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鎌倉殿と十三人狼  作者: AI中毒
一章 呪いと遊戯の始まり
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二〜三 悲劇の輪廻 正しからざる選択

 祇園精舎の鐘がなる。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 

 ひとり遺された巴、そして義仲を死に追いやった義経や畠山重忠を睨みつけるも、その目に力はない。そこで無慈悲に進めるのは崇徳、否、すでにただの仕組みと化した、崇徳の残滓。

 

「わかったロ。力を持ったモノが矛盾なく命を落とすというのハ、戦に負けるカ、暗殺くらいヨ」


「なぜ、なぜあの方が死なねばならんのです!? ならばいっそ私も……」


「それは構わんがノ、ここに残った十三人が納得すれば話ははやいゾ」


「であれば……ハッ! 私はそう、人狼にはあらず。であれば、今ここにいる皆様の呪いを解くのであれば、死すべきは人狼たる者。私ではない、ということか……」


 少しだけ前を向いた巴。そこで、そこに寄り添うように、もう一人の女性、政子が声をかける。


「巴さん、ありがとうございます。何より、この呪いがとければ、また違う未来が見えてくるのかもしれません。

 さあ、では先へ進みましょうか。私は北条政子。この鎌倉殿、源頼朝様の妻にして、占師。まずはそちらで黙して語らぬ方々のいずれかに、人狼ありやなきやを見定めたいとおもいますが、いかがでございましょうか?」


 急に、話の渦中に飛び込まされた、正体定まらぬ黒き者。焦りからか、普段の彼らしからぬ粗忽な応答をしてしまう。無論それは、のちに源氏の世を影に表に支え、尼将軍と称せられた、政子の意のままである。


「な、なにを仰せか。我こそが占師。ということは、そなたが人狼ではないか! 民が偽りを申す利はあらず。であれば占師が二人たる答えは一つ。

 いっそ占ってしんぜよう。そこな北条政子、人狼にありやなきや……北条政子、人狼なり!」


「ふふふ、佐殿、否、鎌倉殿。いかがでしょうか?」


「うむ。こちらの政子が名乗りを上げたのに対し、そちらは名乗りもせずに勝手なことを仰せ。であるならば、いずれが信にたるかは明白」


「鎌倉殿。このお方が人狼たることはもはや占うまでもありませんね。であれば、一度に一人、というこの力をこの方に使うのは、ややもったいのうございます。であれば、あと二人、正体を明かさぬどちらかに、この力を使うのが正しくありましょうや」


 ここで、もはや完全に手綱をとられた黒き陣営、身内すらも省みること及ばざるものがあらわれる。


「ままままたぬか! 我こそは平氏の頭領にして、内大臣、平宗盛である。そこな弟とは異なり、我は力持たざる民であるぞ」


「あ、兄上! なにを仰せか!?」


「知盛、そなた誠に占師か? それとも人狼なのか?」


「左様なことは関わりなし。平家の再興を願うが、我らの役目でありましょう」


 彼ら二人、跡目争いなどもあったと聞く。それゆえに、かようなところでも、力を合わせることは到底叶わなかった。


「ふふふ、どちらでもかまいませぬが、もうお一方も平氏でありますれば、もはや遠慮は不要です。

 そこな名の知らぬお方、人狼にありやなしや? ……平教経、人狼」


「「「……」」」


「鎌倉殿、答えは明らかでございましょう。いずれから?」


「いずれでもかまわぬが、教経殿のほうが、より堪え性があるのなら厄介であろうな。皆も良いか?」


「「「御意」」」


――そして、視界は開ける――


――刑者 平教経 人狼 壇ノ浦にて敗死 ――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン

 鐘は鳴るも、論ずるに値せず、直ちに視界は開ける。


――刑者 平知盛 人狼 壇ノ浦にて敗死 ――


――死者 平宗盛 民 壇ノ浦の後、刑死 ――


 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 奢れるものは久しからず。その通りに、平氏の運命は定まった。そして……


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


 語り始めるは、二人の運命を定めし、占師政子。

「まだ、終わっていないのですね」


「ああ、あと一人残っているのか」


――そこで、ある男が立ち上がる。


「いえ、終わりましてございます」


「ん? 九郎、どういうことだ?」


 そう。立ち上がったのは源九郎義経。


「義姉上が人狼たる平氏を見破り、我らが打ち滅ぼしたところで、私の役目はおわりました。最後の役目とばかりに、かの頭領の命を頂戴したのが先ごろ。

 ……そう、九郎義経、私こそが最後の人狼でございます」


「「「!!」」」


「まさか……そなたが人狼とは。なんというさだめ。これは避けられぬのか?」


「もし避けるとしたら呪いはとかれず、せっかく定まった鎌倉の世も、すぐに血で汚れましょうぞ。それではこの崇徳たる怪異の思う壺でございます」


 ここで、今一人、声を上げる。大人しくしていたが、全くもって油断ならないこの方。


「何を申すか判官義経よ。そなた、よもや人狼ではなく狂人なのではないか? であれば、残り一人に後事を託し、万が一にもこの苦境から逆転するに賭けるのもわからなくはないぞ」


「院……無駄でございます。義姉上が何者であるか、お分かりでしょうに。さあ、義姉上、どうか私を占ってくださいませ」


「……」


「何をしておいでです?」


「だ、だって九郎殿……」


「早う! これこそがただ一つ、この呪いをとく術なのでございましょう。その呪いを解くための最後の血として、我が名を後世に伝えるもよし、この忌まわしき記録を捨て去り、我が名を汚名となすもよし。とうに覚悟はできております」


「……政子、頼む。武士にここまで言わせるでない」


「くくくっ。いかが致すかな?」


「……九郎義経、人狼にありやなしや? 

 ……源義経、人狼」


――視界は開ける――


――刑者 源義経 人狼 自ら申し出、受刑――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


人狼 生存なし。狂人は生存。

民 八人生存。

勝者、民。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


「おめでとウ、と言っていいのかな。民が大半残るとハ、この上なき結果ではないカ? でモ、皆、浮かない顔だネ」


「当然であろう。見ておったのではないか?」


「だネ。もちろん、このまま我が消えルこともできよウ。だけド、もう一つ選択肢が用意されていル」


「もう一つ?」


「そう。もし、この場の過半数ガ、呪いの持続を望むなラ、続けてもいいのサ。対価はないヨ。呪いの持続なら、それそのものが対価なのサ」


「……」


「どうしますか? 私は正直、九郎が生き残る未来を見つけたい。だけど、呪いを世に残す、というのがどれだけ大きなことかも分かる」


「ああ。だが、ここにいる中で、このまま先に進むのを望まぬ者の方が多いように見えるな。我らを抜きにしても、木曽殿を真っ先に失った巴殿や、我が子同然の九郎を失った藤原殿」


 ここで、発言するのは、失意から少しずつ光を取り戻しつつあった巴。


「崇徳様、もし先は進まず、もう一度となった場合、特典というのがあったのでしたか?」


「これだヨ。今回は、民として勝利したから、一点ずつダ。民の勝ち負けは一点の増減、狂人は二点、人狼は三点の増減だヨ。そして、特典はこれサ。


 呪いの仕組み、規則の記憶 一点

 役割の記憶 一点

 推移、人の歴史の記憶 二点

 推移、役の歴史の記憶 二点 ただし、一点のどちらかは必須。実質三点必要

 全ての記憶 五点

 

 前回より前のが欲しけれバ、同じ点を払うがいイ。ちなみに、点の引き継ぎは、勝敗だけで決まルから、今残しておいても今はないヨ」


「つまり、仕組みや役割などは、多くのものが引き継げる、と言うわけですか。これなら、何度かやっていれば、より良い未来がみつかるのではないでしょうか?

 皆様、私からお願いするのは筋が違うのやもしれませんが、お願いできないでしょうか?」


「……あいわかった。ここは残ろう。皆も良いか?」


「「「「御意」」」」


「では、それぞれ特典を選んでくレ。別に周りに知られる必要はないゾ」


「「「「……」」」」


――輪廻の狂いは終わらず、否、始まったばかりかもしれない――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


 再び集められた十三人。しかし、最低限の記憶を残す者の多きにより、話は速やかに進む。

 寄り添うようにたたずむ二人の『黒き者』のうちの一人が、頼朝らに声をかける。


「ん、もしや、あなた様は、佐殿なのですか? 源氏の頭領であらせられる」

「いかにも。あなた様は?」

「申し遅れました。私は源義仲。木曽源氏の頭領です。こちらは妻の巴」

「巴でございます」


「木曽殿であったか。先ごろは誠によきお働きで。とはいえ黒いままですな。名を知るだけでは解かれぬか」

「そのようで。しかし安心は安心です。多くの方が源氏のようですので」

「然り」


 前回と大差なく進む。今回は、多くのものがそれを知る。また一人のおぼろげな人影が、かがり火の前に姿を現した。そして前回と同じやりとり。


「ん、崇徳?? まさか、これは……」


「久しぶりだノ、後白河よ。いまは貴殿も院か」


「オホン、進めて良いかノ。ソナタらも含め、あまり悠長にしていられンはずヨ」


「「「……」」」


「さよウ。我こそは崇徳。正確には、その残滓であル。かの保元の乱によって、そこのクソ坊主の手によって配流とされ、八年をかけて編み上げた、そう、呪いであル」


「「「!!!」」」


「この呪イ、我ながらよく作られたモノでナ、斯様な規模の呪詛、普通であれば晴明ほどの呪力や、菅原道真や平将門の死霊ほどの怨念があろうとも達せぬ域にテ。

 人の業とはよくできておル。ただ一方的に災厄や祝福を与えンとすれば、多大な力を要すル。なれド、一方には長久命や財力、多幸を祝福し、一方には災厄を、となス。そしてそのいずれも、己とは関わりなき事。そうしたらノ、思うたほどの対価を要さずに、大きな呪をなすは不可能ではないのヨ」


「なんという執念、なんという機略……私はなにゆえ、あの時勝てたのか……」


「知らぬワ。それこそ巡り合わせ、諸行無常ヨ。なればもはヤ、我に其方への感心とて薄いワ。この呪いとて、単なる戯れゾ」


「貴殿、そんなものを残して逝ったと……」ガクッ


 ここまでは前回と全く変わらぬと、思い当たるのは八人。そして、崇徳に話しかける者や、話しかける内容すらも、大きくは変わらなかった。そう、この展開を知らぬ者、九郎義経である。


「して、いかなる呪いにて? ここに全員を閉じ込める強大な力は、先の話と矛盾しますが」


「そなたは、最も若きものであるノ。若きは良きことゾ。そして賢しきゾ。

 いや、名乗りは慎重にせヨ。話を聞いてからでも遅くはあるまイ」


「……」


「呪いはノ。ソナタらには、殺し合うてもらうのヨ」


「「「「「!!!」」」」」


「ソナタらの手元の札、誰にも見られるでないゾ。それに、中を知られるのは、ソナタらにとって致命的ゾ。黙って中を確認せヨ」


「「「「……」」」」


『勝ち負けは単純。全ての人狼が死せば、人の勝ち。狼と人が同数になれば、狼の勝ちにして人は滅ぶ。

 鐘がなれば、ここに全て集まり、人狼は贄を選べば戻る。その後、民は誰か一人を死に追うことで、次の鐘がなる……


……


人狼 三 人ならぬ身。鐘がなり、この場に集まるたび、他者を一人ずつ、秘密裏に屠る力あり。札の下の名から選ぶ。多数決。同数ならサイの目。勝てば、その記憶を三つ持ち越してやり直せる。負ければ記憶は三つ消える。これはソナタの運命。他は他者の運命。


贄 一 人にして人ならず。この場にて、狼がいずれかの死をなさしめぬ時、死す。なさしめば、民となる』


「ここにあるは十四、否、すでに人たるは十。人に変わりし狼が三人紛れておル。自覚はまだないようだがノ」


 自らの役割が異なることに気づいたのは四〜五人ほど。ただし、ここで多くを語るほど、その者らは粗忽ではない。ゆえに、ここは前回と変わらずに話が進む。そして……


……


「お、おい、これって……俺はどうすればいいんだよ?」


「「「??」」」


「なんだよ贄って!? こんなの、この場で死ぬのが決まっているんじゃねぇか!? 何が遊戯だ!」


「む、木曽殿、まさか貴殿が、贄なのか?」


「……」


「否、書いてあるゾ。避け方ガ」


「いやいや、これは、誰かに死んでもらわねぇと、しかも、人狼とやらじゃなく、人間側の一人じゃねぇか。それに、人狼だって、まだためらいしかねぇんだろ? どうすんだよ?

 よくみてみろ。民の中で、なんらかの強い力を持っているやつが何人かいる。そんな奴らをあれに変わって犠牲にでもしてみろ。例えば占師や近衛。それに共者とやらに牙が向ちまえば、同時に二人だ。

 民だってそうだろ。そいつが俺の代わりに犠牲になって、誰がいい顔するっていうんだよ? そんなことできるか? この短時間で狂人を見つけて、人狼の標的を正確に変えさせるってのか? どうやって?」


「木曽殿……」


 闇は解かれ、視界は開ける。


――死者 木曽義仲 贄 平氏を放逐して京を手にしたものの、ある時から正気を失い始める。それを見ていた後白河法皇は、彼の討伐宣旨を、源氏と平氏にくだす。そして先に動いた、源義経らの率いる源氏よって討たれる。義経は義仲を捕らえんとしたが、流れ矢によって命を落とす――


 そして何度目かわからない、祇園精舎の鐘がなる。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

お読みいただきありがとうございます。


 このまま終わるという選択肢もありましたが、それを取らなかった、というのが、ある意味で呪いの力なの、かもしれません。

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