覚醒
町にたどり着いた俺たちは少女の家に向かっていた。
『――まるで外国だな』
俺は本で見たヨーロッパの風景を思い出していた。
「あの……」
俺に背負われている少女が不安そうな声で俺に話しかけてきた。
「この町は魔族しか入ってはいけないのですが……」
……なるほど。
確かに見渡す限り人間っぽいのが少ないな。
人間っぽいそれもよく見たら角が生えていたり尻尾が生えていたりしていた。
俺はテレビで見たハロウィンを思い出していた。
「ちなみに人間がこの町に入ったらどうなるんだ?」
「……殺されます」
少女は声を震わせながらそう告げた。
「どうして町に入る前に言わなかったんだ?」
「……眠っていました」
寝て起きたら町に入っていたわけか。
「お前の住む人間の町とやらは、この町を超えたところにあるんだろ?」
「……はい。……あの知らなかったんですか?」
知っているわけがない。
そもそも俺はこいつの住む町すら知らなかった。
ただひたすらに目的地に向かって歩いていただけなのだから――
「おい!そこの人間!」
――早速見つかったみたいだな。
「なぜ人間がここにいる?」
『一つ目』の大男?が俺たちに近づいてきた。
「人間ここで何をしている?」
背負われている少女は何も答える様子はなくただ震えていた。
『これは間違いなく殺される流れだな。』
俺は死を受け入れそっと目を閉じた。
「……あの……お……降ろしてください」
震える声で少女はそう言った。
俺は言われるがままに少女を地へ降ろした。
全てを悟ったように少女は笑い、目の前の化け物に向き合った。
「ボクたちは人間の町へ向かっていました……とても急いでいたので近道をするためにこの町を通っていくことにしました……でもそれはボクが決めたこと……この人は悪くないんです!」
――どうやらこいつは俺を庇う気でいるらしい。
そんなことをする必要は全くないのだが。
それにそんなことで目の前の化け物は俺を許すことはないだろう。
「……わかった。ならお前から殺す」
「っ!」
「お前を殺した後、お前の父親も殺す」
やはり目の前の化け物は俺を許すつもりはないらしい。
それにしても父親とは俺のことだろうか?
「……この人は関係ありませんし父親でもありません」
そう俺は25歳独身だ。
「そんなことは関係ない。この町に入った人間は殺す」
取り付く島もないな。
この化け物に殺されるのは釈然としないが見逃してもらう理由もない。
「おい、そっちの人間。なんでお前は一言も喋らない?」
「……」
「あまりの恐怖に話すこともできないのか」
「……」
「このガキに免じて、命乞いすればお前だけでも助けてやろうか?」
「……」
こいつからは悪意しか感じられない。
仮に俺が命乞いしたところでこいつは間違いなく俺を殺すだろう。
それに俺には命乞いをする理由がない。
こんな茶番に付き合うつもりは一切ない――
――なので俺は土下座をすることにした。
「お願いします。命だけは……命だけは……」
なんという屈辱だろうか……
俺は命乞いをされたことはあるがしたことは一切ない。
しかもこんな不細工な化け物相手に……
沸々と怒りが込み上げてきた俺は更に全力で土下座をする。
「命だけは!命だけは!どうか見逃してください!」
化け物はその様子を見て腹を抱えて笑っている。
周りにいたギャラリー共も最高潮の盛り上がりを見せ始めた。
俺の怒りは限界を突破し次の形態へと移行を始めた。
――土下寝だ。
俺は漫画で見たその姿を思い出していた。
「……お前何をしている?」
俺にも分からない。
どうやらこの世界に土下寝の文化はないようだ。
化け物はドン引きし、周りのギャラリーもざわついている。
少女は一応俺を見ているが、何とも言えない表情をしている。
――早く殺してくれ……