人魚と騎士
「エイレン、どう?」
「今のところ周囲にはいないな。どうせ直ぐ追ってくるだろうが……」
はあ、とため息を吐く。軽い気持ちで受けた依頼は、半月近い期間が経過して尚完了していない。まさかあのトレーラーハウスが恋しく思えてくるとは。
「なら今の内に体でも洗っておけば? 流石に五日間シャワーも無しじゃキツイでしょ」
「何度も言っているが、まともな代謝の体じゃない。五日どころか五年でも問題は無い」
「でも汚れはするでしょ? ただでさえずっと屋外何だから」
物分かりの悪いネオンに再度ため息が出そうになる。何故やたらこちらにシャワーを進めてくるのか。そもそも、水が枯渇したら困るのはお前だろう。私は飲み食いが必要無いのだから。
「……余計なお世話だ、帰ったら浴びる。今はいい」
「そう言って、一体いつになったら帰れるかわかんないじゃないの。前私が水辺に叩き込んだ時にはもう体真っ黒だったわよ?」
「……そうだな、アレは最悪だった」
ネオンに冷たい視線を向けて言う。五日前、水浴びを拒否する私をコイツは寝ている間に水場へ投げ込みやがったのだ。溺れ死ぬかと思ったぞ、死なないが。
「でしょ? やっぱり定期的に体は洗わないと駄目よ」
「そっちじゃあ無い! 寝ている私を水中に叩き込んだ事だ!」
何を勘違いしているんだコイツは。脳ミソまで魚並みなのか?
「あんまり大声出さない方が良いんじゃない? 見つかるわ」
「誰のせいだ!」
思わず更に大声が出た。だが! これは! 仕方ないだろ!
「もう、うるさいわね……見つかる前に私の鼓膜が破れそうよ」
「……本当に破ってやろうか?」
ネオンの耳に向けて手を翳す。慌てた奴が急いで距離を取った。
「冗談じゃ無いの。本気にしないでよ」
「……なら、私にこれ以上シャワーを勧めるな。これ以上言うようなら本気で──」
パンと鼓膜を破る動作をすれば、やや嫌そうな顔をしたネオンが静まり返る。それで良い、お前は静かにしていろ。
「私は周囲の警戒に戻る。万が一何かあったら呼べ。こちらも、アレが来たら連絡する」
やや不満そうな奴を置いて私はその場を離れる。本当にアイツは何をこだわるのか……
ハア、と再度ため息が漏れる。別に息を吐く必要のある体じゃあない。ただ単に気分の問題なだけだ。つまり、それだけ気が重いのである。
一応この気の重さはネオンの所為だけでは無い。飲食睡眠全て不要な体だとは言え、十日間以上もずっと気を張り詰めていれば疲れもする。そして、奴の方は私と違って戦闘周りは不得手ということもあり、基本的に後方待機だ。結構な頻度で寝ているし、食事もしっかり取っている。つまり、それほど疲れていない。元気なのはその所為だろう。
……奴も二三日徹夜させれば静かになるだろうか?
……良い案だとは思うが、何となくもっとうるさくなりそうな気もする。保留。
それより今は辺りに意識を集中しよう。見渡す範囲ではアレの姿は無し。市街地……廃墟と化している為、元市街地か? ではあるが、アレは巨大だ。近づけば直ぐに分かる。アレの厄介なのは高いステルス性……各種レーダーやセンサーに一切映らないという面倒な性質だ。驚くことに、映像の手合いまで欺瞞するらしい。
という訳で、基本肉眼の私たちに依頼が回ってきた訳だが……アレの予想以上のスペックに苦戦中である。流石は大戦時の兵器、文字通りの規格外だ。
「何を思ってあんなものを作ったのか……人間の考えはよく分からん」
思わず愚痴がこぼれ出る。だがまあ、仕方ないだろう。元々こんな長期依頼になるはずではなかったのだ。
当初の予定ではアレをさっさと破壊して戻る予定だったが……500000Gの超高額依頼を甘く見ていた。
アレの進路予測区域に踏み込み、交戦したは良いのだが……完全に敗北。おまけに目をつけられたらしく、ずっと付け狙われている。幸い、長期戦ならまともに死なないこちらが有利だ。補修も受けられない奴を削り殺してやろうとヒット&アウェイを繰り返している。
が、現状の交戦回数が既に百度を超えている。アレにも相当損傷を与えた筈だが、機能停止する気配はまるでない。一体後どれだけ繰り返せば良いのやら。
辺りを見渡すが、アレの姿は無い。まだ来ていないのか、それとも、私が見つけていないだけなのか……この辺りにビルは……あった。
ビルの壁面に足を延ばし、そちら側に歩みを進める。壁を歩く、というと違和感のある光景だが……私からすれば、やろうと思えばできる事に過ぎない。元々まともな物理法則に囚われている存在でないのだから。
カツン、と屋上へ足を付けた音が鳴る。高所から見渡す限りでは……どうやらアレはいないようだ。
それなら来るまでここに──ゆらり、と空気が私に触れた。
自然風とは違う、何かが動いた風だ。
まさか?
屋上には何も
下からも確認した
ならば──奴は、反対の壁面に!
ごく僅かな動揺が収まる前に、私は反射的に剣を抜いていた。そして──視界に入ったそれが、私の頭部を吹き飛ばした。
当然、問題は無い。地面に転がった頭を無視して私は奴の次撃に対処する。
ギャリン、と金属音を響かせて私の剣が、奴の振るった脚部を逸らす。咄嗟ではあるが、精確に行った──だと言うのに、私はその場を吹き飛ばされていた。ええい、化け物め!
「っ、洒落にならん!」
頭部を元の位置……首の上まで戻し、私は姿を現したそれを見据える。
XG-998 通称、スパイダー。その名の通り見た目はまるで巨大な蜘蛛だ。鋼鉄の八本足、頭のような部分につけられた多数のセンサー。それらは余りにも通称と一致していた。
……今の私に、奴の見た目を評価する余裕は全く無いが!
ガキャギャン! と幾つもの音が繋がって響く。奴の繰り出した足を逸らし、反撃に切り返した音だ。だが、何一つ状況は好転しない。奴の装甲は私の剣でも容易には斬り裂けず、出来た事と言えば薄い線を付けただけ。どうにか、現状をひっくり返さないといけない。
「ふっ!!」
奴の突き出した足を蹴り──頭部へ向けて剣を振り下ろす。返って来たのは鈍い手ごたえと、振動。
弾かれた。硬すぎる。だが、まだだ。
叩きつけた剣を取っ掛かりに、体を持ち上げ奴の頭部へと登る。当然、暴れるが……流石にその程度で振り落とされる程柔じゃ無い。
「は!!」
渾身の力を込めて奴の目──センサーの一つに向けて剣を突き刺した。今度は確かに何かを突き抜けた感触が返ってくる。
だが同時に、奴が苦しむように体をよじった。剣を握りしめている為振り落とされる事は無いが……このまま戦えばこちらが不利だ。
力任せに刺さった剣を引き抜き、身をよじる奴に合わせて思い切り跳躍する。一旦、仕切り直しと行こう。
「……ネオン! 奴が来たぞ! 用意しろ!」
『……んー、後五分」
「寝ている場合かお前!!」
信じられない。あいつ、寝てやがった。後方待機とはいえそっちにスパイダーが来たらどうするつもりだったんだ。
『もう……何? 折角寝てたのに……』
「さっさと起きろ! 例の蜘蛛だ!」
通信をぶち切って走ることに専念する。私が着いても寝ていたら殴り倒すと決めて。
背後から尋常でない気配が迫ってくる。奴だ。必死で走っているのに全く振り切れない。相変わらず途轍もない速さだ。
直進する私の正面にコンクリートの壁が立ちはだかる。回避する余裕は無い、そして、するつもりも。
直後、私は壁をすり抜けて先へ進んだ。
一瞬遅れて背後から轟音が響く。奴が壁をぶち抜いた音だろう。まるで減速した様子が無い。
「コンクリートだぞ! もう少し持て!」
厄介な事に、今のコンクリ壁を破壊した音以外奴はまるきり無音だ。具体的にどこまで迫っているのか判然としない。今は兎に角走るしかない。
ガキン、と背後から嫌な音が響いた。これは──
ズガガガガ! と破砕音が響いた。奴に搭載されていたマシンガンだ。貫通性を重視したそれは、コンクリの床にヒビ一つ無い深い穴を作り上げていた。
長期間の戦いで弾切れを起こしていた筈だが……まだ残っていたのか、クソ。私は兎も角ネオンに当たるとまずい。ええい、起きていろよ!
「起きてろと言っただろうが!!」
「だってぇ、眠いんだもん」
「永遠に眠らせてやろうか!」
ネオンを抱え、必死で走る。走りにくい。
出来れば背負いたいが、背後ではスパイダーのマシンガンがばら蒔かれている。私と違って、致命傷を食らえば洒落にならないネオンは背負えない。
「歌ってたらいつの間にか寝てたのよ。子守唄に採用しようかしら」
「……放り出すぞ?」
背後には機関銃を撃ちまくりながら猛進するスパイダーの姿。私ならば大丈夫だろうが、ネオンは……
「もう。エイレンは気が短いわ」
「お前がやたらと癇に障る言動をするからだ!」
ハア、とため息を吐いて状況の整理に入る。
ネオンは寝ていて準備無し、今から行おうにも背後の奴を振り切らないと駄目。……仕方ない。
「ネオン、準備を行え。足止めは私がする」
「ええ!? ちょっと、私一人でどうやって……」
「そら!」
ネオンに向けて、簡易拠点からギリギリ持ち出した携帯車椅子を放り投げる。後は自力でやれ。
背後から聞こえる文句から意識を切り離し、私は目の前の化け物を見据える。準備無し、策も碌に無し──上等!
「フッ!!」
スパイダーの繰り出した足に思い切り剣を叩きつける。威力だけを考えた全力攻撃。全身に痺れが響き、体がずり下がる。代わりに、足は弾いた。
だが当然そんな物で止まる相手では無い。瞬間に放たれた機関銃を前へと跳び避け、懐へと潜り込む。
即座に体勢を立て直し、頭上を狙って全身の力を使って剣を突き出した。ズブ、と少しだけ突き刺さった感触。余りに浅い。
相手が暴れた瞬間、刺さっていた剣がすっぽ抜ける。同時に、それを握っていた私も吹き飛ばされた。
ギャリギャリと靴と地面の擦れる音が鳴る。抜けた剣は構え直し、体勢は整えたまま飛ばされた。直ぐに反撃できる。
「ハアッ!!」
次々に迫る足を逸らし、いなし、躱し、弾き、時間を稼ぐ。こちらの全力でも奴にとってはかすり傷、避けながらの一撃では跡ぐらいしか付けられない。
とは言え、もどかしいのは向こうも同じだろう。万全ならグレネードランチャーやら大砲やらレールガンやらコイルガンやらレーザー砲やらソニックキャノンやら重力砲やら何やらゲテモノ兵器を大量に繰り出していた。しかし百度を超える交戦でその殆どは破壊済み、残っているのは弾切れ寸前のマシンガンのみだ。……それでも尚破壊できる気配がみられないが。
「ヤッ!!」
カチ上げた足の間をくぐり、奴の下に入る。──瞬間、悪寒が私を襲った。
スパイダーが身を投げ出した。巨大な体躯と耐久力を活かしたボディプレス、地面がひび割れ、へこみ、砂埃が舞う。
寸前で避けた……は良いのだが、飛散した大量の破片が私の体を叩いている。まともな人間なら、これだけで肉片になっているだろう。
生憎、私はまともな人間……どころか、真っ当な生物ですらない。先ほどの破片に加えて、奴の足での攻撃で跳んだ破片も食らいまくっているが、大したダメージでは無いのだ。
こちとらデュラハン、まともに殺せると思うなよ。
ボディプレスで倒れこんだ奴の体に飛び掛かり、剣を突き刺す。今度は滅多な事では引きはがされんぞ。
ガンガンと音を立てて奴の装甲を何度も突き破る。が、やはり突き抜けているのは表面だけ。その下にあるより硬い部分には刃が立っていない。
これを破るなら準備が必要だが──
「エイレン、準備終わったわよー!」
「了解だ! 直ぐに始めろ!」
メノウの声に合わせて、より一層深く剣を突き立てる。同時に、スパイダーの体へしがみ付いた。完了まで、振り落とされる訳にはいかない。
──歌が響く。
私にとって、ずっと共にある物。
声を出すより歌を歌った。息を吐くより旋律を奏でた。何よりも、何よりも歌は私と共にあった。
人魚、セイレーン、ローレライ。私は色々な名前で呼ばれているらしいし、人を惑わせると嫌われる事もあるらしい。けど、そんな事より私は単に歌を歌うのが好きだ。
だからまあ、こんな使い方は少し不本意だけれど……仲の良い友人を助けられるなら、まるで悪くない。
──ラ
歌を歌う。歌を奏でる。歌を響かせる。それは聞く者の心を乱し、精神を昂らせ──限界を遥かに超えた力を出させるような歌。
目の前で、エイレンがでっかい蜘蛛の装甲を斬り裂いた。
「はぁはははははははは!!!」
力が溢れる。精神が高揚する。最早相手の攻撃等関係ない。
叩きつけた剣が装甲を斬り裂き、振るった拳が奴の足をへし曲げる。鉄の破片が宙を舞い、暴れる奴を私は更に切り刻んで行く。
一撃──繰り出された足を裂いた。
二撃──奴の頭部にあるセンサー類を薙ぎ払った。
三撃──突き立てた剣が、深々と突き刺さった。
「があああああああああ!!!!」
ミシミシと私の全身から嫌な音が響く。相手の攻撃では無く、自分の力に耐えかねているのだ。まともに生きていない私だからこの程度で済んでいるが、正直ちょっと改造しただけの人間なら自分の筋力で骨格を粉砕しているかもしれない。それほどに、メノウの歌の効果は凄まじいのだ。
今まさに、私がスパイダーを圧倒しているように。
「しいぃぃぃぃぃああああああああああ!!!!」
八本足の内一つを根元から斬り飛ばす。ようやく、奴の機動力の一部を削いだ。
奴が慌てたようにマシンガンを撃ちだすが──今の私を止める要因には成らない。
体を貫く銃弾は無視、構わず剣を振るい奴の体を斬り裂いて行く。
頭部へ何度も剣を叩きつけ、二層目の装甲へヒビを入れる。そこへ刃を突き立て、力任せに圧し割った。
バキ、と音が響く。
見れば、明確に奴の装甲が剥がれている。そこへ剣を振り下ろそうとして──私は、ピクリとも体が動かない事に気が付いた。
限界だ。
それに気づいた瞬間、急激に頭が冷えていく。元々痛みにはかなり鈍い。痛覚が戻ったとしても怯むような事は無いが……この感触だと、背骨でも折れたか?
動けなくなった私の目の前で、ギリギリと音を立てながら奴が足を振りかぶる。死にはしない、死にはしないが──これは少し、まずい。
ので、離脱する。
ヒヒイィィィィン、と空気が吹き抜けるような音が響き、私の影から馬が出現した。
首無しの馬、コシュタ・バワー。デュラハンの馬、一心同体とも言える相棒。そいつが私を乗せて、高々と跳躍する。向かう先は、ネオンのステージ……奴が座っている車椅子。
「きゃっ。何よ、いきなり」
「離脱する。乗れ」
「あ、もう限界なの? てっきりまだそこから暴れるのかと思って」
「無茶を言え。背骨が折れて……いやこれは砕けたか? どちらにせよ動けん」
仕方ないわね、などと言うネオンを馬に乗せ──足が魚の都合上、別途専用の固定器具を使い──再び嘶いたコシュタ・バワーが闇夜へ向けて跳ねた。スパイダーの追ってくる気配はあるが……流石にこの状況ならこの馬の方が早い。
「取り合えず、奴を破壊する糸口は見えた。全く、長かった……」
「ねえ、毎回思うけど、このお馬さんずっと出してられないの? 色々手間が省けると思うけど。主に私の移動で」
「何度でも言うが、この馬は私にしか駆れん。それに、余り私からも離せん。お前に預けられる代物じゃない」
もっと言うなら私は余り馬に乗るのが得意じゃない。……これを言うと色々言われそうだから黙っているが。
ドカ、ドカと音を立ててコシュタ・バワーが停止する。再三嘶いた相棒を労い、影へと返す。同時に、全く動けない私がごろんと転がった。
「さて、今後の方針だが……」
「ねえ、このままやるの?」
「生憎動けん。お前が動かしてくれるなら別だが……」
「じゃあこのままで良いわ」
……動けるようになったら車椅子を取り上げてやろう。
「……話が逸れた。今後の方針だが、今までと同様のヒット&アウェイで行くが──ネオン、歌での強化の出力は上げられるか?」
「どうかしら? 私もあんまりやったこと無いし……もっと力を出せーって感じで歌ったらいけるかもしれないわ」
やや不安が残る。今の状況だとぶっつけ本番になってしまうな。
ただ、それを加味してもアレを早いうちに倒しておきたいのだ。
今回の攻撃でかなりの損傷を与えている。今までの戦いで敵の武装を削った分、攻撃に専念できたのが大きい。最初など砲撃の雨あられで一瞬で行動不能にされた。正直、全滅しなかったのは偶然である。だが、それでもここまで持ち込んだ。
「私の回復は……この感じだと、歌込みで一日程かかるな。ネオン、どこかに拠点になりそうな場所はあるか?」
「うーん……この辺り建物が少ないわね。森の中よ、ここ」
森か……見える範囲だけでもやけに木が多いと思っていたが、廃墟区画を出ていたらしい。
こうなるとやや面倒な事になる。私を回復するのにネオンの歌が有効なのだが、どうもスパイダーはそれを追って来ているのだ。それに気付いて以降、少しでも音を消すよう回復は密閉空間で行っていたが……
「……ネオン、穴でも掘れないか?」
「無茶言わないでよ。道具も何も無いのに」
道具があったらやるのか、と思いながら現実的な手段を考える。が、私が動けるなら兎も角、ネオンだけで出来る事となるとまるで思い付かない。歌以外こいつは役立たずだ。
「あ! 良いこと考えたわ!」
「……録でもない事だろうが一応聞いておこう。どんな案だ」
「それはね──」
ガキン、と金属音が響いた。私とネオンが同時に顔を見合わせる。
振り切った筈だ、そこまで騒音も立てていない。幾つもの否定が頭をよぎり──その全てを無視して、私はコシュタ・バワーを呼び出した。
「乗れ!」
「え、ちょっと!?」
状況に着いてこれないネオンを、コシュタ・バワーを動かして無理矢理背に乗せる。固定は自分でやってくれ。
馬を急かし、限界まで跳躍させる。直後、真下を鋼鉄の塊が突き抜けた。
「追って来たか!」
「嘘でしょ!? 音立てて無いわよ!?」
全速力で馬を走らせ追ってきたスパイダーから逃げ惑う。動けない私だが、性質上コシュタ・バワーから振り落とされる事は無い。……揺れが酷くて吐きそうだが。
問題はメノウだ。必死で固定器具を取り付けようとしているが、揺れもありうまく行っていない。当然手伝えない私は、出来るだけ揺れないよう馬に指示する事しか出来ないのだ。
ギシギシと金属の軋む音が響き渡った。同時に、周囲の木々が破砕される音が鳴る。背後から、スパイダーが迫ってくる。
「ネオン! どの程度まで出来た!」
「今馬に取り付けた所! もっと落ち着いて走れないの!?」
「これ以上静かに走るなら速度を落とす必要があるぞ! そうなれば終わりだ!」
背後から嫌な音が迫ってくる。奴の装甲を破壊した影響で静音性は失われているが……機動力にまるで変化が無い! 足は一本破壊しているぞ!?
「あーもう! やり辛い! エイレン、手伝って!」
「無茶を言うなバカ! 指一本動かん!」
ぶっちゃけ今の私は馬にもたれかかっているだけだ。メノウより約に立たん。
「そうじゃ無くて……えい!」
ごん、と体に何かがぶつかる感触がした。頭部がそっちを向いていない為具体的に何が起きたか分からないが……コイツ、私の体を固定器具代わりにしてないか?
「なあおい、お前、何をした?」
「揺れて面倒だから、エイレンに器具の端を括り付けたのよ。落ちないって言ってたし、大丈夫でしょ?」
……言いたいことは色々ある。あるが、まあ、うん。今は黙っておこう。
少しして、出来たー、と声が響いた。直ぐに私は馬に指示を出す。
「加速するぞ、掴まれ!」
「はーい!」
グイグイと加速が体を引っ張っていく。同時に、揺れが強まり視界が更に上下し始めた。生理現象の無い体が吐き気を訴え始めるレベルだ。
だが、この速さなら振り切れ──
ガン! と馬の真横に足が突き立った。
は?
「っ、どうなっている!?」
コシュタ・バワーの足ならスパイダーを振り切れる事は何度も実証済みだ。何なら今は平地、瓦礫と廃墟の市街地より速度は上がっている。だと言うのに、何故!?
「エイレンー! 何かあの蜘蛛、小さくなってるわよ!?」
「小さく!? ……ネオン、私の首をあいつに向けてくれ!」
体から不可視の力でぶら下がっていた首を、ネオンが持ち上げ奴に向ける。そこには──
自身を覆う装甲の殆どを剥ぎ落とし、二回りは小さくなったスパイダーの姿があった。
「……まさか、軽量化したのか? 自分を破壊して?」
一兵器にそこまでの自己判断能力があるのか? そもそも自壊の権限等無いだろ! とか色々と文句が沸いてくるが、それは内に押し込めた。今するべき事はこの先を考える事だ。
「っ、コシュタ・バワー! 速度を上げろ!」
ヒヒイィィィィンと空気が抜けるような嘶きを放ち、馬が更に加速する。だが、まだ足りない。馬が限界まで走ってもまだ奴の方が速い。
──なら、限界を超えれば良い。
「ネオン! 歌だ! コシュタ・バワーに対して歌え!」
「良いけど、どんな歌!?」
「加速! とにかく加速だ!」
何をするにしても追いつかれたら話にならない。今は奴から距離を取るのが先決だ。……ネオンが歌いきるまで持つかは怪しいが!
アップテンポな歌が響く。コイツなりの速さをイメージした曲なのだろう。恐らく効果はあるが……それよりもこっちが叩き潰される方が早い。
どうにかこうにか、コシュタ・バワーには奴の足を避けて貰わないと。
「ついでに私の頭を持ち上げ続けていろ! 奴から一瞬でも視界を外させるな!」
歌いながらネオンが私の頭を持ち上げる。椅子代わりにされた体が一瞬視界に入ったが……うん。今は緊急事態だ、後にしよう。
それより、奴が視界に入った事が重要だ。見た所マシンガンは破壊されている、なら攻撃は奴の体で行われるだろう。凌ぎ切れるかは……やってみるしかない!
叩きつけられた足を横っ飛びに回避する。即座に奴の突進に巻き込まれそうになるが、大規模に跳躍して回避……いや奴もジャンプして来やがった!
迫る巨体、身動きの取れない空中──ええい、舐めるな!
迫る。後ほんの数メートル。半秒にも満たない時間で接触し、こちらを粉々に砕く巨体が。
馬の体を揺すり、動かない体をずり動かす。あわわとネオンが慌てるが、そこは自力で何とかしてくれ。
後数十センチ──突き出した私の体をぶつけ、馬を大きく回転させる。途轍もない衝撃が加わるが、直接衝突するより大分マシな筈だ。何せぶつけた私の体は文字通り砕けたのだから。
……持ち上げられた私の視界に、バラバラになった私の体が入ってくる。──問題無い。
散らばった体を再びより集め、元の形に戻す。離れた頭や胴体を操作できるのだ。このくらいは問題ない。……別に傷が治った訳では無いので、動けなくなる期間が滅茶苦茶伸びたが。
「ねえ大丈夫なの!?」
「心配するな! 私は死なん! この有様だと一週間は動けんがな!」
もちろんネオンの歌込みだ。無しだと一月は掛かってしまう。
「そうじゃ無くて私がよ! 馬がグルグルまわってるのよ!? 着地できる!?」
「……コシュタ・バワー!」
コマのように回っていた馬が、不自然な挙動で急停止する。デュラハンの首無し馬がまともな物理法則に縛られると思うなよ。
とは言え、割と無茶はさせている。帰ったら労ってやらないと。
ダン! と音を立てて馬が着地する。少し遅れて、背後で途轍もない轟音が響き渡った。
「あら凄い。このお馬さん、こんな事も出来るのね」
「それよりネオン、歌は!?」
「もう歌い終えたわ。効果は出てるんじゃないかしら?」
その言葉通り、コシュタ・バワーが凄まじい速さで走り出した……いや、速いな!
桁が違う。見る見るうちにスパイダーの姿が小さくなっていく。これなら完全に振り切れる筈だ。
「……助かった。感謝しておく」
「もっと誉めて良いのよ?」
「調子にのるな、振り落とすぞ」
どちらかというと頑張ったのは私な気がするし。
さて、助かったのは良いがここまでの大怪我は久々だ。治るまでは全く動けない。この状況でこれはかなりまずい。
まずスパイダーから逃げ切る手段が少ない。ネオンの歌を馬に掛けて走るしか無いが……哨戒を行っていたのは私だ。接近を察知する手段が無くなってしまった。
見つかってから逃げ切るのは難しい。適宜動いて接近されないようにするしか無いが、そうなると回復に更なる時間がかかってしまうだろう。
ただでさえ一週間はかかる事に加え、今度は軽量化したスパイダーへの対処が求められる。まともに動けないネオンを守るには一層手間がかかるだろう。
討伐までにはどれ程の時間がかかるのか。
「……本気で一か月以上はかかりそうだな」
「あら、そんなにかからないわよ?」
ネオンが何やらぬかして来た。お前現状分かってるのか?
「……私の回復だけでも一週間以上かかる。奴から逃げながらだともっとだ。今が半月、一か月は絶対に超える」
「その回復がそんなにかからないのよ。良い事考えたって言ったでしょ?」
……そういえばそんな事を言っていた気もする。どうせ碌でもない案だと思って考えてなかったが。
「一応聞いてやる。どんな案だ?」
「ふふん、それはね──」
鋼鉄の巨躯が地を疾走する。全身の破損により、その挙動は無音とまではいかないが……それでも、不自然な程静かである事には変わりない。
武装は無し、装甲も殆どが剝げ落ち、無残な有様だ。
だが、その巨体とパワー、スピードは依然脅威のままである。何ならスピードに至っては速くなっているのだ。当然、ネオンだけではあっさりひき潰されておしまいだろう。
スパイダーの討伐にあたって、現状の問題は三つ。
一つは私が動けない事。もう一つはネオンがどうしても足手まといになる事。そして最後に、奴を仕留めきれない事である。
スパイダーは非常に硬い。全力で剣を振るっても傷が少し付くだけの外部装甲、それを遥かに超える強度を持ち、ネオンの歌が無ければ傷一つ付けられない内部装甲。そして恐らく、その更に内側に各種精密部品を保護する為の中心装甲。
ヤケクソじみた硬さを誇るこの化け物を破壊するにはネオンの歌が必要不可欠……なのだが、人魚のネオンは陸上でまともに動けない。特別性の車椅子を使っても機動力自体はかなり低い。コシュタ・バワーも私から離れては動けない為、ネオンは必然用意を整えてその場で歌う専用だ。機動力を上げたスパイダー相手に守り切れるかはかなり怪しい。
そしてそもそもの前提に、私が動けるようになるまでどれ程短く見積もっても一週間と言う現実がある。問題全てを合計すると、それこそここから一か月かかってもおかしくないだろう。
そして、現在それらの問題は全て解決されていた。
ギシ、と私が剣を握りしめる。
ネオンが周囲を自在に動き回り、歌を響かせた。
そして、私たちに向かってきたスパイダーが大きくその速度を落とす。
全ての答えは、ネオンの出した案にあった。
「水中で迎え撃てば良いのよ」
「水中?」
半日前、ネオンは良案としてその一言を口にした。
良い案だ。ネオンから出たとは思えない程に。
「私も水中なら自由に動けるでしょう? それに、歌もより響くわ。効果も多分上がるわよ」
成程。それに、スパイダーの速度も落ちるだろう。十分色々な問題を解決出来る。……最大の前提を除けば、だが。
「良い案だ。で、私はどう動けば良いんだ?」
現在私はコシュタ・バワーの上でタオルのように掛かっているだけである。振り落とされはしないが、振動がもろに来て結構キツイ。それもこれも無茶の影響で全く動けなくなったからだが。
「剣取って」
「……自分で取ってくれ」
動けないと言っただろ。いい加減にしろ。
で、剣を借りたコイツは何やら自分の指に当てると、いきなり引いて指を切った。痛った、と騒いでいるが、何考えてるんだ?
「こんな痛いなんて聞いて無いわよ……ほら、飲んで。折角痛い思いしたんだから」
言われるがまま……と言うか、拒否する間もなく口の中に指を突っ込んできたので否応なしに血を流し込まれる羽目になる。おい、深く突っ込み過ぎだ。吐きはしないけど嫌な気分にはなるんだぞ。
ゴキ、と体内で音が響く。
折れていた骨が繋がり、裂けた肉が癒着、砕けた全身が元の形を取り戻した。これは──
「あ、効いたわね。口に入れるか胴体のに直接入れるか悩んだんだけど、こっちで良いのね」
へー、とネオンが面白そうに私の頭を持ち上げた。
抗議の異を込めて、椅子にされていた体を起き上がらせる。動けるようになったならこっちの物だ。
「……何をした?」
「人魚の血よ。色々傷とか治るらしいわ。私も試したの初めてだけど。
……本当は肉が良いらしいけど、抉るのは嫌だし」
「何もかも雑だな! 変な影響が出たらどうする……兎も角、感謝しておく」
はあ、とため息を吐く。一応、動けるようにはなったのだ。
グイ、と剣を握る。体に違和感が無い訳では無いが、十分活動可能だ。少なくとも、アレを倒すまでは持つだろう。
「さあ、それじゃ、始めましょっか!」
剣を振りかぶる。場所は湖。五日前、ネオンに突き落とされた場所だ。湖底で待ち構える私に向けて、スパイダーが突き進んでくる。いくら奴でも水に浮く事は出来ないらしい。
ネオンの歌が響く。水中の影響なのか、かつて無い程凄まじい効果が発揮されている。
体が軋む。埒外の力に悲鳴を上げているのだ。終わったらまた動けなくなるだろうが……この領域なら、一撃で十分だ。
「来い、化け物」
眼前に鋼鉄の巨体が迫る。七本の足が湖底を踏み荒らし泥を舞い上げ、視界を塞ぐ──問題無し。
元々普通の視界では無い上に、ネオンの歌が反響して正確な位置を伝えている。
距離は後僅か、眼前へ足が振り下ろされた。
速度は変わらず、最速のまま。
タイミングは──今!!
引き絞った全身が矢を放つかの如く剣を振るう。音も、感覚も、視界さえ振り切る圧倒的速度。それは湖面を割り、空を断ち──鋼鉄を斬り裂いた。
両断されたスパイダーが速度のまま突き進む。だが、直ぐにその足は止まり、胴体が大地を擦り、絶叫のような金属音と共に停止した。
そして、剣を振り下ろしたまま私も静止する。案の定全身色々砕けてしまった。……まあ、依頼は完了だ。後はネオンに運んで貰おう。
「ネオン、取り合えずアレを破壊した証拠を幾つか取ってきてくれ。できれば中枢機器類を……」
「ごめん今湖が割れて陸の上! 全く動けないわ!」
ギリギリ動く頭部を動かしてみれば、湖が割れて出来た陸地でのたうつネオンの姿が。見る限りどうにか動こうとしてはいるようだが、這いずる必要がある上に石やら砂利やらで肌が傷つくのを嫌ってまともに動けていない。
「……コシュタ・バワー」
不機嫌そうな嘶きと共に首無し馬が出現する。散々頼ってしまった、帰ったらしっかり労ってやろう……
「ただいまー、帰って来たわよー」
ネオンがトレーラーハウスの扉を開ける。動けない私は車椅子に据え付けられた荷台の上だ。
「久しぶりだな。死んだかと思ったが」
「お帰りー。遅かったねー」
メノウとテンが自分のスペースでくつろいだまま声を掛けてくる。……珍しいな。テンは兎も角、割と金遣いの荒いメノウに余裕があるとは。よっぽどの高額依頼でも解決したのだろうか。
「死ぬかとは思ったわね……ねえ、どっちかで良いからエイレンを引き上げるの手伝ってくれない? この荷台私じゃ持ち上がらないのよ」
バンバンとネオンが私の乗った荷台を叩く。やや入口が高いトレーラーハウスに私を乗せるのはネオンの腕力では不可能だろう。
「あれ? エイレン動けないの?」
「依頼の相手と戦ってボロボロなのよ。せっかく私が治したのにまた体をぶっ壊すし……」
ネオンが愚痴る。確かに治してもらった体をぶっ壊したのは私が悪い。だが、そこまで言うなら徹底的に治してから言ってくれ。また血を流すのは嫌だと言って使わなかっただろ。
……まあ、流石に口には出さないが。
「アレはまあまあバケモンだからなぁー。お前程度じゃボロボロだろ」
ケラケラとアリジエルの笑う声が聞こえてくる。……見えないと思ったらスペースに寝っ転がって酒を飲んでいた。こぼしたら面倒ごとになりそうだが。
と言うか、案の定コイツ情報持ってやがったな。
「……その持っている情報をくれればもう少しマシな期間と状態で帰れたと思うが?」
「誰がタダで教えるかバーカ! 欲しけりゃ酒とヤク! 後タバコ!」
こっちに向かって中指を立てる下品の化身に舌打ちを返し、特にそれ以上が出来ない現状に苛立ちを募らせる。案の定アリジエルはこちらを指さしゲラゲラと笑い出した。
「……何でも良い、テン、引き上げてやれ」
「えー、メノウがやってよ。私この本読んでる最中ー」
「私も今仕入れたワインを楽しんでいる所だ。お前と違って暇じゃ無い」
「私も安物飲んでるメノウと違って暇じゃ無いよー。これ結構高かったんだからねー」
「何が安物だ。遂に脳が腐ったか? 百五十年物の完全な保管品だ。本当に高かったんだぞ」
……言い合いは後にして引き上げて欲しいんだが。そろそろ自分のスペースに戻りたい。
と、何やらトレーラーの外からやって来た人影が荷台を持ち上げ、私をハウスの中へと押し込んだ。
「っと、誰だ?」
「あ、新入りです。よろしくお願いします」
「私の眷属だ。好きに使え」
不健康そうな男が寝転がったままの私を見下ろしている。どうやらメノウの眷属のようだ。
……眷属?
「メノウお前眷属とか作れたのか」
「不本意だ! 顔は好みだが性格が酷すぎる、何が悲しくて無機物に欲情する変態を眷属にしないと……」
「私は便利だから好きだよー。色々動いてくれるし」
「あらそうなの? それじゃあ眷属さん、私の水槽掃除してくれるかしら? 久々に戻るのだから、綺麗な状態で入りたいの」
ネオンに連れられて眷属とやらがトレーラーの奥へ連れていかれる。あそこはバカでかい水槽が置いてあり、壁一面がそれになっているようにも見える場所だ。
……アレの掃除はかなり手間だぞ。ネオンの雑な性格が相まってそこいら中に汚れがこびりついている。以前私もバイト代につられて掃除したが……正直、300Gの仕事ではなかったように思う。
まあ良い、これも勉強だろう。メノウは理不尽、テンは直ぐに暴力に訴え、ネオンの頼みは大抵聞くだけ損をする。そして、私の頼みは断ったら酷い目に合う、だ。よく学ぶと良い。
さて、私は一眠りでもしようか。必要が無いとは言え、動けない状態では暇で仕方ない。寝るのが一番だ。
瞼を閉じ、意識的に意識を落とす。普通の睡眠とやや異なるが、私にとって睡眠とはこのような物だ。取り合えず体が動けるようになるまでは眠っておこう……
「ぐあああああああああ!?」
全身が痛い。なんだ、なんだこの痛みは!?
「……何だ、騒がしい」
「エイレン五月蠅ーい」
「やかましいぞ! 死ね!」
心無い暴言が飛んでくるが痛い物は痛い! と言うか、全身バラバラになってもそこまで苦痛じゃなかったぞ!? 何なんだ、この痛みは!?
……まてよ? 全身バラバラ……あの時私は散らばった体を頭部を動かす要領でくっ付けた。当然、普段は滅多にしない動きだ。
……もしかしてこれ、筋肉痛か?
「ふざけるなあんな力に筋肉痛が有ってたまるかあがががががが」
「いい加減にしろ!」
「うるさーい!」
「くたばれ!」
血も涙も無い連中が私の乗った荷台をトレーラーの外まで吹き飛ばした。治ったら覚えてろあいつら!
……そして、何やら外に出されている眷属と目が合った。……お互い、大変な目にあっているようだ。
あ、あいつ自分で作った家みたいなのに入っていった。なんだ、私とは関わりたく無いか、おい。せめてちょっと助けるくらいしてくれても良いんじゃ無いのか。私は今未知の痛みに襲われているんだ。
「畜生……ああああああああああ!!」
結局痛みは暫く引かず、せっかく戻って来たのに丸一日私はトレーラーの外で過ごす事になってしまった。
エイレン
この世とあの世の狭間を渡る首無し騎士。色々と説話のある存在だが、彼女は自分自身の事に余り頓着していない。
物理法則に縛られておらず、壁抜けや短距離の転移、重力を無視した起動を行う事が出来る。また、厳密に生きている存在では無いため全身がバラバラになろうと死ぬ事は無い。不死性だけならばメノウやテンすら上回っている。
剣の腕は相当であり、戦車の正面装甲すら切り裂いてのける。それでも大戦期の兵器相手では分が悪く、時折無謀な依頼に挑んではボロボロになって帰ってくる。
機械類全般の操作が苦手であり、一人では依頼の確認も満足に行えない。その為、他のギルドメンバーと共に行動することが多い
ネオン
人魚或いはローレライ、セイレーン。古くからそう呼ばれてきた存在。
ではあるのだが、彼女の生まれがかなり最近であり、文明が崩壊した後ではそんな事を気にする人間もいない為、彼女自身自分がどういう存在なのかは余り気にしていない。
下半身が魚である為陸上での行動に向かず、専用の車椅子で行動している。だがそれでも自由に動けるとは言い難い為、他のメンバーと行動することが多い。
WDG-404 スパイダー
大戦期に製造配備された強襲浸透装甲多脚戦車。
設計思想として浸透戦術を念頭に置いており、電波、振動、音響等に対する極めて高いステルス性とモニタージャミングによる間接視認対策、時速二百キロ以上の速度性能とその上で無音を保つ静音性能を有する。
これらを用いて敵警戒網を搔い潜り、後方拠点を直接襲撃する戦術兵器として運用された。
また、性質上多数での運用を想定していない為、一機当たりの攻撃性能を高めており、正規軍戦車四十両以上の破壊、制圧性能を有する。