偽善
――体が動かない。
俺はこれが女神が与えた『呪い』によるものだということを理解した。
恐らく俺が本心から少女を見殺しにすることを望んでいたなら体が勝手に動き少女を助けていたのだろうと。
そしてこの状況――ではなく自分自身に苛ついていた。
『俺は少女を弟に重ね、助けることによって罪滅ぼしをしようとしたのか?』
少女を助けたところで弟は帰ってこない。
『これはただの偽善だ』
俺は偽善者が嫌いだった。
俺は俺が偽善者になることを許さない。
「……おい、化け物」
「あ?なんだ?先に死にたくなったか?」
「その手を離せ」
「何言ってんだお前……こいつ殺したら殺してやるから大人しく待ってろよ!」
「……殺すぞ」
「っ!」
化け物は殺気を込めた一言に、思わず手を離した。
「なんだお前!人間の分際で!お前から先に殺してやる!」
化け物は鬼の形相で殴り掛かってこようとしていた。
――その時だった。
「待て」
ギャラリーの中から黒髪の女が突如現れそう言い放った。
「……リリス様」
「その人間こちらに引き渡してもらおうか」
「……なぜですか?」
「なぜとは?」
「……この町に入った人間は殺す決まりではないのですか?」
「そうだな」
「……ではなぜ?」
「急遽人間が必要になった。だからその人間をこちらに引き渡してもらいたい」
「……そういうことなら……わかりました」
「すまんな」
リリスは少女を抱きかかえ拓也の元へと近づき詠唱を唱えた。
そして一瞬で自身の城へと移動した。
「ついてきてください」
リリスはそう言い少女を担いだまま城の中へと入っていった。
拓也はリリスに大人しく着いていくことになった。
そしてリリスは二人を部屋に招き入れ少女に治癒を施し始めた。
「……よかった、大丈夫そう」
一通りの治癒が終わったリリスは安心したような顔でそう呟いた。
「なにか言いたげな顔ですね?」
リリスは不服そうな顔を浮かべている拓也にそう告げた。
「質問があるなら答えますよ。何でも聞いてください」
「……なんで俺たちを助けた?それにお前は何者なんだ?」
「当然の疑問ですね。お答えしましょう。」
「私はリリス。魔王サタンにこの領土を任されている四天王の一人です。」
「四天王?」
「はい。」
「俺たちを助けた理由は?」
「……元々この地は人間と魔族が共に暮らしていたんですが、魔族が気まぐれに人間を殺すから居住区を分けることにしたんです。」
「……私は人間に死んで欲しくないのです……」
「回答になっていないな。それにお前は俺たちに隠していることがあるな」
「……」
「お前は救おうとしているようで何も救えていない」
「……そうかもしれませんね」
「――あのー……」
拓也たちが話していたところに目を覚ました少女が申し訳なさそうに割り込んできた。
「お目覚めになられましたか。良かったです」
「……あの助けていただいてありがとうございます?」
「いえ、お気になさらないでください。」
少女は気を失っていたようで何があったのか理解していないようだった。
「それで?お前は俺たちをどうするつもりだ?」
「……そうですね、どうしましょうか……」
「何も考えていなかったのか?」
「……」
「なら今までのように俺たちを他の四天王とやらに引き渡せばいい」
「……」
「っ!ど、どういうことですか!?」
少女が慌てたように俺に問いかけてきた。
「お前はさっき『魔族が気まぐれに人間を殺すから居住区を分けることにした』と言ってたな」
「……」
「お前はその意見を通すために、定期的に人間を出荷することを魔王と他の四天王、領民たちに約束したな?」
「……その通りです」
そしてリリスは懺悔するように二人に語り始めた。
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