二十六偽 開かれた輪廻 呪いの連環
前回、巴の覚悟と、それに伴う覚醒によって、ついに呪いの尻尾をとらえた参加者達。ですがそれは、薄氷を踏むが如く危ういものでした。
そうならなかったIFを描きました。
二十六周目、その実は百二周目であったことがのちに分かる。その周にて、巴は木曽義仲と、今生の別れを決意する。しかし、その決意が揺らいでしまったとしたら……
記憶がある程度残っている巴の説明を聞いた義仲は、しかと理解する。
「であれば是非に及ばん。巴、しばしの別れぞ。そなたはこの呪いが解かれるまで、九郎殿や宗家の面々をお助けするのだ。そしてそなたにとって何十年後になるかわからんが、いつか黄泉路の案内をして進ぜようじゃねぇか」
「嫌でございます! ここでなんとしても院の妄執を打ち砕き、共に生きる道を探すのです! それが叶わなくば、すぐにあとを追わせていただきとう存じます」
「いや、それは無理だ。まず、そこまで高望みはできねぇ状況だよ。よくよく聞くに、まず九郎殿の余裕がねぇ。俺と九郎殿を両方守り抜くのはどうやっても無理だ。
そして俺はいつやられるかわかったものじゃねぇし、九郎殿がやられては源氏そのものが崩壊する。おそらく同時に危うくなっている藤原家の嫡子と、どちらが脱落するかっていう正念場だ」
「では、九郎殿をお守りした後で、義仲様の後を」
「それこそ本末転倒ってやつだよ。二人ともに輪廻の呪いに囚われ、抜け出せなくなってみろ。来世への道筋すら断たれてるかもしれねぇぞ。ならば、ここは何年かかってもいい。儂はそなたの手でこの呪いの鎖を断ち切るまで、この獄の中で待ち続けるさ」
「義仲様……」
――その周は変わらず進み、義経を守り切るが、やはりどうしても未練を断ち切れず、無気力な行動をしてしまう巴。間違った行動を繰り返し、呪いから脱出する算段が曖昧になる――
そして十数回ののち、平宗盛が贄としてその命数を尽くすと、次は巴であった。ここまでどうにか巴を支援してきた義経や梶原景季、政子らであったが、もはや手の施しようがなくなる。
大きな切り札を失った源氏の一門、何度かに渡る入れ替わりののち、義経、続いて後白河が贄となる。
後白河法皇、一度はやや焦燥するも、あまりに長く、この閉ざされし輪廻にいすぎたからか、最後は頼朝らに見送られて、穏やかに去って行く。
――そして、呪いはその解き放たれる条件すら曖昧なまま、未来の英雄たちを次々に飲み込んでゆく――
――二二六周目――
「後鳥羽院、ご謀叛!!」
「泰時、鎮めて参れ!!」
「承知しました父上」
――
「北条の田舎者め、このままでは済まさんぞ。崇徳院の如く、呪いを強めてくれよう」
――一三三八周目――
「尊氏殿、なぜ帝をないがしろに……」
「楠木殿、お覚悟を!!」
――
「義満様、先の後醍醐帝や新田義貞殿、楠木正成殿らは恨み深く、大いに呪いが広がる予兆ありしと聞きます」
「であれば、明の歴史の中に、何かしら調伏する鍵はあるまいかの。貿易を拡大しよう」
――三五八二周目――
「敵は、本能寺にあり!」
――
「お館様、敵は、桔梗の紋にございます」
「であるか。ならば是非に及ばず。十兵衛よ、次はこうは行かぬぞ」
――二五八六七周目
「御用改である!!」
「新撰組!?」
「桂小五郎は何処だ!」
「ぐふっ……次はもう少し慎重に行かねば」
――
「龍馬!? この傷は無理だな」
「半太郎、心配いらんぜよ。あと三度は試せるきに」
――
「なぜ私が西郷サァを討たねばならんのです?!」
「大久保どん、もう命数も尽きもした! あとはまかせましたぞ!」
――こうして、呪いは次々にその数と力を増やしながら、英雄たちは何度となく試行錯誤をするようになる。無論、その大半が不毛な争いであり、その有無がどのように時代の節目に影響していたかも、後世に検証することはできない。
少なくともこの国に限らず、歴史の重要な局面において、理不尽に命を奪われることが少なくないのは確かである。
――そして現代、必ずしも人の生死に関わらないところでさえ、呪いが何らかの形で発現することすら、珍しくはないのかもしれない。
「あの人、会社やめたって聞いたよ」
「大丈夫? 最近ハラスメントを苦に……って人はおおいよね」
「まあでも、うちでやり直すか、新しい道に進むか、も含めて、本人の選択だよね」
――
『日本代表を長らく牽引してきたあの方が、本大会で代表選外になりました。会見の模様です。
……
「監督、決断の理由は?」
「これまでの貢献度は重要ですが、やはり本大会に勝つためのベストな選択をしないといけません。断腸の思いですが、全ての責任は私にあります」
……』
まさか、前回までの周回で、この後の本大会で決定機を外し、戦犯扱いされる姿が繰り返された。そんな姿を、本人含め誰も見たくないだろうという気遣いだ、などと監督自身が言えるはずもない。
『次のニュースです。先ほど、大物政治家の……』
どの事件が呪いと関係があり、どのように歴史が捻じ曲がっているのか、もはや追いかける術はない。
九九九九九周目 未完
「バッドエンドにも程があるんだヨ! しかもこれ、誰も否定を証明できないじゃないカ! どうしてくれるんだよ吉村!」
「三浦でございます。そちらは名前ですが、それすらも適当にしか聞こえませなんだ。名前を覚える気はありませぬか?」
「んん、覚えようとするのはタダじゃないんだヨ。ちょっと呪いが濃くなるけどいいかナ?」
「で、であればやめていただきたい。我が名を院に覚えていただくかどうかなど、人の命とはつりあいませぬ。
そして、この結果についてですが、それこそ私に言われましても。これは呪いの行き着く先として、かなり自然に近き未来かと」
「だよネ……だけどさア、まあ、そうなる前に巴や、源氏がしかト踏みとどまってくれるんだろうネ?」
「全力で回避致す所存。さしあたり、この根源をどうにかするため、周回が終わるごとに、全員で読経することといたします」
「やめレ」
お読みいただきありがとうございます。
こちらは間違いなくバッドエンドです。こうなってしまっていないか、というのは、知るよしもない……ないことを切に願います。
次回以降、こうはならなかった巴や義経、そして多くの主人公たちの活躍で、呪いは見事に……となるかどうか!?