奇跡の出会い
気がついたら俺は森の中にいた。
恐らく女神によって異世界とやらに召喚されたのだろう。
異世界とやらを救う気はないし、ダラダラと生き抜くつもりもない。
俺は『このまま森の中で餓死しよう』そう考えた。
「――とりあえず食べ物を探そう」
俺は森の中で食料を調達することにした。
しばらく探索していると、如何にも怪しげなキノコを発見した。
これを食べれば死ぬんじゃないかと思った俺は、そのキノコを食べないことにした。
その後、半日ほど探索したが食べられそうなものは見つけることができなかった。
森の中は、すっかり暗くなりこれ以上の探索は危険かもしれないと考えていたところで、俺はあることに気がついた。
「……」
「なぜ俺は森を探索しているんだ」
俺は『このまま森の中で餓死しよう』そう考えていた。
そう考えていたはずだった。
だが実際には半日もの間、森で食料を探し回っていた。
俺は他にもおかしな出来事ことがあったことに気がついた。
森で見つけた如何にも怪しげなキノコ。
なぜ『これを食べれば死ぬんじゃないかと思った』のに食べなかったのか。
それに探索中に俺は、ライオンのような獣を発見していた。
一目で危険を察知した俺は気配を殺してその場から逃げ出した。
『あの時、キノコを食べていれば死んでいたんじゃないか?』
『あの時、獣の前に姿を現していれば死んでいたんじゃないか?』
俺は『自分が自分でない』そんな感覚に陥っていた。
なぜそうした?考えてもわからない。
そして、俺は考えることをやめて眠りについた。
――目覚めると、金髪の少女が俺をのぞき込んでいた。
少女は心配そうな目でこちらを見つめ問いかけてきた。
「……大丈夫ですか?……」
この世界に来てから出会った初めての人間。
服はボロボロで体はやせ細っている。
俺は関わりたくなかったので無視することにした。
「……この森には魔獣がいるので、人だけで入るのはとても危ないんです!」
少女はとても心配している様子で、無視する俺に対し強く訴えかけてきた。
しかし、俺には関係のないことだ。
俺は危険を承知でここにいる。
だがそうなると一つの疑問が生まれる。
「お前はなぜここにいる?この森は人だけで入るのは危ないんだろ?」
「……わかりません」
「あ?」
「……わからないんです。でも森に入れば救われるって……」
「誰に言われたんだ?」
「……わかりません。頭の中で声が聞こえて……」
「……」
俺は『このガキ薬でもやってんのか?』とも思った。
ともかくこれ以上話すことは何もない。
「俺に関わるな。その声と俺は何の関係もない」
「……そうですか……」
しかし少女は一向にこの場を離れようとしない。
「まだ何かあるのか?」
「……あの……この森から出られなくなってしまって……」
少女はどうやら迷子になったらしい。
「……その……ご迷惑でなければ森の外まで一緒に来ていただけませんか?」
とても迷惑だ。
なぜ俺が得体の知れないガキを助けなければならない。
当然俺は断ることにした。
「……わかった」
「……!ありがとうございますっ!」
「……」
俺は今何と言った?
『わかった』と言わなかったか?
「でも本当に……ご迷惑ではありませんか?」
「大人が子供を助けるのは当たり前のことだ」
――誰だこの善人は?
少女が野垂れ死のうが俺には関係ないはずだ。
「ついて来い。俺がお前を家まで送り届ける」
「わかりました!」
……なんだこれは。
「あの……お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
教える筋合いはない。
「天沢拓也だ」
「拓也さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
よろしいわけないだろ。
「好きにしろ」
「ありがとうございます!」
「……」
全くもって乗り気ではないが、俺は少女の家の方角へ足を踏み出しこの森を抜けることにした。
道中、少女が辛そうに歩いていることに気が付いてしまい俺は少女をおぶっていくことになった。
魔獣とやらにも出会えることはなく俺たちは森を抜け、町までたどり着いた。