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鎌倉殿と十三人狼  作者: AI中毒
一章 呪いと遊戯の始まり
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三 血の連鎖 過ちの代償

 祇園精舎の鐘は、無慈悲に鳴り響く。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

 ひとり遺された巴、そして義仲を死に追いやった義経や畠山重忠を睨みつけるが、その目に光は消えていない。そこで、前回をなぞるように、無慈悲に進めるのは崇徳、否、すでにただの仕組みと化した、崇徳の残滓。

 

「わかったロ。力を持ったモノが矛盾なく命を落とすというのハ、戦に負けるカ、暗殺くらいヨ」


 前回と違い、巴が騒ぐこともなく、話が進む。異変を知らぬものの中で、そこに気付く者がいるとすれば、この男しかいない。源九郎義経。


「巴殿。思ったよりも落ち込みが少なき様子」


 九郎はまだ若く、男女の機微にはやや疎い。そこは同じ女性から嗜めが入る。


「九郎殿、巴さんは、気丈にもこのようなところで取り乱すまいと必死なのです。分からぬのなら、あとで源氏物語をしかと読み込んでおきなさい」


「ううう、物語や、日記は苦手です。兵書や紀伝ならいざ知らず」


 少し話がそれすぎたか。かの怪異もやや焦りが見られる。


「その辺は、あとにせぬカ? 進めぬと、論の時がのうなるゾ」


 しかし、ここで立ち上がるのは源氏の頭領。


「いえ、論じるまでもないのです。そこな三人の黒き者、平氏であろう?」


「「「!?」」」


「まことですか兄上?」


 そう。源氏でそれを知らぬは義経のみ。


「そうなのだ九郎。実はな、我らこの呪い、二度目なのだよ」


「二度目……まさか」


「そう。一度目は、かの三人のうち二人が人狼であったがゆえ、ためらいなく彼らを切り捨てることができた。だがな、最後の人狼だけは違ったんだよ」


「最後の人狼……まさか」


 ここで、流石に崇徳がしびれを切らす。


「えっと、いつまで待たせるのかナ? そこの兄弟さン? 兄弟なんだかラ、おうちに帰ってからお話ししたらどうだイ?」


「失礼いたしました。九郎、確かに後ほど説明するだけの時はある。先に進めよう。

 それではまず、占師の方は手を挙げてください」


 手を挙げたのは二人。頼朝から見て黒き者が一人、そして、藤原秀衡。


「なるほど……この場合、互いを占う意味はあるのか? 互いに相手が人狼と言い張るのが関の山か?」


 ここで、冷静に様子を見ていた、北条政子が声をかける。


「鎌倉殿。この場合、第三者を占ってもらうのが良いかと。ただ、その人の命は保証できませぬが」


「そうか政子。であれば、誰が良い?」


「正直なところ、ここは私たちからすると、顔も名も知れぬ形こそ、最もありがたいのですが……」


「ならば、そちらの方にいたしましょうか」


「「「なっ……」」」


「いかが召されましたかな? ここで拒むは、占師というのが偽りというのと同義ですぞ……」


「致し方ありませんな。では……

 この者は、人間でございます」


「藤原殿、お願いいたします」


「はっ……この者は平教経殿。人狼でございます」


「そうか。それならどちらの意味でも、答えは見えておるな。皆、如何か?」


「「「御意」」」


「いいのかナ……」



 そして、視界は開ける。


――刑者 平教経 不明 壇ノ浦にて、義経らに敗れて敗死――

――死者 平知盛 占師 壇ノ浦にて、義経らに敗れて入水死――


 そして、不気味なまでに淡々と、鐘は鳴る。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 ここでやや憔悴気味に口火を切るのは、壇ノ浦にて何人かに姿を見せた、平宗盛。


「知盛が死した、ということは、藤原殿が人狼に間違いないようですな。何人か、壇ノ浦にて顔を合わせたがゆえ、見えるものもおるようです。

 我こそは平宗盛、霊師ゆえ、一応確かめることもできるが、試すまでもなきかと」


「やはり最後まで平氏は信用なりませんな。私こそが霊師。まあそなたの言うように、死した知盛殿が占い師であったのは、自明であるのに変わりないが」


 そう、この時点で、状況に大きな混乱が起こる。平宗盛の後で、彼を咎めるように霊師を名乗った者こそ、かの武士の鑑とも目される、畠山重忠その人である。


「重忠、つまり、この期に及んで宗盛殿は偽りを? すなわち彼こそ人狼である、と申すか」


「間違いなきかと」


 宗盛、すでに反論の気概はなし。これが、通常の人狼遊戯と大きく異なる点である。同条件では、現世の関係性を優先してしまいがちになる、という特徴が、特にこの周回においては顕著に出ていると言える。


「では、話はこれまでぞ。良いな?」


「「「ははっ」」」


「あらラ……」


 そして、視界は開ける。


――刑者 平宗盛 不明 刑死――


 ここで、犠牲は一人のまま、祇園精舎の鐘が鳴る。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


「一人しか減っておらぬか。つまり、近衛が確と守ったか。でかしたぞ! 誰ぞ?」


 ここで、慌てて止めるのは、早くもこの遊戯の要諦を、おおよそ見定めつつあったこの男、義経。


「兄上お待ちを。ここで近衛の名を明かす事は、利がございませぬ。自ら明かすことを必然とする占師や霊師とはことなり、秘すことを是とすべきかと」


「……左様だな。では明かさぬままでよかろう。

 ではここは、是非に及ばぬ。人狼であることが明らかである藤原殿、よろしいか?」


「是非に及ばずじゃな。まあ放っておいても死ぬ身よ」


「親父殿……」


 そして、視界は開ける。


――刑者 藤原秀衡 人狼 服毒死――


 再び犠牲は一人のまま、祇園精舎の鐘が鳴る。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


「再び、近衛が守り抜いたのだな。よきことぞ」


「左様ですね兄上。ただ、この後はいかように進めるのがよろしきか」


 ここで、占師はすでにおらず、明らかなる力ある者は、霊師をなのる畠山重忠、なのだが……


「霊師たる私から、特に申すことはありませんな……藤原殿も人狼に間違いは……えっ?」


「いかがした?」


「いや、藤原殿は、人であったと……」


「「「はあっ?」」」


「待て待て、どういうことだ? 藤原殿が、偽りの占師であったことは明白……ん? つまり、人にして、偽りを申すものといえば、よもや、狂人か?」


「そうかもしれません。だとすると、まだ人狼は三人とも生きておいで、ということでございますな」


 すなわち、生存者九名、うち人狼三名。それは相当に不利である。あと一度間違えたとき、民の負けは限りなく近づく。


「つまりここは、一度たりとも間違えることはできない、と」


「左様、そして、もう一つ。万が一にも、共者が討たれたとき、人狼の勝ちに定まり申す。それが人の手であっても、人狼の手であっても、それは変わりません」


「であれば何とする?」


 ここで、賽はあらぬ向きに転がる。畠山重忠が続ける。


「共者をさけるべき、かと。つまり、これまで動かなかったお方のうちに、共者がおられるのはほぼ間違いありません」


「だとすると、多く動いておる者こそ疑わしき、申しておるようなものぞ。となれば、儂か? 九郎か?」


「そうなり申す。そして、どちらも、という可能性が、最も高きにて存じまする」


「そなた、言うに事欠いて、主筋の兄弟を、共に疑わしきと申すか!? 許さん、許さんぞ!」


「申し訳ございません。なれど、我らも生きるため、そして、源氏の血を絶やさず、呪いを後に引き継がぬため。鎌倉殿には若君もおいでです。我ら坂東武者が、確と若君をお支え申し上げます」


「無礼者! 九郎、そなたも何か言え!」


「あ、いえ、重忠の申すことが、間違ってはおらぬような気も致してあるのです。たしかに、あと一度や二度のうち、人狼と最も疑わしきを討たねば、この呪いは解かれることはありませぬ。であれば、我ら宗家の二人が身を投げ打つのも道理」


「其方まで何を申すか! さてはそなたら、儂を嵌めるか? それは謀叛ぞ?」


 ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

「すまないヨ、時間切れダ。あとは誰を討つべきカ、現界できめてくレ」


 そして、視界は開ける。


 九郎義経、謀叛。頼朝が明確に主張すれば、後白河院、それに坂東武者達も、従わざるを得ない。


――刑者 源義経 不明 謀叛の疑いをかけられ、形ばかりの抵抗ののちに敗死――

――死者 後白河法皇 民 特に波乱含みはなく、人狼が選択を躊躇っているうちに、病死した可能性が高い――


 そして、変わらず鐘がなる。しかしのこった全ての坂東武者や巴と、頼朝の関係は冷え切っていた。政子も重忠の提案に反対の余地はなく、時はすぎ、時間切れを示す、再びの鐘がなる。


――刑者 源頼朝 不明 猜疑心に蝕まれ、臣下の誰一人信用できないまま、数年生きながらえる。しかしある時、落馬によって事故死。何者かの関与が示唆されるが、一切は不明。

――死者 畠山重忠 不明 謀反の疑いがかけられ、北条時政らに討たれる――


 そして、最後の鐘がなる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 残されたのは五名。北条政子、北条義時、三浦義村、和田義盛、そして巴である。この中ではやや立場が上なのは政子であるが、彼女を含め、みな憔悴している。


「結局、私たちがやり直したせいで、より多くの血が流れたのね」


「そうですね姉上。これに耐えられるかどうかも含めての、やり直しの決断というわけですか。そこまでの覚悟や、冷静な分析が、あの時になされていたか、と申せば、否と振り返るしかありません」


 鎌倉にいない巴も、口を開く。


「私が、義仲様のことを思うがあまり、やり直しの方向に押してしまったのもございましょう。皆様を、そして、この国を、より多くの呪いで満たしてしまったことになるのですね」


「そこまで背負うことはありませんよ巴さん。私達だって、そこまで考えられていたわけでは」


 そして、やや客観的に見ていたのが、三浦義村。彼はもともと、冷静な判断と、客観的な状況把握に優れ、義時や和田義盛、政子らの信頼も厚い存在である。


「であれば、一度一度の結果というよりも、記憶を含めた、連続した時の輪廻の中で、どうやったら抜け出せるかを考えるべきなんじゃねえか?」


「そうね。そうしたら、次が始まったら、一度しっかり時間をかけて話をしましょう。巴さんは無理だけれど、四人ならあつまれますよね?」


 ここで、最後まで黙っていた和田義盛が口を開く。この男、典型的な坂東武者であり、頭よりも手を動かす方が得意。第一回でも過ちを犯すなど、やや粗忽な面がみられる。


「あ、いや、そういう意味なら、俺はいない方がいいかもしれねぇ。なんか俺、なんでここにいるのかわからないくらい、この遊戯に向いてねぇ気がするんだ。だとしたら、俺が知ることで、余計なことをしちまうかも、って思うんだよ。

 今回もそうだ。おそらく途中まで有利に進んでいたのに、いつのまにか、もうこっちの勝ち筋が消えてん

だよ。

 ……そう、俺が人狼だ。多分他にもういねぇだろ」


「そういうことね。だとすると、あなたを討てば、この回は終わる。ありがとうね。言ってくれて。であれば、あまり慌てる必要はないね。崇徳様、そうですよね?」


「めんどくさイ質問だナ。まあそうだヨ。事故があっテ、そこのヒゲ以外が死んだりしたら、またややこしいことになるけどナ。それまでは制限らしい制限はないナ。まア、一年くらいが関の山じゃァないカ? それ以上経つと、呪いのほうが独り歩きして、変な動きをしかねんゾ」


「十分ね。では巴さん、鎌倉に来ていただくことはできますか? 今後の策について、話し合えたら」


「はい。わかりました」


「では、くれぐれも道中気をつけて」


 そして、視界は開ける。


 そして、巴が鎌倉を訪れ、四人による話し合いが行われる。

 ……はずだったのだが、次の日。


――刑者 和田義盛 人狼 義時や政子の父、北条時政により、なぜか謀叛の疑いを受け、急死――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


人狼 生存なし。狂人も死亡

民 四人生存。近衛は死亡も勝利。

勝者、民。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


「おめでとウ、と言っていいのかな。今回民の勝ちカ。でも皆、浮かない顔だネ」


 無論、勝者の四人は立腹である。


「あなた、話と違うじゃない!?」


「いうただロ。いつどこで強制力が働くかハ、我も分からんト。それが、一日だっただけの事ヨ」


「……」


「しかたないか……だとしたら、次の周回で、役に関係なく、私たち三人で話をするしかないね」


「そうですね姉上。遊戯一つ一つに、ある程度の大事さはあれど、もうその域を超えてきています」


「そいや、俺にとっても二度目だったが、ふたりは何度目だ?」


「わからないけれど、点数からして最低でも三度目ね。人が連勝するのはあまりなさそうだから、おそらく三回であっている」


 ここで、もう一人、少し長き眠りから起き上がった。


「んん、義姉上? それに、義時と、三浦か。巴殿も」


「え? 九郎殿? あなた生きていたのですか?」


「あア、近衛って役があるだロ? それの条件をよく見てミ。ついでに狂人もナ」


『近衛 一 人狼に狙われし者を当てたとき、その死を免れる。自ら死せども勝てば、呪いは解け、未来へ道は開く。


狂者 一 人の身にて人狼に味方をなす。人狼が勝てば、その記憶を二つ持ち越してやり直せる。負ければ二つ消える』


「なるほど、つまり、九郎殿が近衛だったのですね」


「はい義姉上。そして、おそらく人狼であった兄上と、共倒れといったところでしょうか」


「おそらくそうね。ちなみに崇徳様、今回、誰がどんな役回りであったか、見ることは可能ですか?」


「そうだナ、それも含めて、特典を紹介しよウ。今回は、民として勝利したから、一点ずつダ。民の勝ち負けは一点の増減、狂人は二点、人狼は三点の増減だヨ。そして、特典はこれサ。


 呪いの仕組み、規則の記憶 一点

 役割の記憶 一点

 推移、人の歴史の記憶 二点

 推移、役の歴史の記憶 二点 ただし、一点のどちらかは必須。実質三点必要

 全ての記憶 五点

 

 前回より前のが欲しけれバ、同じ点を払うがいイ。ちなみに、点の引き継ぎは、勝敗だけで決まルから、今残しておいても今はないヨ」


 ここで、姉の政子は、弟の小四郎、すなわち義時に、話を持ちかける。


「この、役の歴史、ってやつですね。三点は少し大きいけれど……小四郎、分け取りでいいよね? 私が歴史、あなたが役割、でいい?」


「わかりました姉上」


「ン? ここで終わりにしてもいいんだゾ?」


「誰がこんな結末で終わるものですか。前回よりも多くの血が流れているのに」


「やり直したって、血の記憶は消せんゾ」


「兄に聞きましたが、前回やり直さずに未来に進めば、私だけの犠牲で済んだのだ、とか……」


「そうですね。だからこそ、前より悪くなった、というのはどうしたって納得できないのです」


「そうカ。なら止めんヨ。まァ、呪いに心まで飲み込まれんよウ、気をつけるがよいゾ」



――輪廻の端は閉ざされ、血の宴は続く――


 三回目の推移


刑者 平教経 民 一ノ谷にて、義経らに敗れて敗死

死者 平知盛 占師 壇ノ浦にて、義経らに敗れて入水死

刑者 平宗盛 霊師 刑死

死者 なし 近衛が守る

刑者 藤原秀衡 人狼 服毒死

死者 なし 近衛が守る

刑者 源義経 近衛 謀叛の疑いをかけられ、形ばかりの抵抗ののちに敗死

死者 後白河法皇 民 特に波乱含みはなく、人狼が選択を躊躇っているうちに、病死した可能性が高い

刑者 源頼朝 人狼 猜疑心に蝕まれ、臣下の誰一人信用できないまま、数年生きながらえる。しかしある時、落馬によって事故死。

死者 畠山重忠 狂人 謀反の疑いがかけられ、北条時政らに討たれる

刑者 和田義盛 人狼 義時や政子の父、北条時政により、なぜか謀叛の疑いを受け、急死


お読みいただきありがとうございます


 ここまでが、四章構成の第一章となります。

 それほど長い連載にはならない予定ですが、続きが気になる方、面白いと思った方は、評価の星などをいただけると幸いです。

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