【96】突入(後編)
この決して明るくはないトンネルをどれほど進んだのだろうか。
何処まで行っても一向に変わらない景色のせいで感覚がおかしくなってくる。
地上・地下どちらに向かっているのか、あるいは左右どちらにトンネルが曲がっているのかさえ分からない。
「すまない、ここからはまた俺が先頭に立つ」
「頼みますよ。あなたの先を見通す力が必要だ」
殿を務め上げたライガはすぐに乗機パルトナ・メガミを加速させて味方と合流。
護衛対象であるフランシスら白兵戦要員が乗る全領域作業ポッドや僚機の間をすり抜け、再び編隊の先頭に就く。
進行方向の状況が不明瞭な場合、最高の対応力を持つ者が先行することは理に適っている。
「このままシンプルな通路が続けばいいんだが……」
「……いや、そうは問屋が卸さないかもしれない」
ライガが珍しく愚痴を漏らしたその時、リリカは愛機νベーゼンドルファーのレーダーで多数の敵性反応を捕捉する。
「くそッ、また多脚戦車の群れだ! 相変わらず数だけは多いぜ……!」
「マズいぞライガ! 先程の撃ち漏らしが後方から来る!」
通路の壁と天井まで埋め尽くす規模の敵部隊にライガが悪態を吐いていると、今度はポッドの直掩に就くルナールからも敵部隊接近の報告が寄せられる。
閉所での挟み撃ちは最悪の展開だ。
「機数――くッ、多すぎます!」
「正確に報告しろ!」
「最低でも20!」
同じく直掩を担当するクローネは敵機を数えようとして言いよどむが、上司のライガに怒鳴られたため最低限確認できた数を伝える。
「こっちはその倍はいるんだぞ!」
それを聞いたライガは前衛はその倍――40機以上の多脚戦車と対峙していると言い返す。
「前門の虎、後門の狼――というわけか」
この危機的状況には冷静沈着なレカミエも険しい表情を浮かべざるを得なかった。
◆
「……みんな、今度は全機の最大火力を以って敵を制圧する!」
いずれにせよ、今回も敵戦力をある程度排除しなければ道は切り開けない。
そう判断したライガは前後から迫る敵機に対処すべく、5機のMFの総攻撃で圧倒することを命じる。
「全機だって?」
「前方は俺とあなたとレカミエ、追っ手はルナール先輩とクローネで火力を集中させて叩く!」
一回だけとはいえ全機をアタッカーに回すことを訝しむリリカの言葉を遮るように配置を指示するライガ。
指揮官には時として指示を押し通す強引さも必要だ。
「確かに敵を残すとまた包囲されるかもしれないね」
事実、後方の敵と睨み合っているルナールは"リーダー"の判断を全面的に支持していた。
「レカ、もう一度いけるか?」
「ええ……運用データの蓄積とメカニックたちの努力で信頼性は向上していますから」
リリカは年下の同僚レカミエに機体の消耗について尋ねるが、当のレカミエは"問題無い"と自信を持って答える。
彼女の乗機νベーゼンドルファー(Vスペック)は今回のメンバーの中で最大瞬間火力を出せる機体の一つである。
「今度は俺とリリカさんも一斉射撃を行う。タイミングは俺に合わせてくれ」
「了解」
「こういう場所じゃ使い勝手が悪いけど……仕方ない」
ライガの指示を受けたレカミエとリリカは先程と同じように横一列に並び、じりじりと間合いを詰めてくる敵部隊と相対するように布陣する。
「いけ! "オルファン"!」
音声認識システムをオンにしたリリカが叫んだ次の瞬間、強化型νベーゼンドルファーは背部スタビライザーから6基のオールレンジ攻撃端末を射出。
高度に電子制御されたバーニア噴射によって1Gの重力下でも姿勢をコントロールしつつ、母機に当たるイタリアンレッドのMFの周囲に展開する。
閉所では三次元的な攻撃はできないが、火力を底上げする浮遊砲台としては役に立つはずだ。
「その武器は横方向に攻撃範囲が広く、面制圧を得意としている。その特性を上手く使いたまえ」
「奥さんの機体には詳しいですね……でも、ありがとうございます」
また、後衛のルナールとクローネもそれぞれの乗機の射撃武装を構えて攻撃態勢に入る。
前者のスードストラディヴァリウスは4砲身ガトリングガン、後者のシン・フルールドゥリスは多銃身拡散レーザーライフルを最強の射撃武装としていた。
◆
「3、2、1――!」
2丁の専用長銃身レーザーライフルと2門の腰部可変速レーザーキャノンを前方に向け、一斉攻撃のカウントダウンを開始するライガ。
「「……」」
それを聞きながらリリカとレカミエは操縦桿のトリガーに人差し指を掛け、静かに攻撃タイミングを待つ。
「――ファイアッ!」
「「ファイアッ!」」
そしてライガが号令を下した次の瞬間、リリカとレカミエも操縦桿のトリガーを引く。
射撃戦を得意とする3機のMFから放たれた大小様々な蒼いレーザーによる弾幕が敵部隊に襲い掛かり、その胴体を光の速さで次々と射貫いていく。
「こちらもやるぞ! ファイア!」
「ファイア! ファイアッ!」
一方、ルナールとクローネも射撃武装による一斉同時射撃を開始。
ガトリングガンと拡散レーザーライフルから鬼のようにバラ撒かれる弾丸及び蒼い光線が敵機を蜂の巣にしていく。
「やったか……!?」
5機のMFの総攻撃で破壊された多脚戦車たちの爆発炎上でトンネル内に煙が充満する中、ポッドの副操縦士席に座るフランシスは視界が回復するのを待つ。
「後方の追っ手はほぼ殲滅した! そちらはどうだ?」
まず、機体のマニピュレータで煙を払ったルナールはレーダー画面上では動く敵性反応は無いと報告する。
「こっちも一網打尽にできたぞ! さあ、先に進もう!」
前衛のリリカも進路上の脅威は排除できたと判断し、今のうちに一気に前進することを提案する。
「前衛は残敵を抑えろ! その間にポッドは直掩機の援護を受けつつ前進!」
視界不良の中でもライガは積極的且つ的確に指示を出し、リスクとなり得る敵機を掃討しながら護衛対象のポッドと直掩2機を先に動かす。
「了解! 引き続きエスコートを頼む!」
ポッドの操縦を担当するステファニーは巧みなテクニックで敵陣を突破。
直掩機との位置関係を意識しながら煙の中を抜けるのだった。
◆
本日2度目の戦闘を切り抜けたスターライガチームは再び合流し、どこまで続いているのか分からないトンネルをとにかく進み続ける。
「パルトナよりフルールドゥリス、後方からの追撃はあるか?」
「いいえ……今のところは確認できません」
編隊の先頭を飛ぶライガから報告を求められたクローネは"敵性反応無し"と答える。
「分かった。とりあえず窮地は凌いだと言ったところだな」
「しかし、『二度あることは三度ある』とも言う。そろそろ敵も本腰を入れて迎撃してくるだろう」
その発言を受けたライガは少しだけ肩の力を抜くが、ルナールが指摘している通りまだまだ油断はできない。
「今までは手を抜いてたってか? あれを超える物量作戦で来るのは勘弁してくれよ」
スターライガチームの最年長MFドライバーの一人にして、持続性に優れた集中力を持つリリカも護衛対象を伴いながらの連闘はさすがに堪えているようだ。
「ッ! 前方はトンネルが広くなっているみたいです!」
だが、危険なトンネル飛行は突如終わりを迎える。
照明設備の配置間隔の変化からレカミエはトンネルの終点が近いことを悟る。
「……広い空間で網を張っている可能性もある。全機、警戒を怠るな」
編隊の先頭――最も危険なポジションのライガはあらゆる可能性を考慮しつつ、これまでよりも明らかに幅広い区間を一気に翔け抜ける。
「広い! まるでジオフロントみたいだ……!」
トンネルの終点の先には地面が視認できず、極めて広大な地下空間が広がっていた。
この風景をリリカは祖国オリエント連邦にいくつか存在する地下都市"ジオフロント"に例える。
「みんな、アレを見たまえ! ――巨人なのか……!?」
他方、地下空間の中央付近に移動したルナールは別の事柄に驚愕していた。
彼女の乗機スードストラディヴァリウスのマニピュレータが指し示す先には、MFよりも遥かに巨大な人型構造物の威容があった。
【ジオフロント】
地下空間に造成された都市のこと。
洞窟などを利用する小規模な地下集落は古代にも存在したが、現代では都市計画に基づく大規模なプロジェクトをジオフロントと呼称する場合が多い。
諸外国と異なりオリエント連邦は「天然の地下空間や廃鉱になった坑道が多数存在する」「地盤が非常に強く地震の頻度も少ない」「豪雪の完全回避というメリットで国民の理解を得やすい」といった有利な条件が多数揃っているため、世界で唯一ジオフロント開発を積極的に進めている。




