。後世にまでその才が響き渡る源義経。多少の賢しさがあれども常人の域を出ぬ梶原景時。どちらが厄介かは自明。


「……なれば、自明ですな。九郎、すまぬ」


――源義経、刑死が確定し、視界が開ける。しかし――


「九郎、景時とともに何処かに隠れよ」


「兄上? 何を??」


「知っておるであろう? 儂も人狼よ」


 そう。人狼同士は、人狼が誰であるかを、確認しようと思えばできることは、多くのものがすぐに気づく。人狼は人狼を、屠る対象にはできないからである。


「なるほど。しかしながら、逃げようにもいかようにて? いずれ捕まるのではないでしょうか」


「いやなに、しばしの時間稼ぎよ。どうせあの院は、何もせずともあと数年のさだめよ」


 そう、頼朝と義経がともに人狼の時に限り、この横紙破りは強力であった。平氏なき今、その二人に表立って逆らえるものはいない。そして、この時において、何らかの形で他の参加者が死亡した場合、それは刑死ととられ、遊戯が滞りなく先に進む。


――刑者 後白河法皇――

――死者 畠山重忠――


 そして、残りの人数から、人の側に打つ手はなくなった。


「崇徳様、この場合はどうなるので?」


「まア、続けても無駄だネ。次いこうカ」


勝者、源義経、源頼朝、巴、梶原景時(狂人)



――そして、時は戻り、閉じた輪廻の輪が再び――


――六周目――


 この度、記憶を持たぬのが、和田義盛ただ一人、しかし……


 巴が占師に名乗り出、平宗盛が人狼と示される。ここで何故か和田義盛が名乗りをあげ、特に筋の通らぬ発言をする。


「平氏の一方が人狼なら、もう一方が人であったとて害は些少。万が一人狼や狂人であれば両得でしょう」


「無礼な! 貴様ら、この呪いを誠に解く気があるのか!?」


 それを是とした頼朝、義経らの言により、近衛である知盛が撃たれる。すると、当然人狼は占い師たる巴を狙い、貴重な人材が失われる。

 続いて人狼の宗盛を討つも、もはや手遅れ。残りの人狼、狂人の巧みな誘導と、負けを認めて結託する人側の協力者によって、秤は一気に人狼側に傾く。


――刑者 平知盛 近衛――

――死者 巴 占師――


――刑者 平宗盛 人狼――

――死者 藤原秀衡 民――


――刑者 後白河法皇 霊師――

――死者 源義経 共者――

――死者 梶原景時 共者――


 ここで前回同様、狂人を含めた人狼陣営と、人陣営が同数となり、人側投了。


 勝者、北条義時、和田義盛、北条政子(狂人)


――そして、輪廻の歯車は、やや加速していく――


 お読みいただきありがとうございます。


 ある程度回数が増えてきて、多くの人に記憶が入ってくると、集会ごとのスピードが上がってきます。

 また、何度かにわたり、権力の大きい源氏による「横紙破り」が発生します。

 崇徳は、どこぞの人工知能のごとく、ある程度表現豊かながら、淡々と返してきます。

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