七〜十 坂東の絆 強固なる横糸
――七周目――
次の遊戯が始まってすぐ、鎌倉にて、参加者全員が集められる。頼朝と政子の発議であり、全員に否やはない。その場に集まったのは八人。
源頼朝
源義経
北条政子
北条義時
梶原景時
畠山重忠
三浦義村
和田義盛
この遊戯において、過半数が同陣営であれば、様々な横紙破りや、点数調整などが大いに進むという盤石さを持つ。そして勝てば勝つほど、より以前の記憶が得られるため、さらに盤石さを増す。
それをさらに強く裏付けるのが、ここまで勝率が最も高い政子、そしてそれに近い値を持つ北条義時、三浦義村である。
「政子、そなたはすでに五点を手にしたのか」
「はい。そして、その次にもう一度負け、勝ちと続いたので、七点ですね。そうして、あの特典の選択肢にあった、大きな差異に気付かされたのです」
「それにしてもその点数は凄まじいな。そなた、それほど賢しかったであろうか?」
「おそらくは巡り合わせ、そして、皆様の手助けあってこそでしょう。時が限られていますので先に進めますが、特典はこのようになっているはずです」
『呪いの仕組み、規則の記憶 一点
役割の記憶 一点
推移、人の歴史の記憶 二点
推移、役の歴史の記憶 二点 ただし、一点のどちらかは必須。実質三点必要
全ての記憶 五点』
「儂は、ここまで克明には覚えておらんな。これもなのか?」
「その通りです。二点の特典は、多くの方が取ったことがおありかと思います。そして、別の方の二点と二点を合わせれば、その回の遊戯の全容がわかります」
それぞれ持ち点が異なるが、この場の全員が、何点かを持っているため、それぞれ頷く。
「それは儂も見たな。儂は二点ゆえ、義時と照らし合わせた」
「そう、一見それが完全な記憶、と思っていたのですが、なにか引っ掛かりを覚えまして、今回はいっそ、一番下の『全ての記憶』をとったのです」
特に差がないのであれば、わざわざ項目をわかるまでもない、と。その程度の勘に基づいた動きである。
「ほう。二と二と一で五ゆえ、上の三つの合わせと思うたが」
「私もそう思いましたが、それが全く非なるものでした」
「似て非、ですらないのだな」
「まことに。全ての記憶、というのは文字通りでした。正確には、前回の始めにあの鐘がなったときから、最後に勝敗が定まるまで、あの暗がり、そして現界において、私が見聞きしたもの全て、です。
鐘が鳴る前の記憶でしたら、皆様は変わらずお持ちでしょうが、その後も、となると、全く覚えがないはずかと」
「つまり、文字通りすべて、なのだな。む、文字通り? ということは、記憶ならば、文字や絵もということか?」
「その通りです。つまり、五点を超える見込みが出た時点で、前回において、見知ったこと、聞いたこと、気づいたこと、考えたことなどを克明に記します。それを必ず覚えるように致せば、前回、あるいは前々回の覚えも含めて、より多くを今に残すことができるということになります」
「そして、それをある程度、数人でまとめておけば、万が一いずれかが忘れたり、特典の値を誤っても問題ないということだな。だが、その記憶は、誠に記憶頼りか?」
「そこはそうかもしれませんし、より克明かもしれません。ただ、直前であればあるほど、残せるものは多いと存じます」
「そうか、ならばこの先、ある程度定めておいた方が良いな。どうすると良い?」
「そうですね。少し小四郎や三浦殿、梶原殿と話し合うて、どのように約すれば良いか、定めを作ってみましょう」
「たのんだ。九郎や重忠、義盛はそのあたりはあまり得意ではなかろう」
「「「ははっ」」」
「そこで元気に返事をするあたりが、そういうことぞ。
では一度散会し、しばらく後に些細を頼む」
「「「「ははっ」」」」
程なくして、政子ら四名は、源氏として団結し、呪いに向き合うための指針を策定する。優先順に以下となった。
一 八人が記憶を失わぬよう、政子、義時、義村、景時で策を練り、頼朝、義経が承認する
一 全員が五点以上になることを目指すため、八名の値が拡大することを目指す
一 政子、義時、義村を中心に、周ごとの推移を克明に書き記し、可能な限り皆が目を通す。
一 一巡目は、会話が難しいため、基本的に平氏を狙う
一 巴は記憶を全損せぬよう動くが、優先は八人の下とする。藤原秀衡は、定命があるゆえ無理に救わない
一 源氏に犠牲者がほぼ出ないことが期待できれば、人の勝ちをめざし、呪いを解く。頼朝、義経、政子を必とした五名以上
一 不自然にならぬよう、おのおの生来の気質を維持する。また、役の些細を語らない
施策を定めた結果、周回は大きく加速する。
「宗盛殿、あなたも占師とあらば、知盛殿を占っていただきましょうか」
「何故弟を? そなたの弟でも良いであろう?」
「すでに義時が知盛殿の占いを終えており、人狼、と出ております。ここでわざわざ異なる者を占う意味はござらん」
「ぐぬぬ……」
そもそも、人狼の討伐が主目的でなくなってしまったため、多くの場合、迷いなき意思決定がなされる。
――刑者 平知盛 霊師――
――死者 平宗盛 占師――
「霊師は……無理に名乗り出ずとも良いかもしれませんね」
「そうだな九郎。して義時、次は誰を占うたのだ?」
「僭越ながら院を。そして、人狼でございます」
「……」
――刑者 後白河法皇 近衛――
――死者 藤原秀衡 共者――
――死者 梶原景時 共者――
そして、人狼の勝ちを定めし時、どの民がどう犠牲になるかに意味はない。
――刑者 源義経 民――
勝者 源頼朝、和田義盛、畠山重忠、三浦義村(狂人)
――八周目――
「知盛こそ人狼である」
「兄上、何を申すか!? あなた様こそ人狼ではないか?」
――刑者 平知盛 人狼――
――死者 平宗盛 占師――
このように、何もせずとも仲違いすることすら、少なくはない。
「占い師と人狼が一人ずつ、か……如何いたそうか」
「私が霊師ゆえ、占うこととしよう」
「院よ、かようなときにわざわざ霊師が出る意味がございませぬ。すでに占師亡き今、いずれが人狼でいずれがまことであったかなど、論ずる意味がありません。
かようなことがわからぬお方では……さては、人狼か狂人にあらせられる?」
「何を申すか義経!?」
――刑者 後白河法皇 人狼――
――死者 藤原秀衡 民――
「して、鎌倉殿、最後の人狼は……」
「儂だな」
「是非もございませぬな」
――刑者 源頼朝 人狼――
勝者 源義経、梶原景時、北条政子、北条義時、巴、畠山重忠、和田義盛、(三浦義村は狂人)
「おめでとウ、この人数なら良かろうテ」
「いえ、鎌倉殿のおられぬ未来などに、国を平らかにする力はございませぬ」
「そうカ、まあ止めんがノ」
――九周目――
「院が占師でございますか」
「ああ、近衛よ、しかと朕を守るが良いぞ。知盛は……人狼だの」
「……」
――刑者 平知盛 人狼――
「しかと守られたようじゃな。大義である。それに,守られたということは、朕が偽りではない、ということであるな。
次は宗盛……そなたは人であったか。頼朝よ、この後はいかが致す?」
「そうですな……あとの二人の人狼や、狂人にも動きはなし、となればここは、霊師の方に……」
ここで手を挙げるは畠山重忠。
「霊師は私ですね。やや、知盛殿は人、と出ておりますな……よもや、院は、人は人なりとも、狂人にあらせられますか?」
「何を申すか!?」
そして、やや膠着した中、梶原景時が動く。この者、自らの得点や、貢献度が伸びぬことにやや焦りが見え、やや思考に正確さを欠きはじめる。
「左様ですぞ畠山殿。院がこの場で偽りとは道理に反します」
「梶原殿、そなた何を故なき事を? よもや……」
この場は論が定まらず、時が過ぎ去る。そして小さな事件が発生する。
――刑者 梶原景時 民 畠山重忠との口論の末、私兵を挙げて襲うも、返り討ちにあう――
――死者 後白河法皇 占師――
梶原の行動に関して、生き残った者たちも、首を傾げるばかり。畠山と後白河院の矛盾は確かであったが、そこで片方に肩入れした発言をする意味はない。
少しずつ慣れてきた畠山や和田。駆け引きの不得手な彼らとて、そこに理を見出せぬことを見抜く。
「梶原殿は、おそらく私をお疑いであったのでしょう。ただそれにしてもあの場は、矛盾を突くのではなく、新たな矛盾を誘発し、別の人狼や狂人を誘発するのが常道」
「そうだよな重忠。なら、あれはなんだ? ただの功名心か、武者に対する対抗心か?」
「かもしれませんね和田殿。ちなみに、梶原殿は民で御座います」
「おうイ、進まなくて良いのかナ? まア、無駄に時を費やす者もおらんくなったガ、それと同時に、貴重な者もおらんくなったゾ」
ここで口を開くは政子。
「畠山殿の言を是とするならば、院は狂人、そして知盛殿は冤罪。そして梶原殿は単なる粗忽。であれば、もう一つ、院が偽っていたとすると、宗盛殿、あなたが人ならざる身ということになりますね」
「左様であるな。我からみれば、そこな畠山が狂人ではないかと申したくもあるが、そこはそなたらに通じる道理ではなかろう」
源氏と平氏が矛盾した場合、理がどちらにあるかよりも、源氏か平氏かが優先される。これが盤石さを生む。そして秤の傾きもやや変える。
――刑者 平宗盛 共者――
――死者 巴 共者――
――死者 藤原秀衡 近衛――
「むむむ、これは人狼側にやや傾いたか……」
「そうかもしれません。先に一人落ちたというに、なかなかうまくいきませんね」
「ならば是非もないな」
秤が傾けば、無理はしない。それは余計ないさかいや、過度な心の負荷を避ける知恵と言えなくもない。
――刑者 源頼朝 民――
――死者 北条政子 民――
勝者 源義経、三浦義村、畠山重忠(狂人)
――十周目――
ここで、再び小さな事件が起こる。木曽義仲、死せず。
「これはいかなる事ぞ?」
「ン? あア、近衛が、人狼より先にそこのオヤジを守ったのではないかノ? どの人狼よりも先に、守を定めねば成功せぬカラ、至難ゾ」
「この場合、どうなるのですか?」
「ン、人狼の存在は露見しただロ。故に、昼、即ち人狼探しからゾ」
巴、喜びを隠しきれぬが、それは束の間と言えなくもない。いつもの通り占師が二人出でる。
「鎌倉殿と、院でございますか。
では、そちらの平氏のお方をお願いできますか?」
「民」「人狼」
宗盛を指す二人。頼朝が民と言い、後白河院が人狼と言う。これはあまり見られない光景である。話は決まらず、流れに任せることとなった。
――刑者 木曽義仲 後白河院の院宣により、源氏は争うことができず、遊戯と関わりなき形で討伐――
――死者 巴 近衛――
後白河院の強権か、はたまた呪いの強制力か。さらに、近衛が誰であるかは明らかであったため、夫を助けたことが、両方の命を縮めることとなった。
「院よ、あの宣旨の意義はあったのでしょうか?」
「呪いの行く末ではない。朕の座所や、京の治安が脅かされたままであったがゆえぞ。そなたらも、呪われ様のである前に、国を治めし者であることを忘れてはならぬ」
正論である。この後白河法皇という怪人、その権謀術数が取り沙汰されることが多いが、こと為政者としては相応に秀でていたことも確かである。
だが皮肉なことに、この遊戯においては、その正論は仇となった。近衛なき周回、そして無駄な刑死は、やはり秤を人狼側に傾ける。占師の優位は近衛の存在によって保たれるが、それを法皇は自ら潰したことになる。
――さらに、この後白河法皇の選択が、彼自身の運命を少し変えたことに気づくのは、相当に先の輪廻である――
――刑者 平宗盛 共者――
――死者 藤原秀衡 共者――
――死者 後白河法皇 占師――
「九人残り、人狼側が全員生存。占師と近衛もなし……ことここに至っては、勝ち目はなしと存ずる」
勝者 源頼朝、平知盛、北条義時、梶原景時(狂人)
そして、少しずつ様相を変えながらも、閉ざされた輪廻は続いてゆく。
お読みいただきありがとうございます。
源氏の動きがルーティンになってくることで、一気に加速が始まります。




