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33 急な訪問者

『エリノアも早く認めてしまいなさい』


 ジュリアにそう言われてから数日後、ウィルフリッドから手紙が届いた。

 エリノアがカレンデム公爵領に来てから、2人は10通近く手紙のやり取りを続けている。それもその筈で、エリノアがカレンデム公爵領に来て3ヶ月が過ぎていた。


 ウィルフリッドからの手紙には決まって、“寂しい”と“逢いたい”の文字が書かれている。


 婚約して以来、エリノアとウィルフリッドがこれほどまでの期間を会わずに過ごすのは初めてのことだった。だからなのか、気が付くとエリノアの頭にはウィルフリッドが浮かんでくる。


 殿下は今何をして過ごしていらっしゃるのかしら?

 これだけ会っていなくても、まだわたくしを想って下さっている?


 エリノアに対する好きの気持ちが文字で書かれているのを眺めるだけでは、どうにも落ち着かず、エリノアは不安になっていた。そして母の言葉が思い返される。


『直前まで『また来る』と言っていた人が、何の連絡もなしに来なくなった。そのことが心配になってきて、毎日訪問客が邸を訪ねてくる度に、“あの人が来たんじゃないか”って、期待して、がっかりして。……わたくしは自分が思っていたより、あの人に逢えないのを寂しく感じていることに気付いたの』


『恋はね、気付いたときには落ちているものなのよ。最初は“そんな筈ない”って、意地になって認められない。でも、本当は薄々気付いている。それなのに自分の気持ちを認めたくないだけなのよ。きっと、それまでの自分とは変わってしまうようで怖いのね』


 あぁ、そうなのだわ。わたくしは殿下に逢えなくて、寂しくて不安なのだわ。


 他にお慕いする方が出来てしまっていたらどうしましょう。と、ナターシャがウィルフリッドと共に過ごしていた頃よりもずっと、気持ちが不安になっていた。それは、エリノアがウィルフリッドのことを好きだからこそ、湧き上がってくる気持ちだった。

 だからだろう。エリノアは初めてウィルフリッドへの手紙に“寂しい”と、“逢いたい”の文字を書いて送った。


 その数日後、カレンデム公爵領の邸は朝から騒がしかった。


「エリノアお嬢様!!」


 バタバタと使用人が廊下を走ってきたかと思うと、急かすようにエリノアを呼ぶ。入出を許可すると息を切らした使用人が部屋に入ってくる。


「そんなに慌ててどうしたの?」

「それがっ、ウィルフリッド王太子殿下がこちらのお邸にいらっしゃるそうです!!」

「……えっ?」


 殿下が? このお邸に??


「公爵領に入った所で早馬が知らせに来たのですが、もうすぐそこまで来ているのだとか! お忍びのようですが、公爵領のお邸に王太子殿下がいらっしゃるのは初めての事なので、旦那様も奥様も色々と確認に追われていらっしゃいます! ひとまず、エリノアお嬢様はご支度を!!」


 使用人の知らせを聞いてエマが迅速に動き出す。

 寝起きのエリノアはネグリジェから着替え、エマが髪を梳かしてセットする。それらを一通り終えた頃、またバタバタと使用人がやって来て、ウィルフリッドの来訪を知らせた。

 急ぎ足で部屋を出たエリノア。広い玄関ホールへ続く階段を降りると、扉の前に両親と挨拶をするウィルフリッドの姿があった。


 たった3ヶ月、されど3ヶ月。ほぼ毎日のように会っていたはずのウィルフリッドの姿はいつもと違って見える。元々整った顔立ちのウィルフリッド。その婚約者がエリノアには更にカッコよく見えた。エリノアの胸にじんわりと温かいものが込み上げてくる。

 きっとこれは愛しいと想う気持ちだと、エリノアは気付く。


 ずっと逢いたかった。


 いつの間にか、エリノアはそう強く願っていたのだ。

 エリノアが出てきた事に気付いたウィルフリッドは、レイモンドたちに一礼すると真っ直ぐエリノアの元へやってくる。


「っ、ウィルフリッド殿下」

「エリノア」


 エリノアは自分でも良く分からないうちに泣きそうになっていた。どちらからともなく歩み寄ると、お互いに抱きしめ合う。


 ウィルフリッドはエリノアの体をすっぽりと包み込み、エリノアはそれに甘えてウィルフリッドの胸に顔を埋める。久しぶりに近くに感じる愛おしい人の温もりは、とても心地よくて温かくて、幸せだとエリノアとウィルフリッドは感じていた。


「急に訪ねてこられるなんて、どうされたのです?」


 エリノアが尋ねた言葉にウィルフリッドは更にエリノアを強く抱きしめると、口を開く。


「エリノアからの手紙を読んだんだ。君が初めて“逢いたい”と書いてくれたから、嬉しくて居ても立っても居られなくてここまで来てしまった」

「えっ!?」


 まさか、それだけの理由で!?


 驚いたエリノアがウィルフリッドの胸から顔を上げると、碧眼の瞳と目があった。


「駄目、だったかな?」


 コテンと少し傾げられた首。


 あぁっ! 殿下、それは反則です!


 整った顔立ちの婚約者は、言葉と態度でエリノアの気持ちを即座に掴んだ。熱くなっていく頬を感じながらエリノアは返す言葉を探す。


「だ、駄目というか、……えっと、その……っ、…………駄目、……じゃないです」


 その時、ゴホン! と咳払いが響く。エリノアがハッとしてそちらに顔を向けると、レイモンドが少々不機嫌な表情でこちらを見ていた。その隣のジュリアは「まぁまぁ、青春ねぇ」とこの状況を愉しんでいる。


 そんな両親を目にして、今度は恥ずかしくて別の意味で顔が赤くなるエリノア。


「久しぶりだから積もる話もあるでしょう。2人でゆっくり話してらっしゃい」


 ジュリアの計らいでエリノアとウィルフリッドは応接室へ移動することになった。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

いいね、ブクマ、評価、感想など、いつも皆様の応援が励みになっております。

本当にありがとうございます!


さて、遂に「あくたび」最終話の下書きが終わりました!

完結まで引き続き、応援よろしくお願いします。

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お読みくださりありがとうございます!
◇このお話しのもう一つの物語はコチラ
悪女だって愛されたい〜処刑された筈の伯爵令嬢は現代日本に異世界転移する~
◇新連載始めました!!
婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!
面白そう!と思っていただけましたら、どちらの作品も読んでみていただけると嬉しいです!
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