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鎌倉殿と十三人狼  作者: AI中毒
一章 呪いと遊戯の始まり
3/24

二 なぞられた史実 そして二周目

 源義経が、悲劇の最後を遂げたのち、祇園精舎の鐘がなる。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


「く、九郎……」


「佐殿、いや、鎌倉殿、過ぎたことを気にされても、致し方ないことです。なにより、あの方の遺志をつぎ、呪いを解くことこそがなによりの供養」


「ああ、そうだな政子、その通りだ。む?」


 そう。見渡した頼朝からは、巴を除くすべての顔が、すでに見えていた。そして、前回の集まりから、一人しか減っていないことに気づく。


「これは……もしや、近衛が生きていたのか」


「それは僥倖ですね。かなり有利に立ち回ることができます」


「そうだな。そして、もはやつぎの標的は決まっておるのだよ政子」


「えっ?」


「人狼は倒さねばならん。なれど、もっと倒さねばならん輩がいるとは思わないか?」


「む、まさか、それは『狂人』ですか?」


「さよう。して、誰だと思う?」


「それは……」


 誰もが顔をうかがう。そして、多くのものの視線が一致した。


「院よ、この呪いすらも生み出した一つの因たるあなたさま。そして、九郎をはじめ、多くの人を間接的に屠るような狂言回し。もはやこれまでにございます」


「くくくっ、少し遅かったのではないか?」


「さあ、いかがでしょうか」


 そして、視界が開ける。


――刑者 後白河法皇 狂人? 一見穏やかな最期。しかし晩年は、いつ誰に襲撃されるか、つねに戦々恐々としていたとも伝わる――


――死者 源頼朝 民 万全な警戒体制のもと、数年生きながらえるも、ある日落馬にて事故死――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


「終わりじゃなかったのね。何年もたったのだし、院の葬儀からも相当に間が空いたから、呪いが解けたのかとおもったのに」


「済まないネ、もはや院がどうとかではないのだヨ。呪いは呪いとして、世に定着してしまったのサ。恨むならどちらの院を恨んでもらっても構わないヨ」


「崇徳院、そこに見えるあなた様も、もはや単なる残滓、単なる怪異ということですね」


「だネ」


「それで、今回はなぜ、守り損ねたのでしょうか」


 ここで立ち上がったのは、かの忠臣、畠山重忠。


「守り損ねた、という意味で申し上げれば、誰が誰を、というところを詰めなければなりませんね。前回のことを考えれば、もっとも狙われやすかったのは明らかに鎌倉殿でした。であるがゆえに、護るのは容易でした。しかし今回は、誰を守ったらいいのか見当がつきませんでした。

 鎌倉殿を狙う意味がもはや薄く、であれば共者の可能性が高き4人から選ぶべきか、鎌倉殿同様、死なれては困る政子様をまもるべきか」


「近衛は重忠殿でしたか。であれば今回は致し方ありませんね」


 ここで、これまでほとんど存在感を示さなかった、もう一人、坂東武者らしい坂東武者、和田義盛が立ちあがる。


「あー、でも、やっぱり守るべきだったのは鎌倉殿だったんじゃねぇか? 遊戯は遊戯としても、忠を尽くすべき相手は決まってんだろ?」


「そういう意味であれば、政子様とて同じではないか。前回、やや失意にあった鎌倉殿以上に、毅然として相手で合った政子様を守らんとして何が悪い?」


「う、うーん、そうなのか……だめだ、わかんね。巴、わかるか?」


「「「巴?」」」


「あ、いや……」


「これはまずいぞ義盛。そなた、何をしたかわかっているのか?」


「あ、ああ、まずいな」


「そなた、これまで柄にもなく慎重にしておったのは、その共者の立ち位置を弁えていたからだろうが。それが、本来なら繋がりを持たぬそなたの、親しげな呼びかけ。これはもう人狼に露見したと言っても良い。次の回、どちらかが死ぬぞ。これはもう私にも守れん」


「「「……」」」


「ただ、ここで人狼は残り三人に絞られたのも事実。

 政子様、北条義時、三浦義村。だがこうなっては、現界で見定めるしかあるまい……」


 そして、視界は開ける。


 そう。畠山重忠のいう通り、この先において、この遊戯の制約は、何ら意味を持たなかった。誰が誰を人狼と見定めたところで、その者を処分するのに、合理的な理由など作れなかったのである。純粋な遊戯であればいざ知らず、その横紙破りは通ってしまったのだ。

 なぜなら、時の権力者は北条義時や政子の父、時政。そして、彼ら北条家の庇護下にあった、二代目鎌倉殿、源頼家。その時点で、遊戯と関係なく、運命は大きく乱される。すなわち、和田義盛、巴の二人が共者と定まった瞬間、人狼側の勝利が確定した。

 人狼の二人は、共者が定まれば、勝ちを確定させる機を見て動けばよかった。そして、それまでは、ただひたすら、発言力の高い人間が倒れるのを待つだけであった。


――刑者 畠山重忠 近衛 規則とは関係のないところで、北条時政の手勢に討たれる。北条義時、政子の意がどこにあったかは、定かではない――


――死者 和田義盛――

――死者 巴――


人狼 二人生存。

民 一人生存。

勝者、人狼。



 ゴーン、ゴーン、ゴーン


「おめでとウ、と言っていいのかな。二人は、見事に勝利しタ。でも勿論、呪いは終わらない。もう一度はじめからダ」


「して、記憶の特典、とは?」


「これだヨ。今回は、人狼として勝利したから、三点ずつダ。民の勝ち負けは一点の増減、人狼の勝ち負けは三点の増減だヨ。そして、特典はこれサ。


 呪いの仕組み、規則の記憶 一点

 役割の記憶 一点

 推移、人の歴史の記憶 二点

 推移、役の歴史の記憶 二点 ただし、一点のどちらかは必須。実質三点必要

 全ての記憶 五点

 

 前回より前のが欲しけれバ、同じ点を払うがいイ。ちなみに、点の引き継ぎは、勝敗だけで決まルから、今残しておいても今はないヨ。以降、その時々の勝ち負けの人、それぞレの所でこの操作ができるヨ」


「……では、規則と、人の歴史を」

「私は、規則と、役割の歴史を」


「承知しタ。それではまた、輪廻の輪でまた会おウ、諸行無常、だヨ」



――時は戻り、輪廻は回帰する――


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


 再び集められた十三人。やはりいち早く状況を把握するのはこの二人。源頼朝、源義経。


「兄上、ここは……」


「九郎か。分からん、分からんが、あのかがり火の灯りに集まる人は、何人かは我らが源氏の……いや、それだけではないな。後白河院もおいでだ。それにらあの黒き者たちは……」


「院、ですか。私にはもしかしたら黒く見えているのやも。藤原の親父殿もいますね」


「秀衡殿か。儂には見えんな。つまり、知己ではなき者は黒く見えるということか。そなたには何人黒く見える? 儂には、一、ニ、三……六名だな」


「私も六名ですね」


 ここで声をかけてきたのは頼朝の妻、政子。彼女は、前回と一人違うことに気づいている。


「佐殿!?」

「政子か。そなたも大事ないか?」

「はい。見えぬものが七名ほどおり、源氏の陣営が八名、十四名のようです」

「そなたは院も藤原殿も知らんから、我らよりも黒き者が1人多いのか」


 ここで、寄り添うようにたたずむ二人の『黒き者』のうちの一人が、頼朝らに声をかける。


「ん、もしや、あなた様は、佐殿なのですか? 源氏の頭領であらせられる」

「いかにも。あなた様は?」

「申し遅れました。私は源義仲。木曽源氏の頭領です。こちらは妻の巴」

「巴でございます」


「木曽殿であったか。先ごろは誠によきお働きで。とはいえ黒いままですな。名を知るだけでは解かれぬか」

「そのようで。しかし安心は安心です。多くの方が源氏のようですので」

「然り」


 前回と少し違う。そのことに気付いた者は一人。だがそこに思いを馳せるまもなく、場が動く。


 また一人のおぼろげな人影が、かがり火の前に姿を現した。


「ん、崇徳?? まさか、これは……」


「久しぶりだノ、後白河よ。いまは貴殿も院か」


「崇徳……そして、後白河院……」

「黒いままですが、佐殿、あのお方は後白河院なのですか」

「ん、政子、そうだな。私からは普通に見える。やはり知己かどうかだな」


「九郎殿は?」

「私からも黒く見えます。声は普通に聞こえます」


「オホン、話を進めるゾ。ソナタらも含め、あまり悠長にしていられンはずヨ」


「「「……」」」


「さよウ。我こそは崇徳。正確には、その残滓であル。かの保元の乱によって、そこのクソ坊主の手によって配流とされ、八年をかけて編み上げた、そう、呪いであル」


「「「「「!!!」」」」」


「この呪イ、我ながらよく疲れたモノでナ、斯様な規模の呪詛、普通であれば晴明ほどの呪力や、菅原道真や平将門の死霊ほどの怨念があろうとも達せぬ域にテ。

 人の業とはよくできておル。ただ一方的に災厄や祝福を与えンとすれば、多大な力を要すル。なれド、一方には長久命や財力、多幸を祝福し、一方には災厄を、となス。そしてそのいずれも、己とは関わりなき事。そうしたらノ、思うたほどの対価を要さずに、大きな呪をなすは不可能ではないのヨ」


「なんという執念、なんという機略……私はなにゆえ、あの時勝てたのか……」


「知らぬワ。それこそ巡り合わせ、諸行無常ヨ。なればもはヤ、我に其方への感心とて薄いワ。この呪いとて、単なる戯れゾ」


「貴殿、そんなものを残して逝ったと……」ガクッ


 ここまでは前回と全く変わらぬと、思いを馳せられる者は一人いたが、黙って聞いているのみ。そして、崇徳に話しかける者や、話しかける内容すらも、大きくは変わらなかった。九郎義経である。


「して、いかなる呪いにて? ここに全員を閉じ込める強大な力は、先の話と矛盾しますが」


「そなたは、最も若きものであるノ。若きは良きことゾ。そして賢しきゾ。

 いや、名乗りは慎重にせヨ。話を聞いてからでも遅くはあるまイ」


「……」


「呪いはノ。ソナタらには、殺し合うてもらうのヨ」


「「「「「!!!」」」」」


「ソナタらの手元の札、誰にも見られるでないゾ。それに、中を知られるのは、ソナタらにとって致命的ゾ。黙って中を確認せヨ」


「「「「……」」」」


『勝ち負けは単純。全ての人狼が死せば、人の勝ち。狼と人が同数になれば、狼の勝ちにして人は滅ぶ。

 鐘がなれば、ここに全て集まり、人狼は贄を選べば戻る。その後、民は誰か一人を死に追うことで、次の鐘がなる。


民 四 特に力なし。生き残れば呪いは解け、未来へ道が開く。


占師 一 毎回一人を指し示し、その者が人狼であるかを見透かす。生き残れば呪いは解け、未来へ道が開く。これはソナタの運命。他は他者の運命。


霊師 一 最近死した者が、人狼であったかを知る。生き残れば呪いは解け、未来へ道が開く。


……


人狼 三 人ならぬ身。鐘がなり、この場に集まるたび、他者を一人ずつ、秘密裏に屠る力あり。札の下の名から選ぶ。多数決。同数ならサイの目。勝てば、その記憶を三つ持ち越してやり直せる。負ければ記憶は三つ消える。


贄 一 人にして人ならず。この場にて、狼がいずれかの死をなさしめぬ時、死す。なさしめば、民となる』


「ここにあるは十四、否、すでに人たるは十。人に変わりし狼が三人紛れておル。自覚はまだないようだがノ」


 自らの役割が異なることに気づいたのはまた別の一人。ただし、ここで多くを語るほど、その者らは粗忽ではない。ゆえに、ここは前回と変わらずに話が進む。そこは頭領たる頼朝の役目。


「……一人足りませぬが」


「ソナタは、先の若きの兄カ。カカカ。左様。しかしノ、そのもののサダメはの、先の人狼の手によりて、程なク命を落とすことが半ば決まっておル」


「そんな事、人狼? たる札を持つものが拒めば済むこと……」


「否。そうしていれば、この火が消えて、ソナタらの腹が減るまでこのままゾ。ちなみに我に刀槍は通じぬゾ。試しても良いガ」


「……」


「進めるゾ。ソナタらは勝ち、負けが用意されておル。すなわち双六と同様の遊戯ぞ。しかし駒はソナタら自身。死なば死に、生きらば生きル。呪いを解く術は示されておる」


「これ、人狼は、勝ってもやり直しになるってことですか?」


「さよウ。だが、記憶あるやり直しは相当に有利ゾ。ちなみに、人も、必ず未来へ進まなければならぬわけではなイ。勝ちが決まったのち、その結果に不満あるものが半数を超えた場合、やり直すことも出来ル。しかし、それによって引き継がれる記憶は一つゾ。

 そして、どちらも、連勝すれば記憶は累積されル。負ければ負けた分、一つ減るのミ」


「つまり繰り返せば繰り返すほど、優位に立つ者が現れる、と……ですがこの殺戮の遊戯を繰り返すなど……」


「呪いとハ、そういうものゾ。人の心を蝕ミ、新たな呪いを生ム」


「して、人は人狼を見つけて討たねばならぬ、ですが、人狼は? 指名すればここで誰かが死ぬのですか?」


「否。それをせバ、現界に影響が大きく、呪いがたもてヌ。ゆえニ、指名したのち、その場にて最も違和感のない形で、そのモノが死ス。そして下手人は、不思議と罰せられることはなイ」


「表立っては疑問がなくなったか……」


「ちなみに、初回のみは、民の側の特典として、一人目の犠牲が出たのちすぐニ、この場に再結集し、誰が人狼かを論じてもらえるゾ」


「「「……」」」


「お、おい、これって……俺はどうすればいいんだよ?」


「「「??」」」


「なんだよ贄って!? こんなの、この場で死ぬのが決まっているんじゃねぇか!? 何が遊戯だ!」


「む、木曽殿、まさか貴殿が、贄なのか?」


「い、イヤ……イヤあ!!」


「と、巴殿、お気をたしかに!」


「否、書いてあるゾ。避け方ガ」


「いやいや、これは、誰かに死んでもらわねぇと、しかも、人狼とやらじゃなく、人間側の一人じゃねぇか。それに、人狼だって、まだためらいしかねぇんだろ? どうすんだよ?

 よくみてみろ。民の中で、なんらかの強い力を持っているやつが何人かいる。そんな奴らをあれに変わって犠牲にでもしてみろ。例えば占師や近衛。それに共者とやらに牙が向ちまえば、同時に二人だ。

 民だってそうだろ。そいつが俺の代わりに犠牲になって、誰がいい顔するっていうんだよ?」


「木曽殿……」


「なあ、教えてくれよ? 佐殿? せっかく先ごろ平氏を京から追い出し、源氏の世を作っていこうって時に、こんなのあるかよ? なあ、どうしたらいいんだ?」


「木曽殿、考えましょう。まだ何か可能性が……」


「可能性? そんなのあるかよ!?

 ……あっ! まさか! これなら……」


――闇は解かれ、視界は開ける――


――死者 木曽義仲 贄 平氏を放逐して京を手にしたものの、ある時から正気を失い始める。それを見ていた後白河法皇は、彼の討伐宣旨を、源氏と平氏にくだす。そして先に動いた、源義経らの率いる源氏よって討たれる。義経は義仲を捕らえんとしたが、流れ矢によって命を落とす――


 そして何度目かわからない、祇園精舎の鐘がなる。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン

お読みいただきありがとうございます。


 現実世界と、人狼遊戯が交錯するため、普通のゲームとは、時折異なる動きがおこります。今回の結末は、純粋なゲームであれば、また違った結末の可能性があり得たでしょうか。


 そして、二周目が始まりました。繰り上がりが発生しています。

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